続、カリスマギャルと行くデート大作戦
「あのぉ、もしかして…ラブ娘さん、ですか?」
数多の雑誌の表紙を飾るカリスマギャル、ラブ娘。
当然、市中にその存在を知っている人がいても不思議ではない。
桃色の髪に露出度の高いギャルファッションと、ただでさえ目立つ要素の集合体でしかない女の子なのだ。ラブ娘に声をかけてくる人が出てくることは容易に想像できた。
できたのだが――
「ん?そうだケド?」
「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」」」」」」」
――どうやらラブ娘は、想像をはるかに超える知名度の持ち主であったようだ。
ファッションショップ巡りがひと段落した後、俺たちはゲームセンターに来ていた。というのも、ラブ娘の「デートと言えばゲーセンはてーばんっしょ!」という持論から半強制的に連れてこられたわけだが。
久しぶりのゲームセンターには、休日だからか沢山の人が溢れかえっていた。冒頭でラブ娘に話しかけてきた見知らぬギャル子もその一人だ。
そしてラブ娘の返答を皮切りに、彼女の周りにものっそい数の人だかりが形成された。さながら、街頭に群がる虫のごとし。いや、その光景は想像したらちょっと気持ち悪くなってきたから止めよう。
そんなわけでラブ娘は今、沢山の人たちを相手に奮闘中だ。え、俺?群れの形成から5秒後には店の端まで弾き飛ばされてたけど?だから俺は、ラブ娘を中心に形成された虫…じゃない、人の群れを遠くから眺めているなう、というわけだ。
ラブ娘の周りを囲むのは、やはりというべきか、ギャルが多い。彼女らはラブ娘に対して握手を求めたり、サインを求めたり、質問攻めをしたりしている。
凄いと思うのは、ラブ娘はそんな状況でも特に慌てることなく皆からの要求に快く応じているところだ。慣れているのか、コミュ力が天元突破しているのか、あるいはその両方か。
そんな中、一人のギャルが隅で体育座りをしている俺を指さしながら、ラブ娘に質問を投げかけた。
「あ、てかラブ娘さんって…彼ピッピいないんじゃなかったの?あのビミョ男とどーゆー関係なの?」
…初対面どころか今まで視界の片隅にしか入れていなかった男のことを指さして、あまつさえビミョ男呼ばわりとか、なんだあのギャル子は!ちょっと可愛いギャルだからって失礼にもほどがあるだろ。というか、ビミョ男って何?微妙な男ってこと?俺のどこを見て微妙だと思ったの?顔?ねぇ顔なの?泣くよ?年甲斐もなく泣いちゃうよ俺?
失礼なギャル子の一言で、ラブ娘に群がっていた他のギャルたちの視線も一斉に俺に集まってしまった。俺の好きな、しかも大勢のギャルに注目される…なんだろう、新しい扉が開きかけている音がする。
だが、彼女らの視線は一様に険しいものばかりだ。「なんであんなのと?」「ハンパすぎじゃね?」「え?も――」「つか何あの顔」「なんで地べたに座ってるの?キモ」、なんて辛辣なひそひそ話がここまで聞こえてくる。まぁ最後の一言は完全に正論ですけどね、はい今すぐ立ちますよっと。
俺が立ち上がると、今まで沈黙を貫いていたラブ娘が、声を上げた。
「ん~、あいつとの関係はぁ…ヒ・ミ・ツ♡イイ女は秘密の一つや二つ、あったほうが魅力的っしょ?」
「「「「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」」」」」」
ウインクをしながらラブ娘が放った言葉は、ギャルたちの心に大層響いたらしい。またも店内に響く歓喜の声。というより、よくそれで誤魔化せたな。流石カリスマギャルとしか言いようがない。
ふとラブ娘に視線を向けると、その形の良い唇を小さく動かして「ごめんね」と呟いている。多分、俺に対する謝罪なのだろう。ギャルたちの態度や、そもそもこんな状況になってしまったことに対する謝罪なのだろう。
…気にしなくても、いいのにな。俺とラブ娘じゃ、つり合っていないことくらい、分かっている。さっきまで腕を組んで歩いていた相手が、今はこんなにも遠くにいるようで。
かつての天上院さんも、今の俺と似たような気持ちだったのだろうか。と、ここにはいない彼女に向けたシンパシーを感じた。
―――――
「いやー、大変な目に合っちゃったね♡」
「『会っちゃたね♡』じゃないよ!ラブ娘が律義に全員からの質問に応えてるからこんなことになって…無意味に罵倒された俺の気持ちも慮って!」
「だからぁ、さっきも謝ったじゃん。めんごめんご!」
「ったく。半分くらいは事実だったから別にいいけどさ」
ギャルの群れを抜け、ゲームセンターを脱出することができたのはあれから二時間後のことだった。
ヒートアップしていくギャルたちを止めることはできず、このままだと永遠にゲームセンターに留まることになるのではないかと危機感を抱いたのだ。そこでラブ娘とジェスチャーを交えたアイコンタクトを交わし、結局俺がラブ娘の手を引き逃亡するということで決定したのだ。実行までに二時間かかったけど。
なんとか逃げ切ることはできたが、後ろから追いかけてくるギャルから「フツメン!」「ビミョーなチャラ男!」「ダサ金髪!」「今どきピアス男子w」などなど、最初よりもさらに辛辣な罵声を浴びることになってしまった。畜生、反論したいけどできない、本当のことばっかり言いやがって。あいつらの見た目は大好物だが絶対に許さないからな。
結構な距離を走ったようで、俺たちは今かなり人通りの少ない場所を歩いている。相変わらずラブ娘は目立つが、幸い周囲にギャルの姿は見られないため、先ほどの二の舞となることはないだろう。
ちなみに、当然のように腕を組み、当然のようにラブ娘の胸が当たっているが、これはしょうがないことだ。不可抗力だ。葵に見せつけるために、しょうがなくやっていることなのだから…と、そういえば葵はちゃんと俺たちについて来ているのだろうか?
チラリと背後に視線をやると、そこには折れた傘を電柱にひたすら叩きつけている金髪ゴスロリの姿があった。目は据わっており、ひたすら何かブツブツと呟いている。多分呪詛の言葉だろう。
あの傘、元はあのゴスロリ衣装によく似合うフリフリのついた可愛いものだったはずだが、今はもう見る影もない。多分もう何十回も叩きつけてるんだろうな。だからあんなにきれいなくの字を描いているんだろうな。それをさらに叩きつけて…あ、120°超えた。
俺はそっと視線を戻し、何も見なかったことにした。
「あ、ねぇねぇ守谷!あれ、買って食べようよ!」
突然大声を上げたラブ娘が指さした先にあったのは、クレープの移動販売車であった。
失礼な話だが、移動販売車って儲かるのだろうか?少なくとも、こんな人通りの少ない場所で客引きをしている時点でナンセンスであることだけは俺にもわかるが。
反論も賛成もする余地はなく、ラブ娘に手を引かれ、強制的に移動販売車まで連行される。まぁ走り回ったおかげでお腹が空いてたからいいんだけど。
移動販売車の売り手である、薄幸そうな顔をした髭のおじさんにそれぞれ注文をし、できたてのクレープを受け取ると、俺たちは近くの公園のベンチに腰掛ける。
ちなみに、俺が注文したのはブルーベリークリームチーズクレープ、ラブ娘はイチゴバナナチョコクレープだ…チョコバナナ、か。以前の天上院さんとのデートを彷彿とさせるな。
俺の横に腰掛けるラブ娘は、当然のごとくクレープの写真を撮っていた。やっぱり、女子はこういうスイーツを食べる前には必ず写真を撮るものなんだな。あの天上院さんでさえ撮ってたわけだし。
そんな風にぼけーっと天上院さんのことを考えながら、たいして美味しくはないクレープに舌鼓を打っていると、不意に俺の目の前にラブ娘の甘ったるそうなクレープが差し出された。
「こっちのクレープ、ちょー美味しいよ!ほれほれ、味見してみ?そしてあんたのもちょっと味見させて♡」
食べさせ合いっこ…だと…?しかも、こんなに気軽に提案できるなんて…これ間接キスという奴では?え、いいの?こんな美人ギャルと間接キスとか、本当にいいの?あーん一つで赤くなってた天上院さんとはえらい違いだ。流石、カリスマギャル。某最強お兄さん系アニメ風に略すなら、さすギャル。いや、さすカリの方が語呂いいかな?
と、半分現実逃避しながらクレープとラブ娘の顔を交互に眺めていると、しびれを切らしたラブ娘に無理やり口にクレープを突っ込まれた。
口の中に広がるイチゴの酸味と、チョコバナナの甘み。同じクレープのはずなのに、こちらの方が俺の食べている物の数倍は美味しく感じられる。これは俺の味のチョイスミスなのか、あるいは。
…と、物思いに耽りながら咀嚼をしていると、気づけばラブ娘は俺のクレープをパクりと一口食べていた。
あれ、俺の食べかけのクレープを美人が食べる…なんだかまたイケない何かへの扉が開かれそうになった気がするぞ。
「…こっちは、びみょたんだね」
そう言ってしかめっ面をするラブ娘。どうやら先ほどの答えはチョイスミスで正解、ということらしい。恐らく。
しかし、しかめっ面まで美人なのは流石だが、俺の食べかけを食べてそんな顔をされるのは違うと分かっていても少し傷つくのでやめていただきたいものだ。
―――――
クレープを食べ終わった俺たちは、それから公園のベンチで二人、色々な話をした。といっても、ラブ娘が喋り倒しているのを俺がずっと聞いている、という形ではあったが。
天上院さんのこと、学校のこと、ラブ娘がやっているというモデルの仕事のこと、他にも、色々。話題は尽きない。ちなみに俺が一番驚いたのは、ラブ娘という芸名を自分自身で考えたという話だ。なんでも本名をもじって付けたらしいが、どうしてそうなった。ネーミングセンスよ。
話を聞きながら、改めて、ラブ娘の横顔をまじまじと見つめる。
――あぁ、やっぱり、綺麗だ。
天上院さんに似た、切れ長の目が、特に俺好みだ。
もし、天上院さんがギャルのような恰好をしたならば、彼女もこんな風貌になるのだろうか。
もし、そうなったとしたなら、俺は…。
さて、時刻は既に夕暮れ時。
話をしながら、俺は脳内で今日一日の出来事を振り返っていた。
腕を組みながらのファッションショップ巡り、ギャルにもみくちゃにされたゲームセンター、公園のベンチでクレープの食べさせ合い。
若干イベントが少ない気もするが、葵にデートの様子を見せつける、という目的を考えるならば十分に果たしたと言えるのではないだろうか?
「お兄ちゃん…」
そんな俺の思考を読み取ったかのように、公園を囲う木の陰からぬっと葵が姿を現した。その目には一点の光もなく、右手にはもはや原型を留めていない元傘だった何かが握られている。何かというかもうそれただの燃えないゴミ。
…というか、タイミングといいビジュアルといい、その登場の仕方は大変心臓に悪いから止めてもらっていいかな?隣でラブ娘もぎょっとしてるから。
――さぁ、ここからが正念場だ。
葵との対面。ヤンデレとの対峙。俺は今日こそ、自由を手にするのだ。




