告白はライトノベルと共に
完全に見切り発車ですが、どうぞよろしくお願いします。
夕暮れの街中、人でごった返す大きな通りを僅かに逸れたその場所に建つのは、なんの変哲もない一棟のビル。その二階。ここは、アニメ好きなソウルメイトたちが集う某有名店の一角。
色とりどりのポップに飾られ、数多のライトノベルが置かれたこのコーナーには今、多くの客や店員の視線を集めている若い二人組がいた。
普段は喧騒に包まれた店内は、まるで示し合わせたかのような静寂に包まれている。
…否、近くに設置された小型テレビから流れる、六人兄弟が主役のコメディーアニメのPVの音だけが愉快に鳴り響いている。
若い二人組は、女と男であった。二人はお互いを見つめ合ったまま微動だにしない。
…と、これだけ聞くとただのバカップルが公衆の面前で『そして見つめ合う私たち…』なんてラブコメの最後のページあたりに載っているような痴態を晒しているようにしか聞こえないかもしれないが、それにしては違和感があった。
女はぼさぼさの長髪、猫背の上に羽織った地味目な紺色のコート、膝下まで伸ばしたスカートと、明らかにルックスに無頓着な姿をしている。野暮ったいほど伸びた前髪で両目は隠れ、さらにその下には洒落っ気の感じられない、レンズの分厚い眼鏡をかけており、彼女の容姿を一言で表すならば『ミス地味っこ』というワードが最も相応しいだろう。
だが、そんな彼女の格好はここ、アニメ好きなソウルメイトたちの集う店においては珍しくもなんともない。むしろありふれた、マジョリティーな見た目と言っても過言ではないだろう。
かたや彼女と相まみえる男の姿こそが、違和感の塊であった。
服装はブレザータイプの制服ではあるものの、耳にはピアス、しっかりと整えてある頭髪は金色に染まっており、着崩して開けた首元にはネックレスが光っている。
『チャラ男』という言葉がよく似合うこの男の違和感は、何も服装が店の雰囲気に適していないというだけではない。最大の違和感の原因は、男の右手にあった。
男の右手にあるのは一冊の本。
ライトノベル『根暗・オタク・ぼっちの三重苦背負った僕が異世界転生した結果ww』である。タイトルもさることながら、その表紙には胸の大きな美少女のイラストが大きく描かれている。いわゆる、オタク向けの一冊。
違和感。圧倒的、違和感。
そんな、場に全くと言っていいほど馴染んでいないこの男は頬を赤く染め、キョロキョロとせわしなく視線を動かしながら、目の前の地味っこに向かい何か言いたげにひたすら口をパクパクさせていた。
が、やがて唾を一つ飲み込むと、意を決したかのように、他の客に迷惑になりそうな声量で、
「お前のことが好きだ!俺と付き合ってくれ」
「え、無理なんだけど」
…告白、即撃沈した。
これが、彼ら二人が織りなす物語の、なんとも形容しがたいプロローグであった。