考えて、考えて、考えてーー抗う事の代償
巨大な影に叩き潰された俺は、バラバラになってしまった。心が…という事だけじゃない
、身体も
自分の軸がぶれ、思考は散漫に、そして何より肉体の制御が効かない。慣れない感覚…
はこれで何度目のことなのか、
この世界での俺は波乱万丈だ。目まり苦しく変わり続ける状況に翻弄されながら、その都度考え、切り抜ける。今回も同じことだ。
まずは状況把握からーー俺は何処にいるのか?答えは複数だ。バラバラになり破片として各所に散らばる。
次は考えるーー何をすればいいのか?さっきから分かりきっている、相手の殺意の範囲から逃げなければ、死なないために。
ーーそのためには?自分を制御できない、その原因はバラバラになったこと。ひとつずつ動かせば…何とかなるかも知れない、
そして、ひとまとまりに戻れば、逃げることができる
実行するーー視覚の時のように、神経をひとつに集中する。重荷が外されどんどん負荷がが少なくなり、それを最小単位まで…
その努力の結果、念願が叶い、破片のひとつだけを制御下に置く
そのひとつの破片を動かし、他のひとつのほうへ身を寄せる、
移動方法は這い這い(はいはい)這う分には足が無くても、身が小さくても大丈夫、ただ遅くなるだけで、
最も近い破片との接合に成功し、次の破片を求める、もうひとつ分大きくなったので、体は約二倍、体長の分移動速度も二倍、身体複合計画は加速していく。
次へ、また次てと結合していき残すところ、あとひとつ、その時だった、
大いなる脅威を忘れていたことに気づくのは
ーーーシュッー聞き覚えのある音がしたのは
頭上からはまたも鞭、死んだ筈の俺は破片から巨大化することでヘイトを集め、殺意は再点火、俺は、またも危機に直面
でも学習してるんだぜーー先程の攻撃パターンを分析し、この段階なら逃げ道が一つ残されてることに気づく。
あの広範囲攻撃を避けられるわけが無い、ならば、どうする?俺ならこうする、避けられないなら耐えればいい。盾ならあるじゃないか、
さっきの攻撃を耐えられる盾、それは…床だ。足元に目を向ける。攻撃に耐えた床そこにあり、俺が埋められていた汚い山、その麓に今立っている。この山は掘って出てきた。ならば掘って隠れられる筈、。
猶予はないので、すぐに実行に移す。
足元に全身を使って全力で擦り削る。慣れた手つきで掘り進め、下へ下へ。
今回ばかりは正解を選んでしまった。そう思うが、さっきがあるので、決して手は抜かない。
だいぶ底まで来たので状況把握ーーー肉体制御の意識を外部に向ける、土の中の本体の意識は切り、残しざるを得なかった我が破片に神経を集中。
主導権を握り、矮躯を酷使し、殺意のもとへ這い這いする。
攻撃対象の本体の動けぬままの放置は、リスクが大き過ぎる。
だが、それ以上の見返りが、
相手はいとも簡単に予想外に動く。それに対しての対抗手段。
ーーやらずに後悔するよりも、やって後悔したい。
俺がここでの経験から学んだこと。
何度も諦めかけた、それでも死ななかった。だから大丈夫。なんとかなる。
集中力を凝らして、殺意まで猛突進。
目がない俺にはよく見えないが、雰囲気くらいは十分伝わる。そして、今までのように、視覚に意識を集中。意識が集中された身体が更に集中力をふりしぼり、限界まで目に全身全霊を込める。いつものように動機は死なない為に。
この世界では全力しか出してない、集中するのは、もう慣れた。だから今回は過去最高の集中力を発揮できる。
神経や意識、生命力すらも全力で削る、見る為に、
命を懸けた視覚強化、足りないものを補った結果、何が見えたか?
ーーそれは?正体は?
茶色い物体、液体とも個体ともつかぬそれは、俺と同じく手も足もない、その代わり身体を器用に操り、本体を支点に、形をつくる、
さっきまで、鞭であったそれは先端が巨大化、今も先端に向かって本体から物体の質量を送ってる。
鞭の役割を果たしてた、太かった紐は、もう一回り太くなり、波が伝わるように収縮の伝播を繰りかえす、そればポンプのようで、一方的に流れた水は、
その影が覆う汚い山と同じサイズまで、茶色い物体を膨らませる。
互いに汚く、大きさは同じ、重さも近いだろう。違うのは上下関係のみで、上の茶色い物質が落ちれば下の土山はペチャンコに潰されるだろう。それ程までに大きくなる為にこれほどの時間を費やしている。
本体が遅れる水は残りわずかで…
もう少しで山が危ない…という事は、
盾は役不足、俺は山ごと押し潰されるのでは?
俺は今、危険度が上がり、再び焼き切れる程、脳をフル回転。死ないこと、それを最終目標に、再び策を練る。状況を把握でき、役割を終えた我が破片は意識を本体に戻す。思考はそれから、
潰す予定の山は決まっている。ーーならば、盾を鞍替えすれば、隠れてる場所が変われば相手の攻撃は、無意味になる。
ーーならそうしよう、とそう話は簡単ではない。山から山に移動すれば、確実にバレる。山と山の間には距離があるので時間は掛かる。
そうなれば、山という名の盾を捨てても、丸腰の俺がまた、叩かれるだけ、
ーーどうしよう?、いや話は案外簡単かもしれない。経験を活かすんだ。敵は、攻撃の主は、大きい本体の俺に攻撃しても、小さい破片の俺には全く気づかなかった。たとえバラバラ修復作業をしていてもだ。
俺は小さくなれるのか?もし成れるのなら、手は打てる。小さくなった俺は二手に分かれて、もぐる、山の盾を変える。幸い相手は巨大化に集中していて小さい俺に気づく余裕はない筈だ。
ならば実行以外に選択肢はない。ベストを尽すしか無い。
ただ、体を分解する方法はあるのか?ーーそれを模索するのが先、自分を分解するだと…難しい、少なくとも俺の世界でそんなこと出来る多細胞生物は見たことがない。
待てよ…初めから分解しようと考えるから難しくて、身近な例に当てはめれば…他人の体を引き千切って分解する事は出来るから、それを自分で自分にすれば…そうだ、自分を分解するにはまず自分の形を変える必要があるのか?
そして、俺はそれが出来るのではないか?心当たりがある。俺が這う時、跳んだ時、埋まってた時だって、状況に応じて、手も足もない骨格もない変幻自在の俺の身体は、適応して来た。
今までは無意識にできたそれを自分でやれば、身体の形を変えられるだろう。
実行ーーーー
細くなった所を千切るために、まずは体長を長く伸ばしたい。
が、なかなか思い通りにはいかない、
下半身は平らに、上半身は角張り、ゴツゴツになる。
自分の形を変えたいという命令が別方向に発揮され、取り敢えず形だけ変わる。
変えることはできた。これに活かせることは…いや、現状を活かせ、慣れてる暇なんてないんだ。
ゴツゴツも極めれば、千切れるはず、
考えるな、願え、
ーー変わりたい、千切れたい。
願いの密度はどんどん濃くなり、上半身の角張りの彫りがどんどん深みを帯びていく。そして、彫りが中心へ到達、上半身だけ細かくバラバラになる。
それから、さっきと同様、上半身の破片のひとつだけを制御して、次々もくっつき、高速で上半身のパズルを完成させる。
こうして俺は下半身と上半身に分断できた。
!準備が整ったので、作戦を開始する。
まず制御下にある上半身を右に旋回、そして、掘り進める勿論高速で、
掘って掘って山から出た後、またも高速で地を這い、最寄りの山へ即突入、少し奥までは掘り進め、最低限の安全を確保、
したからって安心できない
即、意識を切り替え下半身を制御、上半身が開けた穴を通り、上半身がいる山へ向かう、
そして、上半身の元に辿り着く
だが、まだ安心出来ないので互いにくっつかない。
そして、まだ終わらない。制御を殺意の近くの我が破片へ向け、相手の状況を観察。
目を凝らして見えたものは、さっきに増して残り少ない本体の質量。極限まで溜めるつもりが窺える。本体の大きさは攻撃までの時間を物語っており、そこから伸びるポンプで繋がれた。本体より大きな武器は、標的の山は変えていない。作戦の経過は良好だ。
そして、攻撃までの時間を予測。あと、1分ぐらい。直前までここで見守る。
6…5…4…さーー〈ドカッ…ドカーン、チ、チチチ
高威力な攻撃が山を割り、衝撃波までだして山の土台の地までもをえぐる。
だが、作戦は成功。いくら威力が高くても、攻撃範囲から外れてれば、ダメージは喰らわない。
この達成感、つい浮かれてしまう。のも束の間、攻撃の代償が支払われる。
〈ドカッ、ジャー、ジャージャージャージージー・・・・・
再びの爆発音が引き金となり、降り注ぐ音が木霊するのだった。
これはあの時の感覚。死亡フラグであり、トラウマである。
防壁を失うことで、津波が山々を飲み込む。
ーーまた、死ぬのかよ
ウリンは抗いながら流された。
また、失敗した。