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幕間の守谷くん 1

随分とお待たせしてしまい申し訳ありませんでした…。

しばらくは不定期更新となりますが、温かい目で見守ってくださると幸いです。。。

パンケーキで有名なお店『Caféヒマワリ』。


白塗りのシンプルな外装とベージュを基調とする落ち着いた内装が相乗的に洒落た雰囲気を醸し出している。そんな雰囲気とは相反して、店内は喧騒に包まれていた。


まだ開店直後であるにも関わらず店内の席は全てが埋まっており、店外にまで列をなしているほどの盛況さを見せている。


それに伴い、店員たちもまた、店内を慌ただしく動き回っては多くの客への対応に追われていた。



「こちらのパンケーキをお二つでよろしいですか?」

「食後にコーヒーですね、かしこまりました」

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」



銀、緑、赤。


それぞれが奇抜な髪色をした店員たちは、忙しさの中にあっても決して笑顔を絶やすことはない。


Caféヒマワリは、その個性的な店員たちの容姿もまた特徴の一つである。


銀髪の童顔美少女、緑髪の高身長執事、赤色ドレッドヘアーの褐色女。


字面だけでもインパクトの感じられる店員たちがホールを駆け回り、接客をしているのだから、食べ物をログするサイトの紹介で名物店員と書かれていてもしょうがないものだ。



そんな華やかな見た目の店員目当てに店に来た客も当然多く、彼女らに対する称賛の声はあちこちから聞こえてくる。



「あ″~銀髪ロリっ子…萌えるんじゃ~」

「ねぇねぇ、あの緑髪の店員ちょーイケてない?やばいやばい!」

「あの肌黒い人の髪、あれどうなってんだ?」



普通の飲食店などではまず考えられないような店員の容姿、これもまたCaféヒマワリが人気店である所以の一つなのだろう



…ところで、このモノローグはいったい誰のモノか、だって?


決まってるだろ、俺だ。守谷郁男だ。


…店内に金髪の男の姿が見えないだって?


当たり前だろ。だって俺がいるのは――



「いくお!何キメ顔で黄昏れてる!もうお皿が足りないの!さっさと洗う!!」


「は、はい!すみませんJ子先輩!」


「だからその呼び方はやめて!」



銀髪幼女からのお怒りを受け、俺は慌てて手に持っていた皿を洗い始めた。



――そう。俺がいるのは店のホールではなく、厨房の洗い場なのである。


以前天上院さんとデートに来た時に、この店が人手不足だということを知った。


漫画やゲームだけでなく、ファッション誌やアクセサリーなど。高校に入ってから買う必要があるものが増え、慢性的に金欠気味となっていた俺は遂に意を決してこの店にアルバイトを申し込んだのである。


どうして今までバイトをしていなかったかと言えば、それは俺自身の格好のせいだ。こんなあからさまなチャラ男を雇ってくれるバイト先があるのだろうか。常識的に考えてあるわけなくね?と、悩んでいるうちに入学からほぼ一年が経ってしまったのだ。


だがこのお店は個性的な店員が、むしろ前面に押し出されている特殊なお店だ。しかも人材不足と来ている。まさに棚から牡丹餅である。



実際、バイトを申し込み、簡単な面接を受けるとすぐに働くことが決まった。


その時は店のホールとして働くことをイメージしていたのだが…



「ほらいくお!さっさとカップ洗って持ってくる!コーヒーの追加注文沢山入ってる!」


「は、はい!ただいまお持ちします!」



蓋を開けてみればひたすら皿洗いの日々である。どうしてこうなった。


カフェの店員ってもっとこう…スッとコーヒーやら紅茶やらを運んだり、「ごゆっくり」なんて言い残して颯爽と去っていったり、「あの店員さん、ちょーイケてない?ヤバくない?」とか言われちゃったり…もっとクールに仕事をこなすイメージだったんだが。



「んおおおおぉぉぉぉぉ!!!汚れが落ちないぃぃぃぃぃぃ!!!!!」



必死にカップの底にこびりついた汚れを洗い落そうとしている俺の今のあり様は、はたしてクールとは真逆の方向にある気がしてならない。


洗い終わったカップから丁寧に水気を拭き取り厨房からホールへと運ぶと、銀髪幼女が半眼を向けてきた。



「いくお、遅い!あと少しでカップが切れるところだった」


「す、すみません。なかなか頑固な汚れと格闘してまして」


「言い訳はいい。さっさと戻ってまた洗ってきて。今度はカトラリーが足りない」



こ、こんの生意気ロリパイセンがぁぁぁ!!こちとらやりたくもない皿洗いばっかりさせられて手の皮がハゲそうなんだよ!純の頭部みたいに!労いの言葉一つくらいかけてくれてもいいだ…あ、すごいジト目でこっち見てる。さっさと戻ろ。


幼女の眼力に勝てなかった俺はすごすごと洗い場に戻りカトラリー――フォークやナイフなどを洗い始める。



天上院さんとのデートの際にも接客をしてくれていたかの銀髪幼女の名前は『J子先輩』である。もちろんあだ名であるが。


この店は派手な見た目の店員に、おかしなあだ名をつけることでただでさえインパクトの塊のような彼女らのキャラをさらにたたせてようとしているらしい。ちょっとやりすぎだと思う。ちなみに俺のあだ名はまだ決まってない。ストレートに『チャラ男』とかになるのかな?


J子先輩はあの見た目であってホールの店員の中では一番の古株であるらしく、皆から敬意を込めてその名で呼ばれている、らしい。…本人がそう呼ばれるのを嫌がってるあたり明らかに敬意以外の邪念も込められている気しかしないのだが。まぁ俺も皿洗いばかりさせらている鬱憤を晴らす意味を込めてそう呼んでるから人のことは言えないんだけど。


それで、肝心の彼女の年齢なのだが…未だに不詳である。以前直接J子先輩にお年をお聞きしたところ、地上波放送ではピー音で埋め尽くされるであろう罵詈雑言の数々を賜りました。


おかげで俺は、まだ彼女が真性ロリであるのか合法ロリであるのか判別がついていな「いくお。何考えてるのか知らないけど後で覚えておいて」なんで俺の周りの女性陣は俺の心のモノローグに横やり入れてくるの!?怖いんだけど!


…とまぁ、そんなJ子先輩になじられながら、今日も俺は皿洗いに従事しているのであったとさ。はぁ。



―――――



「いくお。ちょっとホール出て」



16時を回り、店の客足もだいぶ落ち着いてきた頃。J子先輩は未だ皿を洗っていた俺にそう声をかけてきた。皿の補充かな?と思って身構えていると、どうやら俺にホールの接客をさせてくれるのだそうだ。



「…………………え?マジっすか?」


「マジ。なんで冗談を言う必要がある」


「い、今までずっと皿洗いしかやらせてもらってないのに?」


「それは入ってすぐだったんだから当然。もう店の雰囲気とか店員の動きとか、なんとなく掴めてきたでしょ?」


「た、確かに見るだけは充分してきましたけど…」


「なら戸惑うこともないはず。これから手本を見せながら教えてあげる。ちゃんとメモとるように」



な、なんてこった。


俺はこれからも一生皿を洗って生きていくんだなと思っていたが…いや、ごめん、そこまでは思ってなかったけど…それでもまさか今日、こんな転機が訪れるとは…なんたる行幸!


これは張り切るしかないんじゃないか!


ポケットからメモ帳を取り出しつつ、お水を持って新規のお客の下へと歩いていくJ子先輩に付いていく。


満点の笑顔で接客するJ子先輩と、それに絆される男性客。彼女の接客ぶりは完璧であったがそれ以上に思うことがあるとすれば、



「外面いいな…グェッ!」


「申し訳ありませんお客様。こちら新人のアルバイトなのですが、たまに奇声を発する奇病にかかっておりまして」



いったぁぁあ!こ、このロリ先輩、客の前で思いっきり俺の足を踏んづけやがったよ!いや、心の声が漏れちゃった俺が悪いんだけどね!


しかもなんだその言い訳のしかた!そんなのが通じるわけが…あるんですよねー。金髪チャラ男と銀髪美少女ロリじゃ信頼度が違いますよね、分かりますとも。現にお客さん、かわいそうなものを見る目でこっち見てますもの。くそっ。


やるせない気持ちを心に秘めながら、俺はJ子先輩のハードなレッスンを一時間ほど受け続けた。



―――――



「はああぁぁぁ…つっかれたぁ」


「ははは。郁男君、お疲れ様」



休憩室でだらしない恰好をして休んでいる俺に労いの言葉をかけてくれたのは、緑髪の長身イケメンこと『セバス』さんである。もちろんあだ名である。


190センチはあろうかという長身。高い鼻と柔らかな目尻が特徴の整った顔立ちに加え、左眼にはモノクルをはめている。そしてなんといっても、シワ一つないキッチリとした執事服はセバスさんのキャラを充分すぎるほどに引きたてている。あと、執事服を着ているからってあだ名を『セバス』にした店長の安直さよ。


Caféヒマワリに来る女性客の8割(俺調査)は虜にしてしまうほどのイケメンであるセバスさんは、その内面も間違いなくイケメンである。優しく、気遣いが上手で、おまけに物腰も柔らかく、とても話しやすい。こういう人がモテるんだな、っていうのをしみじみと実感したよね。


俺も例に漏れず、セバスさんにはいろいろと相談したり愚痴を言ったりしている。俺が女だったらまず間違いなくとっくに惚れているところだ。


そして今日も俺は、セバスさんに愚痴を漏らしてしまっていた。その内容は主にJ子先輩についてのものである。



「――それで、俺の接客は20点だって言われたんですよ。ちょっと噛んだからって厳しすぎやしませんかね?俺は今日やっと皿洗いから解放されたばかりだってのに」


「…そっか」



J子先輩への愚痴を話しながら、改めて俺は彼女のことを考えていた。


J子先輩は、仕事に厳しい。店長がミスをしたときに彼女がそれを指摘していたのを見たことがあるし、自分がミスをした時は表には出さなかったが裏では一日中凹んでいた。


けどJ子先輩は、特に俺に厳しい。なんでなんだろうか?


俺が新人で、彼女が指導担当であるから。それはあるのだろう。けど、それだけじゃない気がするのも確かだ。ここまで強く当たられたら、辞めてしまう人もいるんじゃないかというほどだ。


…そんな俺の心中を察したかのように、セバスさんは俺に優しく話しかけてきた。



「郁男君。僕と君は今、休憩時間中だよね」


「そう、ですね。えっと、それが何か?」


「ウチのお店はローテーションで休憩を取っているんだ。出勤時間が早い人から順に休憩に入ることになっている。まぁシフトによってはこうして二人一緒に休憩に入ることもあるけどね。さて、じゃあ今日一番に店に来ていたのは誰だったか、君は覚えているかな?」


「そりゃ、確かJ子先輩でし、た…あ」


「分かったかな?彼女は一体いつ、休憩をとっていたのか」



とっていない。


そうだ、J子先輩は休憩をとっていない。彼女は俺が休憩に入るまで、ずっとホールで働いていた。


休憩時間は一人一時間と決められている。じゃあ俺が休憩に入る一時間前に、彼女はいったい何をしていた?


俺のために、休憩時間を返上して教えてくれていたんだ。ホールの仕事を。俺の、ために。



「君が皿洗いをしているとき、厳しくされたことについては彼女を許してあげて欲しい。君が入る以前、ただ奇抜な髪をすればウチの店に入れると勘違いした、彼女目当ての根性なし君が沢山いたんだ。そのせいで、彼女は新入りに対しては厳しくすることで篩にかけるようにし始めたんだ。不純な理由で入ってきた上に、適当な仕事しかしないバイトを、いつまでも店に置いておくわけにはいかないからね」



セバスさんは申し訳なさそうな顔をしながらそう教えてくれた。


そうか。可憐な容姿をもつことは、決していいことばかりではないのだ。彼女の場合、その悪い面が、あろうことか仕事場に影響をもたらしてしまったのだ。誰よりも仕事に真剣な、彼女の仕事場に。


J子先輩は。俺が思っている以上に沢山のことを考えていて、俺が思っている以上に仕事に真剣で。俺が思っている以上に…



「でも、彼女は君の頑張りを認めてくれたんだと思うよ。だって彼女が新人にホールの仕事を教えているのを、僕は久しぶりに見たからね」



そう言ってはにかんだセバスさんの顔は、やっぱりイケメンだった。



―――――



「今日も一日、お疲れ様です」


「お疲れ様」



一日の仕事が終わり、俺はJ子先輩と一緒に帰路についていた。同じバス停から違うバスに乗って帰るため、彼女と一緒にバス停まで向かっている。


J子先輩は道中、俺の今日の仕事の様子について話していた。



「いくおは、接客態度は問題ない。けど、色々なことに気付くのがまだ遅い」


「はい」


「それと料理の持ち方が不安定。お皿を一度に最低三枚は運べるようにならないと、忙しい時間に対応できない」


「はい」


「あと、お客様にお水を出すときはコップの淵を持たないように。気にする方も多いから」


「はい」


「…なんだか、今日はやけに素直」


「そうですか?俺はいっつも素直だと思いますけど」


「そんなことない。いつもは私が小言を言うたびに微妙そうな顔をしていた」



そう言って何か勘繰るような視線を俺に向けてくるJ子先輩。


確かに、俺は今まで素直に彼女のアドバイスを聞けていなかったのかもしれない。いつも罵られてばかりだったから、心のどこかで彼女に見下されているんじゃないかと不貞腐れていたのかもしれない。


けど、もうそんな気持ちはない。むしろ今は、



「これからも、ご指導よろしくお願いします。J子先輩」



敬意を込めて、彼女の名前を呼んだ。


俯いている彼女は、きっと嫌そうな顔をしているのだろう。そう思っていたけれど、



「こ、こちらこそ。これからも、よ、よろしく」



俺に向けたその顔は、予想外にもほんのりと赤く染まっていた。


J子先輩は早口で俺にまくし立てる。



「あ、あの。今までそんな風に言われたこと、あんまりなくて。その、いつもウザがられるか、聞き流されるかばかりだったから、あの…」



もしかしたら…前に沢山いたという彼女目当ての根性なしたちは、彼女を好いてはいたが尊敬はしていなかったのかもしれない。敬意が込められた視線は、久しく向けられてこなかったのかもしれない。


俺は今までの自分を殴りたかった。


どうして今までただの小言が多いロリっ子だと思っていたんだ。どうして今まで彼女の優しさに気付かなかったのか。彼女の悲嘆に気付かなかったのか。彼女は常日頃から敬意を向けられて然るべき、立派な先輩なのに。どうしてたったこれだけのことで喜ばなければならないほど、彼女の内面は蔑ろにされてきたのか。


バカな根性なしどもと、自分自身に対して怒りを覚えながら。その小さな体で今までしてきたであろう苦労を偲びながら。俺はJ子先輩の頭に手を置いた。



「今まで舐めた態度をとっちゃってすみませんでした。俺は、これからはずっとJ子先輩のこと、見てますから。J子先輩の後を追い続けますから!」




――その後、置いた手を思い切り抓られた上に怒涛の勢いで罵られたのも、J子先輩の照れ隠しだと思い込めば可愛いものだと思った。目がガチだったけど、そう思い込むことにした、うん。



俺の尊敬する先輩は、銀髪美少女毒舌ロリっ子です(ラノベ感)。


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