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ベタな展開は好きですか?

思うところあってサブタイトル変更しました。

――月曜日、夜。



………夜。


えぇそうです。夜、です。


あれからずっと本屋さんで一方的に守谷くんに解説をしていると、いつの間にか夜になっていました。


時間にして、実に7時間です。


もう一度言います。7時間です。


初デートで、本屋さんに、7時間です。



「ひぐっ、も、守谷くん、こ、こんなにもどうしようもない私を、ぐすっ、殺してください」


「いや殺さないよ?落ち着いて?」


「ず、ずびばぜん。やっぱりこ、殺すのは勘弁してください。せめてあの、は、腹パン程度でご容赦を」


「いや腹パンもしないよ?落ち着いて?」



うぅ、いい年こいて大号泣してしまいました。


まさか私の人生初デートが、守谷くんとの初デートが、そのほとんどが、私の一方通行どや顔解説で終わってしまうだなんて。


こんなのってないです。自業自得ですけど。


初デートと言えば、お互いにまだ距離感がつかめないままそれでも一緒に映画を見にいってさりげなく手を握ってみたり洋服さんで試着をして「に、似合うかな…?」なんて恥ずかしがりながら聞いてみたり他にもあの…これ以上は経験不足なので思いつきませんが、とにかくそういう甘酸っぱい雰囲気漂うものではないのでしょうか。


それが、それがどうしてこんなことに…



「うぅぅ、や、やっぱりデコピンでもいいのでお願いします!私に、愚かな私に罰を与えてください」


「天上院さんって、Mなの?」


「いえ違います守谷くんその発言はセクハラ一歩手前です」


「なんでそこだけ真顔で返すんだよ…」



そう言って、守谷くんはため息を一つつきました。


うぅ、やっぱり幻滅してしまいました、よね?


ただでさえ魅力なんて欠片もない外見で、その上オープンオタクで。


挙句の果てには初デートでもこんなありさまだなんて。


守谷くんは私のためにいろいろと気を遣ってくださったのにも関わらず、私は本当に…



「なぁ、天上院さん。デート、まだ終わったわけじゃないだろ」


「…え?」


「ほら、行こうよ」



――え、え、え?


混乱する私をよそに、守谷くんは私の手を引いて歩きだしました。


いったいどこに向かうというのでしょうか。



―――――



天上院さんの手を引いて連れて来たのは、駅から少し歩いたところにある大通り。


そこは色とりどりのイルミネーションに彩られ、道に積もる真っ白な雪とのコントラストが幻想的な雰囲気を醸し出していた。


まぁ、大通りだから人通りも多いんだけど、贅沢は言ってられない。


振り返って天上院さんに声をかける。



「天上院さん、ここ、毎年12月にイルミネーションやってるみたいなんだよ。結構な規模でやってるんだな」


「そ、それくらい知ってます。毎年のことです、から」


「そっか、天上院さんは昔からここに住んでんのか。俺は今年からこの市に住み始めたから初めて見るんだ」


「そ、そうなんですか?…でも、そうですね。ここには基本カップルや家族連ればかり集まるので、わ、私もイルミネーションを見ようと思ってここに来たのは初めてです」


「じゃあ、初めて同士、だね。初デートで初めての経験…これならいい思い出にならないかな?」



そういって彼女に笑いかける。


デートの経験なんてない俺には、こんなことくらいしか思いつかなかったけど、それでも初デートの相手を泣き顔で終わらせることはしたくなかった。


だからふと思いついてここに連れて来たんだけど、どうだっただろうか?


天上院さんは、笑顔になってくれるだろうか?



「…イルミネーションなんて。守谷くん、ちょっとベタすぎです」


「う…わ、悪かったな。俺もデートの経験がな…くはないよ、チャラ男だから!あるよ!でも、正直天上院さんが喜ぶことが分かんなくてさ」


「それは、当然だと思います。私たちは、まだ付き合ってから日が浅いですし、そもそも初めて会話したのだって、さ、最近です。まだ、私たちはお互いのことを、全然知りません」


「…そうだよ、ね」


「だから、お互いのことをもっと教え合いませんか?初めての情報、ということで。これも初デートの思い出に、なりませんか?」



そういって悪戯っぽく笑った彼女の姿は、イルミネーションの光に照らされて、とても眩しく映った。



―――――



それから私たちはイルミネーションに照らされた大通りを歩きながら、たくさんお話をしました。



「へー、天上院さん家犬飼ってるんだ。なんて名前なの?」

「ワンチャンです」

「…うん、ワンちゃんなのは分かってるんだけど、その名前をね?」

「…だから、名前がワンチャンなんです」

「…その名前、もしかして天上院さんが考えたの?」

「わ、悪かったですね。む、昔からネーミングセンスが絶望的にないんです、私」


「ウチはペットとか飼ってないなぁ。兄弟はいるんだけどね、下に一人」

「そ、そうなんですね。私は一人っ子なので、す、少し羨ましいです」

「でもいいお兄ちゃんでいなきゃってプレッシャーが半端じゃないぞ」

「ふふ、それもお兄ちゃんの性ってやつです、ね」


「そういえば、どうして守谷くんは連絡をするとき、い、いつも語尾に草を生やすんですか?」

「え、だってその方がチャラ男っぽ…いや、文章がこう、和むかなって」

「ふ、普通にウザいだけだと思います。煽られてる気しか、し、しません」

「嘘!?」

「マジです」


「天上院さんは漫画とかラノベとか何冊くらい持ってるの?」

「そうですねぇ、ざっと300冊程度でしょうか」

「意外と少な…いや、よくわかんないけどそれって多いの?」

「全然少ないほうですよ。ですが最近はレンタルとか電子書籍とかも充実してますし、読んでる数はもっと多いですね」

「なるほどな」


「守谷くん、ずっと聞きたかったんですけど今日のその格好は、ど、どうしたんですか」

「あぁこれか?ダサいよな。た、たまたま持ってたけど着る機会がなくてさ。なんていうか、天上院さんに合わせたかったっていうか…」

「…そ、そうですか。ありがとう、ございます」

「い、いやいやこちらこそ」

「……っぷ、ふふふ」

「……ふっ、あはははは!」



たくさんのことをお聞きして、たくさんのことを教えました。


たくさんたくさん、守谷くんのことを知ることができました。


守谷くんにも、たくさん私のことを知ってもらうことができました。


あぁ、楽しいです。


守谷くんと一緒にいるのが、こんなにも楽しくて。


さっきまでの凹んでいた自分は、いつの間にかどこかへ行ってしまいました。


ずっと、こんな日が来るのを夢見ていたような気がします。




――ふと、視線を感じました。


なんとなくそちらを向くと、フリフリのゴスロリ衣装に身を包んだ、金髪ドリルロールの小さな女の子がこちらをじっと見ていました。


誰でしょうか?私に見覚えはありません。


というより凄い恰好です。あのアニメの中のお嬢様しかやりそうにない髪型をリアルでやる人がいるんですね。


もしかして、守谷くんのお知り合いでしょうか?


一瞬私の前を歩く守谷くんに目を向けた後、再度視線を戻すと、既に女の子の姿はそこにはありませんでした。


なんだったのでしょうか、いったい…



「わぷっ」


「あ、す、すまん天上院さん」



よそ見をしながら歩いていると、突然立ち止まった守谷くんにぶつかってしまいました。



―――――



「……葵?」



なんとなく見知った顔が視界に映った気がして立ち止まった。


けれど、辺りを見回してもそこにはもう、そいつの姿はなかった。


見間違えだったのだろうか?


でもあんな格好しているやつ、他になかなかいないよなぁ。



「わぷっ」


「あ、す、すまん天上院さん」


「い、いえいえ、大丈夫です。ちょ、ちょっと待ってくださいね」



っと、思わず立ち止まってしまったことで後ろを歩いていた天上院さんが俺の背中にぶつかってしまった。


振り返ると、彼女は屈んでわたわたと両手を動かしていた。


なにしてるんだと声をかけようとしたとき、視界の端に、雪に埋もれた眼鏡があることに気が付いた。


――あぁ、ぶつかった拍子に眼鏡を落としちゃったのか。


眼鏡を拾い、雪をほろう。


落ちた場所が幸いだった。地面に直撃して割れなくてよかった。


彼女に眼鏡を差し出しながら声をかける。



「ほら、天上院さん。眼鏡あったよ」


「あ、ありがとう、ございます」



そういって彼女は立ち上がり、顔を上げた。


その瞬間、少し強めの夜風が吹いた。


彼女の野暮ったい前髪が風になびき、ついに覆うもののなくなった彼女の目元が露わになった。




――綺麗だ。


切れ長で吊り上がった、力強さを感じさせる大きな目。


一点の曇りもなく、ひたすらに澄んだ瞳。


いや、目元だけではない。


こうして彼女の顔全体を見るのは初めてだったが、目、鼻、口、眉毛に至るまで。


全ての顔のパーツが美しい造形をしており、それらの絶妙な配置も顔の端正さに磨きをかけている。


――綺麗だ。


それ以上の言葉が、出てこなかった。


視線を合わせているだけで、胸の奥がぎゅっと鷲掴みにされたような、そんな気さえ、した。



『守谷くん、ちょっとベタすぎです』



天上院さんはそう言った。


――とんでもない。


ベタはいったいどっちだよ。


眼鏡をとったら美少女って、そっちのほうがよっぽどベタすぎるだろ。




俺はそれから天上院さんと別れるまで、終止彼女と目を合わせることができなかった。

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