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守谷くんは隠れオタクです

俺こと、守谷 郁男(もりや いくお)のことを一言で表すならば、きっと『チャラ男』という言葉が適切だろう。


髪は金になるまで色を抜き、ワックスでしっかりと整える。耳にはピアス、首元にはネックレス、指にはリング。今日も今日とて制服を着崩し、手さげのカバンを背中に背負えばあら不思議、見事なチャラ男のできあがりってね。



「こら、郁男!さっさとご飯食べないと遅刻するよー」


「わ、わかってるよお母さん!」



洗面台の前で準備に熱中しているとお母さんに注意されてしまった。まったく、チャラ男を保つのだって結構手間がかかってるんだぞ。



「ほら、いつまで髪の毛うねうねうねうね弄ってるのよ!さっさとご飯食べなさい、片付かないでしょ」



…うん、分かってたさ、この努力が理解されないことなんて…ご飯食べて、とっとと学校に行こう。



俺の通う学校は、家から徒歩10分程度の距離にある。普段は自転車で登校しているが、今は12月、季節は当然冬。道には雪が降り積もっており、とても自転車を漕ぐなんてできっこない…いや、たまに未だ乗っている人もみるけど、俺にはそんな危ない真似はできない。


そんなわけで己の足を使って登校をしながら、俺はぼーっとスマホを眺めていた。


さてさて今月の新刊は、と……おっ、投稿当初から追ってきたweb小説の書籍版、もう発売してたのか!これはあとで買いに行かなきゃなぁ。


あ、この漫画は週末に発売かするのか。うーん、でも最近どんどんお金が無くなってくんだよなぁ。本当は漫画とかだけにつぎ込みたいけど、髪の色抜くのにもアクセサリー買うのにも結構お金かかっちゃうし…うーん、バイトでも始めようかな?でもこんな髪の人間を雇ってくれるところなんてあるのかな?


なんてことを考えていると、バシッという音と共に急に背中に衝撃が走った。



「いってぇぇ!」


「おっはよーもりお!…って、きゃははは!もりお超変な顔~ウケる~」



背後から迫って人の背中を思い切り叩きながらも、悪びれるどころか大笑いしているこの女は城嶋 晴香(じょうしま はるか)


明るめの茶髪にツインテール、つけまつげにでっかいハートのピアス、手首にはブレスレット、爪にはド派手な色をしたネイル。まごうことなきギャルである。ちなみに身長は低いが胸はそこそこ大きい。


こいつとはよく登校時間が被るので、ほとんど毎朝一緒に登校している。そして、俺が歩いて登校しているときはいつも後ろから背中を叩いてきやがる。どういう教育受けてんだ本当に。人の背中を急に叩いちゃいけませんって習わなかったのか?習うわけないな。常識だな。


ちなみに、晴香の言う『もりお』とは俺のことである。

『守』谷 郁『男』→守男→もりお、らしい。どうしてそうなった。



「あ、ねぇねぇもりお!朝からスマホで熱心に何眺めてたのさぁ?」



――あ、やべ。


俺のスマホを横から勝手に覗こうとしてくる晴香を阻止しながら、とっさにさっきまで見ていたサイトを閉じた。


こいつ、人のスマホを勝手にみてはいけませんって習わなかったのか?習うわけないな。常識だな。なんでこの短時間で同じことを二回も思わなければならないんだ。



「あーーなんで隠すのさ!もしかして、ヤラシいサイトでも見てたんじゃないのぉ?」


「ちっげぇよ!あれだよ、あの、今月のファッション的なサムシングをチェックしてただけだよ」


「ごめん、何言ってるのかよくわかんない。ルー?」



ウリウリと肘で俺の脇腹を突きながら、煽るように笑う晴香を適当に誤魔化しながら、今日も二人で登校する。




さて、ここまでの一連の流れから既に分かっている方も多いかもしれないが、一応宣言しておこう。


俺はオタクである。


しかも普段はチャラ男という鎧に身を包み、オタクであることをひた隠しにしたまま一般ピーポーたちとも交流をこなす。


そう、隠れオタクである。


アニメ?漫画?ラノベ?ゲーム?全部大好物だ。

染髪?アクセ?ワックス?ぶっちゃけ興味ない。


俺は生粋のオタク。二次元をこよなく愛し、自らの身なりには無頓着、そんなオタクを体現したかのような人生を歩んでいた…中学の時までは。



中学二年生のころ、俺はただのオタクだった。


髪の色も普通に黒だったし、特にセットしたりもしていなかった。制服を着崩すこともせず、アクセサリーなんて持ってもいなかった。一人称も僕だった。


学校ではオタク友達とアニメや漫画の話をして盛り上がっていたし、カバンには好きなキャラクターのキーホルダーもつけていた。


そんな俺が、なんの気の迷いだったのか、一人の女子生徒に恋をしてしまった。


無論、三次元女子である。まぁ、恋に落ちた理由はその子の声が好きなアニメキャラクターの声に似ていたという、なんともあれなものではあったが。


だが、俺は仲間内では強気で話せるが、話したことのない人、特に異性とはマトモに目も合わせることのできない生粋のヘタレオタクだった。


好きな子にたいしたアピールをすることもできず、ただ遠巻きに見ていることしかできなかった。


それでも自分の気持ちだけでも伝えたいと、彼女の下駄箱に手紙を入れて校舎裏に呼び出すという、ベタすぎて一周回って今どきそんなことするやついねーよと言われそうな方法で告白をした。


結果は、玉砕。


その結果自体は当然だったと今でも思う。ギャルゲーで考えると、好感度を十分に上げていないどころか一度も話していない女の子に告白とか、成功するしないの次元を通り越してもはや告白するという選択肢すら出ることはないだろう。


ただ、このとき彼女に言われた言葉がひどかった。



「え、ごめんなさい。あの、郁男くんとは一度も話したことなかったし」


「それに私、オタクはちょっと…」


「郁男くんって、いつも髪とかぼさぼさだし、そういう身なりの整ってない人と付き合うと私まで同じようにみられちゃいそうだし」


「それに郁男くん、オタクだし…」



辛い。そこまで言う?言葉が直球すぎるのでは?とか思うことはいろいろとあったが、彼女が言っていることは確かにド正論だし、正直ぐうの音も出なかった。


そしてなによりオタクだからと二回も言われた。これに関してはただの鬼畜だと思った。だって追撃する必要あった?一回目でもう十分僕のライフは削り切れてましたよ?ただの死体蹴りじゃないですかやだー。


とまぁ、俺の初恋はこうして儚く散っていったわけだ。



それ以来、俺は三次元の女に恋をすることはなくなった。というより、もうあんな思いはしたくないと、自ら興味を断った。


だが、初恋の彼女に言われた言葉は、中学を卒業するまで俺の胸に深く突き刺さったままだった。


――変わりたい。変わらなきゃいけない。


高校は、親の転勤に合わせて中学があった田舎町からは離れた学校に進学した。都市部の学校ではあったが、幸い、同じ高校には中学時代の俺を知る人はいないようだった。


チャンスだと、思った。


俺はきっと変わらなきゃいけない。もう、あんな悲劇を繰り返したくはない。繰り返しては、いけない。


…うん、ちょっと格好つけたが、つまり俺は高校デビューをしようと決意したのだ。


こうして俺は、金髪にピアスと自らのイメージするチャラ男へとなりきり、オタクであることを隠した生活を始めたのであった。




――ふ。昔のことを思い出すと、なんだかとても胃が痛くなってきたぜ。これが黒歴史というやつか。


なんて昔の思い出に浸りながら晴香と適当に会話していると、いつの間にか学校に到着していたようだ。


上履きに履き替え1-Fの教室に向かう。ちなみに晴香とはクラスも同じである。



教室の扉を開けると、すぐ近くの席で一人の女の子が本を読んでいた。


もっさりとした髪の毛と猫背が特徴的で、眼鏡と前髪で二重に目元を隠している女の子。


彼女の名前は天上院 結愛という。オタクであることを一切隠そうともせず、むしろ堂々と自分オタク宣言をするようなちょっと変わった子だ。


彼女は今日も、ブックカバーすらつけずにラノベを読んでいた。


別に彼女と友達だとかそういうわけではない(というより彼女が他の人と事務連絡以外の内容を話しているのを見たことがない)が、教室の扉の近くで毎日本を読んでいるものだからつい目に入ってしまうのだ。


今日も彼女の後ろを通り過ぎるその一瞬、ついラノベの表紙に目を向けてしまう。


――うわ、あれ今某web小説投稿サイトで絶賛ブーム到来中の『40代から始める異世界スローライフ』の最新刊じゃん!俺もあの小説、めっちゃ好きなんだよなぁ


どういう偶然か、彼女の読むラノベの好みは俺とモロ被っているのだ。


彼女は毎週違ったラノベを読んでいるのだが、そのどれもが俺も読んだことのある、ないし読みたいと思っていたものばかりなのだ。


嫌でも興味を惹かれてしまう。そしてあわよくば彼女とラノベについて語りたいとも思う。


だが、



「?どったの、もりお?後ろが詰まってるから早く行ってよぉ」


「…っと、なんでもないよ。悪ぃな」



ラノベに気をとられてゆっくりと歩いていると、後ろから晴香に急かされる。


――だがそれは、所詮叶わぬ希望だ。


俺と天上院さんは、隠れオタクとオープンオタク、チャラ男と地味っこ。相容れることなど決してない。


それに、オタクである自分を隠すことを選んだのは他の誰でもない、俺自身の選択だ。


変わろうと、チャラ男の仮面を被って生きていこうと決めたその瞬間に、俺はリアルのオタ友を作る可能性をも、同時に捨ててしまったのだから。




――このときは、まさか天上院さんとあんなことになるなんて思いもよらなかったんだ。


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