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キャットティアーズを開店して、珍しく晴が仕事をしていると一人の客が入店する。
「いらっしゃいませ」
凍が、接客を行おうと近づこうとしたその時。
ガッシャーン
コーヒーカップが割れ、晴の方を向くとそこには誰も居なくなっていた。
「あの、月島晴がここにいるって聞いたんだけど……」
ジーンズジャンパーを羽織り、黒の野球帽を被り。靴は、ブーツを履いている。
「えっと……店長のお知り合いですか?」
「……。とりあえず、バイトの面接したいんだけど」
野球帽を深く被り、表情を読ませない。
「と、とりあえず席に」
席に誘導するとドカッと席に座る。
その来客から隠れるように晴は、物陰から見ている。
「コーヒー。一つ」
「分かりました、あっでも店長が……」
唾を飲み込み、物陰から見ていると。
後ろから、蹴りを浴びせられ。カウンターに出る。
「あっ、店長!もう、どこ行ってたんですか?」
「店長……?」
帽子に隠れた視線を感じ、晴は目を逸らす。
「晴先輩……?」
「お、おう……久しぶり」
返事は返すが、目線は逸らしたまま。
来客は、カウンター席に移動する。
「今は、店長なんてやってるんだ」
「あぁ……」
コーヒーを入れ終えて、来客である彼女の前に手を出すとその手を捕まれる。
「あのお客様……。手を離していただけないですか?」
「先輩……晴先輩の手だ……」
手を取り、頬擦りをする。
晴の手に鳥肌が立つ。
「離せ、離してくれっ!」
「あぁ~…あの温かい晴先輩の手……」
彼女は、それを無視して。晴の手をがっちりと掴み離さない。
そんな二人の光景を見て、凍は慌てる。
店の奥で、バキバキと木がへし折れていく音が聞こえ。凍は、全てを察して。客を外に。店の看板をcloseに変える。
「お客様、店長とはどういう仲で?」
帽子を取り、可愛らしい眼差しで晴を見ると。視線を火砕に向ける。その目からは、とてつもない覇気を出していた。
「あんたは?」
「私は、店長の同僚よ。その生意気な目、気に入らないんだけど」
「アタシは、月島晴の……妻です」
晴の言葉より、先に火砕の拳が出ていた。
拳は、受け止められ。
女の戦いが始まる。
「アタシに喧嘩売ってくる女なんて初めて」
「私も。まさか女を殴るとはな」
二人は組み合う。
「アタシは、金羽あいむ」
「私は、火砕ひでり」
二人は組み合い、犬歯をむき出しにして。組み合う二人は、女子というものではなかった。
二人を見て、怯える凍に晴は手で視界を覆う。
「君は……あんな風にならないでくれ」
「は、はい」
凍を奥に誘い、中でプルプルと震えていた風華に耳栓をする。
「頼むから、君達二人はあんな風に強くならないでくれ。これは、店長との約束だ」
「は、はい!!」
二人は、店長に固くそう誓った。
店内では、二人の……いや、二匹の獣が争いを続けていた。
キャットティアーズ、明日は休業します