守谷くんとカリスマギャル
…どうして。
「おい、見ろよあれ」
「何あの子、超美人じゃん」
「でもあの髪ヤバくない?」
「てかあれって…」
「え、嘘!?あれ『ラブ娘』じゃね?」
「なんで男と歩いてんの!?」
どうして俺は、こんなにも注目を浴びながら市中を闊歩しているのだろう。
…いや、原因なら分かりきっている。
それは、俺の右腕に抱き着きながら歩いているこの子。
「ねぇ、守谷。次はあそこのお店入ろ!」
そう言いながらさらに体を寄せてくるピンク髪のギャル、ラブ娘。
デカい。何が、とは言わないが、デカい。杏子はもちろんのこと、これは晴香よりも大き…いや、それは今どうでもいいんだ。落ち着け煩悩。
ラブ娘さんが指さしている店は、またもファッションショップ。これでいったい何件目の服屋になるだろうか。思わずため息が零れた。
…俺は今、ラブ娘と二人でデートの最中だ。
どうしてこうなったのか。
それは、駅での待ち合わせまで遡る。
―――――
「な、な、なんでラブ娘さんがここに?」
前回のあらすじ。
天上院さんに指定された場所で待ってたら雑誌の表紙になるほどの人気ギャル、ラブ娘さんが来た。しかもラブ娘さんは、何故か俺のことを知っていた。以上。
俺は戸惑いながら、ラブ娘さんに問いかけた。
――どういうことなんだ?天上院さんが来るんじゃないのか?え?それにしても綺麗だ。なんでラブ娘さんが?もしかして天上院さんの知り合いだったの?プロポーションもヤバいな。え?どういうこと?
と、疑問は尽きなかったが、そんな風に困惑する俺のことを見ながらラブ娘さんはにっしっしっと笑っていた。
「驚いた?驚いたっしょ?わたしが来てちょー驚いたっしょ!?」
「え、そりゃ驚いた…驚きましたけど」
「あー、いいよいいよ。わたし、守谷とタメだから。敬語とか堅苦しいのは禁止ね!」
そう言って彼女は、俺の肩をバシバシと叩く。
さ、流石カリスマギャル。初対面の男にもフレンドリーな対応に、ナチュラルなボディータッチ。男慣れしていらっしゃる。
だが、負けてられない。俺だってチャラ男の端くれ。たとえ中身が童貞オタクだったとしても、ここは冷静に対応するんだ。
「はい…あ、うん、分かったけど…あの、なんでラブ娘さん――」
「『さん』付けも禁止!」
「――ラブ娘、が、ここに来たの?俺、天上院さんに呼ばれてここに来たんだけど。というかどうして俺のこと知ってるの?てかどうして…」
「もぉ~、守谷!質問は一つずつにしてよ。このせっかち君め♡」
「あ、ご、ごめん」
はい全然ダメでした。
質問攻めを諫められながら、鼻先を指でつんと押された。なにこれ、きゅんときたんだけど。
…さっきからペースを握られっぱなしで全然話が進まないな。
俺が話を進められずそわそわしているのを察してか、彼女は真面目に質問に答えてくれる気になったようだ。
「…わたしがここに来た理由は、結愛に頼まれたから、だよ」
「結愛…天上院さんに、頼まれた?」
そう言うと、彼女は周りを少し見回した後、俺の耳元に顔を寄せてきた。
あ、髪の毛からシャンプーのいい匂いがする…この匂い、どこかで嗅いだことがあるような――
「葵ちゃん…だっけ?その子にギャルとデートしてるトコ見せなきゃマジヤバいんでしょ?それで結愛が、わたしにあんたとデートすることを頼んできたってわけ。わたしなら安心だから…って、あんた話聞いてんの?」
――おっと、匂いに気を取られて思わず聞き逃すところだった。
だが、なるほど。天上院さんが任せろと言ったのは、『私が相手を見繕ってやるから任せろ』という意味だったのか。
俺が言わんとしたことを察してくれただけじゃなく、段取りまでしてくれるなんて…なんてできた彼女なんだ!
…いや、待て。落ち着いて自分を省みろ。そこまで彼女に任せるとか、彼氏としてどうなんだ?
今の俺は、フリとはいえ別の女の子とのデートを、あろうことか実の彼女にセッティングしてもらった彼氏というわけだ。
うん、疑いようのないクズだね!
…もう、今は気にしないようにしよう。気にしたら負けだ。己の中の良心は無視して話を進めよう。
「そ、それで、どうしてラブ娘さ…ラブ娘なんだ?もしかして、天上院さんと知り合いなの?」
「あーうん。わたし実は、結愛の従姉妹なんだよね」
…え!そうなの!?
天上院さんにこんな派手な親戚がいただなんて、初耳だ。
そういえば兄弟はいないと言っていたけど、従姉妹については聞いたことがなかったな。
あ、でもだからか。
「なるほど、だから天上院さんと声が似てるんだ!」
「え?」
「俺、最初君に声をかけられたとき、天上院さんと勘違いしちゃたんだよ。そりゃ従姉妹なら声も似てるよね」
「…そう、それ!そうなの!よく似てるって言われる!うん!」
そう言いながらそのド派手な髪を弄り、目をきょろきょろとさせる挙動不審なラブ娘に疑問を感じることもなく、俺の頭は既に別の思考に走っていた。
本当に、どうして勘違いしてしまったのかと疑問だったが、親戚ということなら納得だ。
天上院さんとラブ娘。喋り方は全く違うが、声質自体はそっくりなのだ。声だけを聞いたら、勘違いをしてしまうほどに。
それに、顔立ちも似ている気がする。こちらに関しては天上院さんの素顔を見た経験が一度、それも一瞬しかなかったことに加えて、ラブ娘はギャルメイクで素顔が分かりづらいというのもあってあまり自信はないけれど。
けど、似ている部分なんてそんなもので、あとは全くと言って正反対だ。
服装、性格、言葉遣いはもちろんのこと、背丈も違う。天上院さんは俺より頭一個分以上小さいが、ラブ娘はブーツによる底上げもあるだろうが、俺と同じくらいある。それに胸もラブ娘の方が圧倒的に大きい。大きい。
何もかもが対極的。そんな二人が、まさか親戚同士だったなんてな。晴香に聞かせたら泣いて喜びそうだ。
…ん?ちょっと待てよ?ということは、
「今日一日、俺はラブ娘とデートする、ってことか?」
「だから、さっきからそう言ってんじゃん?守谷って察し悪いの?」
「ちょちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺、ギャルとデートなんて経験…」
「ま、あんたはそんなナリだし、デートなんてし慣れてるっしょ?しっかりと葵ちゃんに見せつけてやろうぜ」
「…当たり前だろ?俺はチャラ男だぞ?ま、まままま任せとけ、よ!」
「自分で自分のことチャラ男ってゆーんだ。キモー」
…天上院さん。俺は今、さっそく心が折れそうです。
それでも、やり遂げてなきゃいけない。せっかく天上院さんがここまでしてくれたんだ。彼女にここまでやらせてしまったんだ。なら俺が、その機会をふいにしてはいけない。
ギャルとデートなんてしたことないし、何処に行けばいいかもわからないけど、俺はやる。やってやるよ!
「ま、そーゆーことだから、今日は一日よろしくね、彼ピッピ(仮)♡」
そう言いながら、俺の腕にしがみつくラブ娘…あ、胸の感触が…しゅごい。今まで感じたことのない弾力が。
…ごほん。やっぱり不安になってきた。彼氏面、ちゃんと保てるかな?
―――――
とまぁ、そんな感じで始まったデートなのだが、
「ねぇ、守谷!次あそこ、あそこのお店ね!」
「ちょ、ラブ娘!もう何件目だよ!?」
「え~、まだ10件目くらいでしょ?ほらほら、さっさと行くよ!」
そう言って腕を無理やり引っ張られ、また別のファッションショップに連れられて行く。
彼女は見た目通りというべきか、服やアクセサリー類を見るのが好きなようだ。
さっきから何件ものファッションショップに連れられては、彼女の試着地獄に付き合わされている。何処に行くか考えなくてもいいのは楽だが、ひたすら試着に付き合わされるのは、それはそれでこたえる。
今も俺は、ラブ娘の試着待ちだ。女性ばかりの店に男一人でいるのは少し気恥ずかしい。
それにしても、女子っていうのはどうしてこんなに気軽に試着できるんだろう?男が試着するときは大抵、ほぼその商品を購入することを決める最終段階のことが多いと思うのだが、女子は特に気兼ねすることなく試着をする。お店の人に、買うと思わせぶることに気まずさは感じないのだろうか?
と、つまらないことを考えていると、試着室のカーテンが開いた。
「じゃーん!どうどう、似合ってる?似合ってるっしょ?」
そういってラブ娘が来ているのは、両肩をがっつりと露出したセーターに、相変わらず短いスカート。首につけたチョーカーがアクセントとなり、とてもセクシーな見た目となっている。
「うん、似合ってる似合ってる。すごくラブ娘っぽいよ」
「だっしょ~?このスカートは、ここについているフリルが特徴でね――」
そういってペラペラと服装についての解説を始めるラブ娘。
ファッションにとんと疎い俺にとって彼女の言っていることはチンプンカンプンなのだが、彼女は解説をすることそのものが好きなようで、先ほどから試着をしてはその服の特徴を解説してくる。そしてその解説がいちいち長い。
なんだろう、この感じ?誰かを彷彿とさせるんだが…
「ちょっと、ちゃんと聞いてんの!?」
「…ん?あぁ、聞いてるよ。そこの部分の色合いがちょっとイマイチだから買うのは止めるって話だろ?」
「…ち、ちゃんと聞いてるならいいんだけどサ」
まぁチンプンカンプンとはいっても、彼女は素人の俺にも分かりやすいよう工夫してくれていることが伝わってくる話し方をするから、聞いていて飽きない。だからしっかりと聞いている。
普段のように、天上院さんとサブカルチャー巡りをするのも面白いが、こういったデートも、まさしくデートといったようでまた違った面白さがある。
それになにより、俺好みの美人ギャルがいろんな恰好をしてくれているんだ。眼福という他ない。
数時間前は、こんな美ギャルとデートすることになるなんて、夢にも思わなかった。
天上院さんには悪いとは思う反面、感謝もしている。
だが、忘れてはならない。
このデートの目的を。
視界の隅に見える、ゴスロリの、葵の存在を…。




