一日限定監視付きデート開始のお知らせ
結局、俺が登校を再開することになったのは天上院さんと電話をした二日後のことだった。
彼女と電話していることが葵にバレてしまい、『そんな勝手なことができるなんて、まだ体調が戻ってないんだね』と支離滅裂なことを言われ拘束され、さらにもう一日休むことになってしまった。
今、あいつは出張から戻ってきた両親からこってりと絞られているところだ。
というか、両親が帰っていなかったら俺の不登校期間はさらに伸びていたかもしれない。
これで少しは大人しくなって欲しいものだが…多分無理だろうな。今朝葵の顔を見たが、あれは反省している者の目ではなかった。
天上院さんには明日行くって言ってしまったのに…と申し訳ない気持ちのまま登校した。
晴香たちには、というか、晴香には心配しただの返事返せだのハゲだの散々非難されたが、スマホの調子が悪かったと言えば一応納得はしてくれたみたいだ。あとハゲは俺じゃない。
杏子と純には嘘がバレていそうな気もするけど、深く尋ねてくることはしなかった。ありがたいことだ。
家族に監禁されてたとか、口が裂けても言えない。
天上院さんにも直接謝りたいと思っていたけれど、どういうわけか今度は彼女の方が学校に来ていなかった。
不安になって葵から取り戻したスマホを確認してみると、一つのメッセージが届いていた。
『天上院結愛:私に任せてください。今週の土曜日、昼の12時に駅前で葵さんと共に待っていてください。』
私に、任せてください?何を任せろというのだろうか?
メッセージが送られてきた日付は、俺が天上院さんに電話をした日の、ちょうど電話が切れた(葵に切られた)辺りの時間となっていた。
…もしかして、俺がこの前言いそびれたことについてか?
晴香に協力してもらって、葵に俺とギャルとのデート現場を見てもらい、自重してもらおうという話のことだろうか?もしかして、天上院さんはそのことを察したんじゃないか?
――ありえる。
俺ごときが考える浅い計画だ。彼女が察していたとしても疑問ではない。それに『葵さんと共に』という一文も含まれていた。これは葵にデート現場を見せる、という俺の考えを理解した上での文言、ということではないだろうか?
…その件に関しては、天上院さんには本当に申し訳なく思っている。仮にも彼女がいる立場で他の女の子とデートするなんて、本当にチャラ男みたいじゃないか。
けど、しょうがないんだ…そうじゃないと葵が納得してくれないんだ。
この前天上院さんに言ったことには、一部嘘が含まれている。
『俺はギャルが好きでお近づきになりたいからこういう格好がしたいんだ!だから許してくれ!』の部分ではない。これは真実である。
そう、正解は『苦し紛れに嘘をついてしまったんだ』の部分だ。はは。
…いや、だってこれは本音だったし、でも天上院さんには地味っこが好きってことになってるから本当のことなんて言えないし。うん、しょうがない。しょうがないじゃないか。まさかこんな厄介なことになるなんてその時は思ってなかったんだから!
はぁ、俺ってやつは、本当に…。
だけど結局、任せろというのは、どういうことだろうか?
俺が言いたかったことを察しているというのならば、天上院さんからの返事は晴香と俺とのデートを許容する『いいですよ』か、逆に拒絶する『嫌です』か、そのどちらかになるのではないか。
もちろん、分かっていないのなら『どういうことですか?』になる。
そこを、私に任せて、とは。どういうことだろう?
詳しく事情を聞くために、俺は天上院さんに二日遅れの返事を返した。
―――――
それから週末まで、天上院さんは学校に来ることも、俺からの連絡に返事をしてくれることもなかった。
担任には休みの連絡がいっているみたいだから、俺みたいに監禁事件にあっているということはないと思うが…。
そして現在、天上院に指定されていた土曜日の12時。その10分前になる。
俺は一人、天上院さんと初めてデートをした駅前で突っ立っていた。
もちろん、言われた通り葵も連れて来ている。
あいつは『後ろから見ている』と一言言い残すと、何処かに消えてしまった。きっと今も、どこからか俺のことを監視しているのだろう。怖い。
…というより、素直に言われた通り来たけど、本当によかったんだろうか?
やっぱり晴香にお願いしていた方がよかったんじゃないか?
というか、未だ天上院さんから返事来ないんだけど、本当に来るんだよね?あれ、なんか不安になってきた。
そもそも、天上院さんは俺が言いたかったことを本当に察しているのだろうか?もしかして、今日呼び出されたのも全く別の要件だったんじゃ?じゃあ葵を連れて来たのは逆効果じゃないか!?
うわ、どうしよう。やっぱり今からでも帰って…
「おーい、守谷!」
その時、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「天上院さ――ん?」
彼女に呼ばれた気がして振り向くと、そこにいたのはいつも通りの地味っこスタイルの天上院さん…ではなかった。
そこにいたのは、ギャル。
サイドテールにまとめた、ところどころに薄緑色のメッシュが入ったピンク色の髪。
目には大きなつけまつ毛、耳にはハート型のピアス。
シャツは着崩しているため胸元が大きく露出しており、スカートも冬だというのに、まるで限界を攻めているかのように短い。
そんなギャルっぽさ全開のメイクやファッションがとてもよく似合う、まごうとこなき美少女ギャル。
俺に、こんなド派手な格好をしたギャルの知り合いはいない。というより、ギャルの知り合いは晴香くらいしかいない。
だが、知っている。見たことがある。俺は、この子を知っている。
この子は…そうだ、確かいつか、晴香と行った本屋さんで…。
「………『ラブ娘』、さん?」
「お、わたしのこと知ってんだ♡」
――そうだ、この子は。あの雑誌の表紙を飾っていた。
晴香イチオシのカリスマギャル、『ラブ娘』さんが、そこにいた。




