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朝、目が覚めると体にしっとりと熱が。
熱の元の正体が、居候二人と分かる。
胸には、しがみついた若菜が寝息を立てて寝ている。
左側で寝ていた火砕は、毛布をはだけて。左側に抱き着いている。
ふっとつい、笑みが晴からこぼれる。
「まるで、本当に父親になったみたいだな」
優しい眼差しで、父親のように若菜の頬を撫でて、晴は起き上がる。
一階のリビングに降りると、タバコを吸い始める。
「叔父さん、あんたの夢に追いつけてるか。俺は」
ふーと天井に白い息を吐き出す。
室内には、タバコが燃えていく音だけが小さく響く。
「店長」
「あっ、悪い。起こしたか?」
「いえ、目が覚めたらいなかったので。それにしても」
そこで、言葉はとぎられる。
「まさか、店長が若菜ちゃんが心配だから一緒に住んでくれって言った時はびっくりしました」
「いや、あいつ。女の子だし、荷物はある程度持ってきてたけど。男の俺には対応してやれないことがあるかもなって」
はぁ~と諦れたように火砕は溜息をつく。
「あれ聞いた人によっては、ある意味では告白ですからね」
「そうか?まぁ、分かったのならいいだろ」
ふ~とまた白い息を吐き出す。
「まったく……」
火砕は、軽く頬を膨らませる。
「うぅ~…お姉ちゃん…おトイレ」
「あっ、ごめんね。お姉ちゃんと一緒に行こうね」
若菜の手を握り、手を引いてトイレに誘導する。
「まるで、本当のお母さんだな」
ふっと小さく笑みを火砕は浮かべる。
「なら、店長はお父さんですね」
凍と風華が着替えていると視線を感じ、ドアを見ると隙間から覗いているものがいた。
「店長ですね!店長何ですね!」
「店長さん、えっちです!」
手当たり次第にドアへと投げつけ、のぞきの主がドアから倒れる。
それは、二人の言うように晴だった。
「ぐっあ……我が人生」
ドンと後ろから更に一発麺棒で殴り、晴を沈めた。
「大丈夫だった?」
「は、はい。それにしても店長もよくやりますよね。ここで働いてる中で男は一人しかいないのに」
「て、店長さんもや、やっぱり男の人なんですね」
「そうね、それじゃさっさと着替えてね」
ドアを閉め、火砕を引きずりながら麺棒片手に去っていた。
「店長、人柄良さそうなのに。変態なんですよねー」
「し、仕方ないですよ。凍さん。店長さん、だって。そ、その男の人ですから。や、やっぱりそういう気分に」
「まぁ、そうですけど。そういえば火砕さんと、店長ってどんな仲なんですかね?」
「凍さんが、お仕事始めた時には…そ、その。火砕さんはもう……勤めていたんですか?」
制服を脱ぎ、下着姿になる。
二人の体は、対照的で凍は一部分の自己主張が乏しく。風華は、その自己主張が激しかった。
「はい、何だか二人の仲の良さは、何と言うか。昔からお互いを知っているような」
「そ、そうですね。やっぱり……恋人何でしょうか?」
「恋人同士で、お菓子屋さんなんて……何か素敵です」
二人は、目を輝かせると着替えを終え。仕事に入っていた。
「ひゃ!」
客の一人が、凍のスカート越しにおしりを触れる。
「何だよ、俺は客だぞ。さわらせろよ」
「ははっ、やめとけって。その子脅えてんぞ」
テーブルに座っていたのは、髪を染め上げ。鼻ピアスをした大学生と思われる二人組だった。
周囲の人達が、騒ぎだし。一人のサラリーマンが乗りだそうとした時、晴が前に出てそれを止める。
「すみません、お客様。当店は、そのようなお店ではありませんので」
「あぁ?こっちは、金払ってクソ甘いもの食ってやってんだぞ!それぐらいのサービスいいだろ!」
男は、明らかに晴を馬鹿にしていた。
だが、晴は坦々と笑顔で言葉を紡ぐ。
「お口にあいませんでしたか?それについては、申し訳ありません。ですが、触っていいわけではありませんので」
「あぁ、ここのケーキはクソ甘いだけだ!美味くねぇからよ、不愉快になっちまった」
ドンとテーブルに足をのせる。
「店長……」
心配そうに凍が言うと大丈夫だと客見えないように口を動かして伝える。
「あぁ?お前、店長なの?ははっ、こんな奴が店長とか」
「確かに、脅えて。反抗できないもんね」
二人の客が笑うと周囲の空気が更に悪くなる。
「お客様、わかりました。ここでは、他のお客様の失礼になりますので。奥の方で」
二人は、素直に同意し。厨房へと入っていく。
「店長、お客様を連れて来ないでください」
「ごめん、ごめん。ちょっと裏で話し合うから。絶対に二人と若菜には覗かせないように」
わかりましたと火砕は、了承すると。
二人を連れて、出て行った。
「あ、あの。店長は、大丈夫何でしょうか?」
心配そうに。客に謝罪を終えた凍が尋ねてくる。
「大丈夫よ、店長はあれでも強いから」
「そ、その。火砕さんと店長さんはどういった関係何ですか?」
はぁ~と火砕は溜息をつく。
「知りたい、風華ちゃん。凍ちゃん」
「はい」
二人の声が揃う。
「私と店長は、何と言うか。先輩と後輩なの。中学の頃からの」
「そんな昔から」
「店長は、昔から悪みたいな人だったけど。根は優しくて面倒見がいい人だったわ。大学と専門に分かれてからは知らないけど、また縁があって。こうなっているという感じよ」
へぇ~と二人は、目を輝かせて話を聞いている。
その時、裏では。
「さて、お客様。いえ、もう店外なんで。……てめぇら、うちの凍ちゃんに何してくれてんだよ」
「何?やろうってんの?」
「二対一だぞ、勝てると思ってんの?」
言葉を最後まで聞かずに、男の顔面を殴りぬける。
「やろっ!」
間髪与えずに、もう一方の男の顔面も殴る。
二人が、だらんと膝を付くと。
二人の鼻についたピアスを掴む。
「てめぇらさ、こんなものつけてたら。抜いてくださいって言ってるようなもんだろ」
晴の顔に、笑みが浮かぶ。
その顔は、二人からは悪魔のように見えた。
「お前らさ、分かってねぇな。女っていうのは愛でるものだ、見て愛でるものだ。触れていいのは、女が許した時だ。わかったか?見て愛でろ。触るな、いいか?もし、またご贔屓にしてくれるなら。それを理解して、入店してください。お客様」
「は、はい!」
二人のピアスから手を離し、二人は逃げるように去っていく。
「またの来店、お待ちしております」
頭を下げ、一仕事を終えたあとのタバコを吸う。
三人のガールズトークは、まだ続く。
「火砕さんは、何でこの店に?」
「ん?店長が、この店を始めるって聞いて。誘われたから…かな」
「そ、そもそも店長さん……悪だったのに。何でこの店を?」
「それは……元々、この店は叔父さんが始めようと思ってた店なの」
「叔父さんが?」
すこしばかり悲しそうな目で言葉を火砕は紡ぐ。
「叔父さんと店長は仲が良くて。叔父さんは、悪者だった店長を両親以上に真っすぐ向き合ってくれて。叔父さんは、残念ながら……途中で倒れてしまったけど。店長は、その夢を継いで。この店を開いて今に至るの」
その時、裏口のドアを開けて。
すっきりした顔で晴が入ってくる。
「はい、あの二人はちゃんと」
凍と風華は、目を潤ませ晴を見つめる。
「な、なに?二人とも」
「店長、私もっと仕事頑張りますね!」
「わ、私も。早く力になれるよ、ように頑張ります!」
二人のその決意に晴は、困惑する。
「えっと、火砕。これは?」
「ふっ、さぁ?何だろう」
キャットティアーズは、今日も開店しております。