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パンケーキを食べに行こう!

『パンケーキを食べに行きましょう!』



夜、天上院さんは電話越しに高らかに宣言した。


今はもう習慣となった、天上院さんとの夜の電話の時間のことである。


ちなみに電話をとった瞬間、もしもしよりも先にこう言われた。脈絡がないとかそういうレベルの話じゃない。



「えっと…どゆこと?」


『はっ、す、すみません!興奮してしまってつい説明を端折ってしまいました』



そう謝ってから、天上院さんは詳しく説明をしてくれた。



『つまりですね。今、若い子たちの間でパンケーキ、というものが流行っているらしんですよ』


「あ、あぁ、そうだね…結構前から流行ってるけど」


『はい?後半よく聞こえませんでしたが…まぁいいです。私たちも一応、今どきの若いカップルというものに分類されるわけですから、こういった流行には是非乗っておくことが大事なのではないかと思うわけですよ』


「うん、なるほど…?」


『本来のデートというものは、決して本屋さんで無為に時間を潰すことではないと思うんです』


「そうだね。俺はあの解説をずっと聞いてるだけでも面白かったけど」


『もう蒸し返さないでください!…だ、だからですね、明日のデートの折にパンケーキを食べに行く、というのはいかがでしょうか?…と、思った次第なのです!』



このスマホの向こうで、天上院さんがどや顔で力説している光景が目に浮かぶ。


パンケーキが流行ったのってだいぶ前の話じゃないかとか、本屋の話を蒸し返したのはそっちだろとか、色々とツッコミどころはあるのだが…要するに天上院さんは明日のデートで回るところを提案してくれている、ということだろう。


それにしても、だいぶ慣れて来たのか電話越しだと饒舌に話すようになってきたな。直接話をするときは未だにどもるけど。


――うーん、パンケーキ、ねぇ。


前にテレビで特集が組まれているのを見たことがあるが、あれ一皿で結構いい値段するんだよな。


漫画買ったりラノベ買ったりで万年金欠気味な俺にとってはちょっとお高い代物だ。


…そう考えたら、天上院さんのお財布事情の方は大丈夫なんだろうか?


彼女も俺と同じオタクであるし、漫画やラノベを買いまくっていることは知っている。そんなに余裕があるのだろうか。



「でも天上院さん、店で食べるパンケーキって結構高いよね?お金とか、大丈夫?」


『あ、それでしたら問題ありません。私、たまにですがアルバイトの方をしていますので結構お金には余裕ありますよ』



え?天上院さんってバイトしてんのか…知らなかった。俺すらしてないのに。


てっきりイメージだけでしてなさそうと勝手に思ってたから、やってるかどうか聞こうともしたことなかったな。


いったいどんなバイトをしてるんだろう…イメージ的には本屋の店員とか?



『…あの、もしかして守谷くん、あんまりお金持っていなかったりしますか?私の我儘でお誘いしているわけですし、もしそうでしたら私が二人分お支払いしますよ?』



俺の沈黙を、お金に困っているのだと勘違いした天上院さんに心配されてしまった。


いやまぁ、勘違いではないんだけども…けど、彼女の提案に食いつくのは流石にマズいだろ、男として。



「いや、大丈夫!自分のぶんくらいちゃんと払えるから!行こうか、パンケーキ!」


『…!あ、ありがとうございます!では、明日の集合時間などを決めましょうか――』



最低限の見栄を張ることに成功した俺は、財布の中身を確認しながら天上院さんとの電話を続ける。


…こりゃ、今月の新刊は暫くお預けだな。とほほ。


これからも天上院さんと付き合っていくなら、お金はいくらあっても足りないだろう。俺の場合、オタクグッズだけじゃなくチャラ男を維持するためのアクセなんかも買わなきゃいけないわけだし。


本格的にバイトのこと、考えなきゃな。



今日の電話は早めに切り上げ、俺は明日のデートに備えて早めにベッドに入るのだった。



―――――



――日曜日、バス停前。



今日は守谷くんとデートの日です。


初デートの日から丸々一か月ほど、デートどころか直接お話することもなくなってしまって少し気落ちしていましたが、一度学校でお話をしてからはデートにもちょくちょく誘っていただけるようになりました。


やっぱりあの時、勇気を出して話しかけて良かったです。


あの時は、初デートの時に何か良からぬことをやらかしてしまったのかな、とかやっぱり本屋の件で引かれてたんじゃないかな、とか心配でたまらなくなってつい話しかけたのですが、話してみると守谷くんは特に何かを気にしている様子はありませんでした。


どうやら私の杞憂だったみたいです。


ですが、ならどうして一か月ほど避けられていたのでしょうか?


もしかして、守谷くんがチキンを発揮していたから、とかでしょうか…?段々と分かってきましたが、守谷くんは見た目強そうな割に心はシャープペンシルの芯よりも折れやすいほど脆弱ですし。


…まぁ、考えても分かりませんし、今また守谷くんと二人でお出かけができる関係に戻れたのならそれで十分です。


それよりも、これからのデートについて思いを馳せている方がよっぽど有意義な時間の使い方と言えるでしょう。


今日はなんと、守谷くんとパンケーキを食べに行くことになったのです!


休日にパンケーキを食べに行く二人…あぁ、なんてカップルっぽいデートなのでしょうか!


最近のデートは私が守谷くんを本屋さんやアニメショップやレンタルビデオショップに連れまわして終わるという、初回のデートから何も学んでねーなおめぇって感じのものでしたからね。なんのために少女漫画を読み漁っているのか分かったものじゃありません。


今日は、今日こそは、理想のデートっぽいデートというものを完遂してやろうではないですか!オープンオタクの名にかけて!


…それに、今日はそれ以外にも一つ、目的がありますから。


と、そんなことを考えていると遠くから歩いてくる守谷くんの姿が見えました。


今日もまた、ダサめの服装にニット帽&眼鏡と、私に合わせた変装をしてくれています…優しいです。



「天上院さん、おはよう。ごめん、待ったかな?」


「あ、お、おはようございます、守谷くん。大丈夫です、私もい、今来たところですから」



やりました!まずは第一段階、『「ごめ~ん、待った~?」「ううん、今来たところ」作戦』が成功しました!


ふふふ、デートの滑り出しは順調です。


ここからしっかりとデートっぽくしていきますから、覚悟していてくださいね、守谷くん!



「な、なんだか天上院さん、今日はやけに気合入ってるね。服装はいつも通り気合0だけど」



…五月蠅いです。


若干勢いを削がれながら、私たちはちょうど到着したバスに乗り込みました。



―――――



バスに揺られ30分。そこから歩いて5分少々。


俺たちは目的のお店である『Café ヒマワリ』に到着した。


なんでも、調べてきてくれた天上院さん曰く、「駅から多少離れた場所にあるがそれでも構わず足を運ぶ人が絶えない人気店であり、特にお店の売りであるパンケーキは絶品というより他に言い表す言葉がない。それと、店員も非常に個性豊かで店に行くだけでもその価値が十分ある」とのことだ。


当然混雑が予想されるため、俺たちは昼前のまだあまり客が入っていないであろう時間に着くようにやってきた。


やってきた、のだが。



「な、なんだか既にお客さんでい、いっぱいですね」



呆然としたように天上院さんが呟いたが、まさにその通りだ。


お店のドアを開けると、まだお昼前だというのに席はほとんど客で埋め尽くされており、店員の人たちも忙しなく動き回っている。


さ、流石はパンケーキの人気店。


パンケーキブームなんてもうとっくに過ぎたんじゃないか、とか勝手に想像していたが、どうやらまだまだ流行の波は続いていたようだ。


ぼーっと突っ立っていた俺たちの下へ、一人の女の子が近づいてきた。



「いらっしゃいませ。お客様は二名様でよろしいでしょうか?」



とても小柄な少女で一瞬小学生と見間違いそうになったが、エプロンをつけているためどうやらここの店員さんのようだ。


ようなのだが…なんとも個性的な店員さんである。


俺が、横で口を開いたまま固まっている天上院さんも恐らくそうだが、驚いた理由は少女の容姿にある。


背の低さもさることながら、なによりも目を引くのはその髪の毛だ。薄っすらと光を発しているかのように錯覚するほど煌びやかな、腰まで伸ばした銀の髪。


それに、まるで蒼玉のごとく澄み切った美しい双眼。


あと童顔。


つまるところ、銀髪碧眼ロリ。


まさにアニメの世界から出て来たかのような出で立ちをした少女であったからだ。



「…お客様?」


「――あ、あぁ、ごめんなさい。二名で大丈夫です。すぐに入れますか?」


「はい。先ほどちょうど一席空いたところですので、ご案内致します」



おっと…つい銀髪少女に見とれてしまっていた。


俺たちは銀髪少女に連れられて二人掛けの席へと案内された。


ちなみにその間、天上院さんはずっと口を半開きにしたままであった。


気持ちはわかる、すげーわかるぞ。


あんな二次元から出てきましたと言わんばかりの女の子を見てしまったらそりゃ興奮するよな。普通の人でもあの容姿を見たら興味津々だろうに、オタクなら尚更だよな。


そりゃあ興奮のあまり開いた口からうひひって気持ち悪い笑い声も、涎も垂らすよな…って流石に涎はマズいよ天上院さん!ぼーっとしてる間に拭いといてあげよう。



「――はっ!も、守谷くん、あの、二次元が!三次元に!2.5次元ですか!?」



しばらくして意識が現実に帰ってきた天上院さんは、興奮した様子で腕を振りながら文章になっていない単語を連呼し始めた。


…天上院さん、そんな子供みたいに大はしゃぎするなんて…う、羨ましいぃぃぃぃぃぃ!!


俺もしたい!はしゃぎたい!なんだよあの店員!あの容姿はマジ美味しすぎるだろ!パンケーキ食べに来たのに、あれ見れただけでもう結構お腹いっぱいだよ!なんだよ銀髪碧眼ロリって!属性てんこ盛りすぎるだろ!盛るのは生クリームだけにしとけよ!パンケーキだけにね!


…という心の中の躍動は、決して外に出してはいけないのだ。


俺は必死に表情筋をコントロールし、よく油断するお口には戒厳令を布く。


何故なら、俺は隠れオタクだから!「そうだね。なかなかいないよね、あんな子」くらいの同意しかできないのだ!くそったれ!




その後、水を運んできてくれた銀髪少女を見た天上院さんの意識が再びトリップしてしまったため、俺たちが注文をすることができたのはそれからさらに10分後のことだった。


パンケーキを食べる話を書きたかったのになぜかまだパンケーキ食べてない不思議。

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