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守谷くんは夢見がち

投稿が遅れてしまい申し訳ございません。

翌朝。


教室の窓際最後尾に座る一人の男が、頭を抱えて項垂れていた。




はい、俺でーす。守谷郁男でーす。


昨日勢いのまま、天上院結愛に告白してしまった俺でぇぇっす。



「うおああああああぁぁぁっ」



あぁぁぁぁ!思い出すだけで恥ずかしい。叫ばずにはいられない。


今の俺の心情を一言で表すならば、



――ど う し て こ う な っ た 。



自分のオタクを誤魔化そうとしてとっさに出た一言が「付き合ってくれ」とか、もういろいろとぶっ飛びすぎだろ!いったいどうしたんだよ昨日の俺!


あの時の俺の思考回路は完全にイかれていたとしか思えない。



「ねぇ、もりお?」



冷静に、客観的に昨日の自分を省みてみよう。そもそも、どうしてオタクを誤魔化すための一言が愛の告白という暴挙へと直結したのか。


『そうだ、俺は天上院さんが好きそうなラノベを探してたことにすればいいいじゃん』

→『天上院さんと話すきっかけを探してたって理由にすれば不自然じゃない!』

→『あれ?でも、天上院さんと話しをしたい理由ってなんだ?』

→『そうか、俺が天上院さんのことを好きってことにすればいいんだ!』

→『よし、告白しよう!』


――おかしいだろその理屈はぁぁぁ!!


前半は、まだいい。機転が利かない俺にしてはよくとっさに考えついたと思う。


問題は、上から3番目の矢印…どうしてそうなるんだよ!友達になりたかったとか、ちょっと不思議な子だから興味が湧いたとか、なんかこう、他にも選択肢はあっただろ!


そして、あまつさえ最後の矢印…いったい何があったんだよ!その一文字分の矢印の間にもっといろいろと詰め込むものがあっただろ!なに一文字で済まそうとしてるんだよ!端折りすぎだよ!



「もりおってばぁ」



はぁ、本当に、どうしてあんなことになってしまったのか。


…正直、天上院さんに勢いで告白してしまったときに俺が言っていたことの半分は本心であったことは確かだ。


天上院さんと話してみたかったとか、目で追っていたとか、それは確かに事実だった。オタク同士的な意味で。


オタクを隠さずに堂々としている彼女の姿をカッコいいと思っていたのも事実だ。


俺は自分のオタクを隠して生きていこうとした決断を、後悔していない。


だがそれと同時に、俺は自分が本当に好きなものを、自信をもって好きだと公言するができなくなったことも、理解している。


それを、逃げ、と言われても反論することなんてできない。


だから、自分が断念した道を歩いている、胸を張って自分はオタクだと言い切る天上院さんのことを、尊敬はしている。


だけど、だ。


それらはあくまでオタク仲間的シンパシーや尊敬の念であって、決して好意があったとかまして付き合いたいとか考えていたわけでは微塵もない。


別に地味っこが好きなわけでもないしむしろ俺はギャルっぽい恰好をした子の方が好みであって、だからこそ変わろうと決意したときにギャルとお近づきになれるかなぁ、なんて下心からチャラ男をチョイスしたわけで。


そんなことだから俺はいったいどうしたらいいのかとこんな朝一番から頭を悩ませているわけで。昨日も連絡先を交換したにも関わらず連絡すらできなかったし本当にもう、どうしたらい



「も・り・おってばぁ!!」


「――いってぇ!」



バシンッ。


と、大きな音と共に背中に衝撃が走る。


思わず情けない声を上げながら振り向くと、そこにはむくれた表情をした晴香の姿があった。



「なにすんだよ、晴香!」


「なにって、いつも通りもりおの背中を叩いただけですぅ!」


「いつも通りって…人を叩くことを日課にしてはいけません!」


「だってだって、何回名前呼んでももりおが返事してくれないからぁ」


「あ、あれ?そうだったのか、すまん。ちょっと考え事してて」



腕を組み、ぶーっと頬を膨らませる晴香。


言われてみれば、確かにさっきから声を掛けられていた…ような気がする。まったく気が付かなかった。


前の席に目を向けると、杏子と純も怪訝そうな表情で俺のことを見ていた。



「モーリー、なんかあったの?珍しくあたしらよりも先に登校してると思ったらずっと項垂れてるし」


「しかも突然奇声を上げたりしてな。俺たちが来たことにも気づいてなかったみたいだしよ」



二人に言われ、俺はようやく自分がどれだけおかしな挙動をしていたのかを把握した。


今朝、教室に入るときに天上院さんとすれ違うのが気まずかったため、俺はまだ誰も教室に来ていないような時間に登校してきた。


それからずっと一人で考え込んで悶絶していたようだ。


それで気づいたらもうみんな登校してくる時間になっていた、と。


しかも心の中で叫んでいたと思っていたら気づかないうちに口から出ていた、と。


ナニソレ恥ずかしい。死にたい。いや、死にたくはない。生きる。恥ずかしくても精いっぱい生きていこうと思います。(作文)



「もりお、今朝はいつもの時間に歩いてなかったからおかしいなぁってずっと探してたのに、諦めて学校来たらフツーに教室いるし。しかもはるかが喋りかけても無視するし。マジ最悪だし」



凹んでいる俺に、晴香がさらなる追い打ちをかけてくる。


もうやめて!守谷のライフはとっくに0よ!…って、ん?晴香のセリフに一つ疑問を感じる。



「晴香…わざわざ俺のことを探してたのか?」


「あ、や、それはその…そ、そんなわけないじゃん!これは言葉の綾ってゆーか、いつもはいるのにいなかったからちょっと違和感を感じただけっていうか…別にもりおのことなんかを探してたわけじゃないんだからね!」



なんて雑なツンデレなんだ。30点。


恥じらいの表情はグッドだが如何せん台詞が雑すぎる。やるならもっとこう、心にぐっと来るようなツンデレにしなさい。「べ、別にあんたのことなんて心配なんかしてなかったんだから!」とかさ。…いや、俺の考えるツンデレも大概だな。


赤くなっている晴香を半眼で見ていると「そ、そんなことより」と露骨に話題を変えようとしてきた。



「昨日言ってた、あの、天上院さんのことなんだけどぉ」


「ててててててててて天上院さん!?」


「…やっぱり今日のもりお、おかしいよ?どうしたの?」



はい、今度は俺が赤くなる番でした。


突然、さっきまで考えてていた天上院さんの名前を挙げられたことで、思わず動揺してしまった。


落ち着け、守谷郁男。晴香はただ天上院さんの名前を言っただけだ。むしろここで動揺すると変に勘繰られるかもしれない。


俺は実に冷静かつスマートに晴香との会話を続ける。



「ててて天上院さんが、どどどどどうしたって?」


「…うーん、まぁいいや。あのね、付き合ってほし――」


「つつつつつつつつつつつつつつ付き合う!?誰が?え?別に付き合ってなんか?ないけど?え?」


「……いやだから、昨日言ってたじゃん。はるかが天上院さんに謝りに行くのに付き合ってくれるって。だから付き合ってほしいって話なんだけど…」



…あ、あ、あぁぁ!そういう話か!


てっきり天上院さんと付き合い始めたことがバレたのかと思ったぜ。ふぅ、驚かせやがって。


晴香はジト目を俺に向け、前の席からは「今日のモーリーやばくない?なんかキマってない?」「あぁ、あれはマズい。ここに病院を建てよう」とか聞こえてくるが、なんてことはない。俺は正常だ。ちょっと勘違いしていただけだ。


けど、どうしよう。


確かに、俺は昨日晴香に、一緒に謝りに行ってやると言ってしまったが、それは俺が天上院さんに告白してしまう前にしていた話。


今は正直、彼女と話すのが気まずい。


どういう態度で天上院さんと接したらいいのかまだ決めかねているのもあるし、なんというか、その、あれだ、普通に恥ずかしい。


そんな風に悩んでいると晴香はじれったくなったのか、俺の手を引いて立ち上がらせた。そしてそのまま教室の入口へと連れられて行く。


そこにいるのは、相変わらず丸出し状態のラノベを読んでいる天上院さん…って、あ、ちょ、待っ、



「天上院さん!ちょっとお話があるんだけど」



天上院さんはびくっと肩を震わせながら、ゆっくりとこちらに視線を向けた。


晴香よ、その言い方はとても謝りにきた人の態度とは思えんぞ。


そして天上院さんよ、君が読んでいるのはもしかして昨日俺が買い損ねた『根暗・オタク・ぼっちの三重苦背負った僕が異世界転生した結果ww』ではないか。俺はあの流れで買うことなんかできなかったのに自分だけ買いやがって!ズルい!自業自得だけど!



「えと、な、なにか御用で、しょうか?」



案の定、天上院さんは震え声で晴香に対応していた。


晴香も晴香で、勢いだけで声をかけだのだろう。その後の言葉が続かなく、キョロキョロとせわしなく視線を動かしながら、必死に俺の脇腹を小突いてきた。


くっ、俺に助け舟を出せってことかよ。しかたない…。



「え、えーっとさ、晴香は天上院さんに昨日のことを謝りたいらしいんだよ」



と、動揺を悟られないよう努めながら口を挟むと、天上院さんはそこで初めて俺の存在に気付いたようで、分厚い眼鏡の奥で一瞬目を見開いた、ような気がした。


が、それ以外は特段俺を意識しているかのような様子は一切見られず、



「そ、そうでしたか。昨日のこと、というと、掃除の時のこと、ですよね?わ、私は全然気にしてませんから、だ、大丈夫ですよ」


「ううん、はるかの言い方、ちょっときつかったよね。掃除任せちゃったことも、ごめんね、天上院さん」


「いやいや、いいんですよ。本当に、き、気にしないでください」



晴香といつも通りの調子で会話をしていた。


俺の助け舟のおかげで、晴香も素直に天上院さんに謝ることができていた。


うん、よかったよかった。


よかった…けど、なんだか俺は少し釈然としていなかった。


仮にも付き合い始めた男女が次の日にとったファーストコンタクトだというのに、天上院さんは俺のことを一切気にしている素振りがない。朝もいつも通りラノベを読んでいたみたいだし。


付き合いたてのカップルって、なんかこう、「あ…○○くん、お、おはよう(照れ照れ)」「あ、あぁ…おはよう(照れ照れ)」みたいな甘酸っぱい感じのやりとりがあるものじゃないのか?


こっちを一瞥しただけって。流石に反応が無さすぎじゃないか?


漫画の読みすぎなのか?フィクションと現実は別物だって?

それとも、俺が考えすぎていただけなのか?

天上院さんにとって、昨日のことはたいしたことじゃなかったのか?


そんな考えがぐるぐると頭の中を回っているうちに、晴香と天上院さんは和解を遂げたらしく、気づいたら握手を交わしていた。


そして天上院さんに別れを告げた晴香と共に、少し寂しい気持ちのまま席に戻ろうと歩き出し――



「ま、待ってくだ、さい」



――振り返るとそこには、歩き出そうとした俺の手を掴む天上院さんがいた。



「守谷くんに、お、お話があります」



驚いて声も出せない俺の腕を引っ張って、天上院さんは教室の外へと駆け出した。



「も、もりお!?」



背後から晴香の声を聞きながら、俺は訳も分からないまま天上院さんに連れられていったのだった。


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