表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャットティアーズ  作者: 雪折小枝
バイトの子、揃えました!
4/6

3

晴は、腫れた顔にガーゼを貼って。

二回の窓から朝日を眺めている。

「はぁ~、今日も始まりか」

欠伸を掻き、コーヒーを入れタバコを吸う。

「あぁ~、目が覚めてきた」

玄関から、鍵を開け放つ音が聞こえる。

トトッと床を歩いてくる音が近づき、リビングのドアを開け、火砕が入ってくる。

火砕は、桃色の半袖Tシャツを着て。下は白のスラックスを履いている。

「おはよ、火砕」

「店長、おはようございます」

「コーヒー入れたけど、飲むか?」

「はい、いただきます」

マグカップにコーヒーを入れると、それを火砕に渡す。

「んっ…やっぱり店長が入れたコーヒーは美味しいですね」

「そうか?とりあえず、ありがと」

「はい、店長はコーヒーを入れることしかできない無能ですから」

「いつもの毒舌ありがとうございます」

コーヒーを飲むと、火砕は仕込みに入り。手伝おうと思い、厨房に行こうとすると不意にチャイムが鳴る。

「誰だよ、こんな時間に」

玄関を開けるとそこには、一人の小学生の女の子が立っていた。

「おとうたん?」

「えっ?ははっ、多分人違いです」

バタンとドアを閉めて、鍵をかけて。チェーンをかける。

晴は、自分に言い聞かせる。

(夢だ、今のは夢だ。まだ寝ぼけているんだ。俺は)

リビングに戻り、タバコを吸い。少しずつ落ち着きを取り戻した時。

ピンポーン

また、チャイムの音が鳴る。

「あぁ、まだ眠いな。寝るか」

「店長、お客さん来たみたいですけど。出ないんですか?」

バタン、バタン、ドン

いきなり声をかけられ、後ろのキッチン棚に頭をぶつける。

「大丈夫ですか、店長」

「あ、あぁ。俺は至って冷静だ」

「はぁ、それでお客さんは?」

「き、気のせいだよ。火砕くん、最近チャイムが勝手に鳴るんだ」

「まるっきりホラーじゃないですか、店長が出ないなら私が」

玄関に行こうとする火砕を晴は、足に抱き着いてとめる。

「や、やめてくれっ!た、頼む!」

「何必死になってるんですか?店長が、そこまで必死になって容認したくないもの…見たくなりました」

足にしがみついている晴をものともせず、火砕は玄関に歩みを進める。

「頼む、頼むよ!火砕、明かしちゃいけない謎だってあるはずだ!」

「これ、別にミステリーとかじゃないんで。謎は明かすべきですよ」

一歩一歩確実に近づき、玄関に辿りついてしまう。

チェーンと鍵を解除し、ドアを開ける。

「どちら様ですか?」

火砕は、下から視線を感じ。

視線を下に向けるとそこには、先程の少女が立っていた。

「お姉ちゃん、だれ~?」

「店長、この子は?」

いまだ足にしがみつき、少女に顔が見えないように地面に伏せている晴に視線が集まる。

「あっ、おとうたん!」

「お、おとうたん!?」

ギロッと上から視線を感じ、目を合わせないように晴は地面に伏せていた。



学校が終わり、キャットティアーズに急いで向かっていると。

電信柱に隠れている風華と出会った。

「あっ、風華さんですよね?」

ビクッと体を奮わせた風華は、こくこくと頷く。

「えっと、何されてるんですか?」

「こ、これは。あまり、人から見られないように。私、人と視線をあわしたりすると。き、緊張しちゃうので!」

「ははっ、そうなんですか……でも、それって反対に目立っていると思うんですけど」

「えっ!?そ、そんな」

しゅんとして、電信柱から離れ。普通に歩き出す。

「あ、そ、そういえば。私の方が高校生で、先輩ですけど。でも、バイトだと後輩で……。私、水辺さんのことなんと呼べば?」

「そうですね~…私のことは凍と呼び捨てでいいですよ?」

「なら、凍さんと呼びますね」

先程まで、前を見て視線をあわさず。話していた風華は、振り返り。笑顔でそういった。

凍の心がドクンとその笑顔を見て、跳ねる。

「は、はい。よろしくお願いします!」

ドクンドクンと跳ねる心を押し付ける胸を押さえる。

(私、何で心動かされてるの!目の前の先輩は、女の人!女の人だから!)

「ふにゅ?」

風華は、頭を可愛らしく傾げた。


二人が歩いていると、キャットティアーズに無事到着し。裏口に向かうと、晴が松葉杖をついてタバコを吸っていた。

「あっ、おはよ。今日もよろしくね」

相変わらず、バーテン服を着ている晴は整髪剤を使い。髪を軽めに立てていた。

「店長、どうしたんですか?松葉杖をついちゃって」

「あぁ、実は嫁が怒っちゃって」

目にも止まらぬ速さで、裏口に吸い込まれた晴は中でバキバキと骨が折られた音とともに、外に吐き出された。

「えっと……まぁ、こんな感じだから」

「て、店長。本当にいつか死んじゃいますよ」

ははっと晴は笑う。

「おとうたん、大丈夫~?」

裏口のドアを開けて、小さな女の子がヒョコヒョコと出てくる。

「て、店長さん?こ、この。この子は、店長の」

「いや、違う!俺は、この子の父親じゃない!」

「店長……」

二人は、ジト目で晴を見る。晴の額に汗が沸いて来る。

その時、携帯が鳴り。電話にすぐさま出る。

「あっ、お兄ちゃん~?若菜は、ついた?」

「若菜?誰だ、そりゃ?」

「あっ、お母さんの声だ!お母さん~!」

小さく二つに結ばれた髪をぴょこぴょことうさぎのように揺らす。

「うん、ついてるじゃん。良かった」

「おいっ、この子はお前の娘か?」

「そうだよ~、私と旦那の可愛いい若菜ちゃんだよ」

「若菜ちゃんだよ、じゃねぇよ!俺のこと、おとうたんって呼んでるだが!!」

「そりゃ、若菜には。お兄ちゃんのこと、そう呼んでって教えたもん」

「なんでそんな呼び方を?」

電話の向こうでふふっと笑う声が聞こえる。

「だって、きっとそれを聞いたらきっと。火砕さんにボコボコにされると思って」

「お前は、鬼か悪魔か!」

「えっ?私は、お兄ちゃんの妹でしょ?」

「くっ……」

若菜がお母さんと騒いでるので、晴は携帯をかわる。

「お母さん!おとうたんと会ったよ~」

「偉いね、じゃあ言った約束守れる?」

「うん!全然大丈夫だよ!」

そこで、若菜は晴に電話を返す。

「それで、お前仕事で外国に行くって言ってなかったか?」

「うん、だから少しの間。預かってほしいの。ってか、預かれ」

「急に命令口調だな、いいけどよ……いつまでだ?」

「わかんない、私の仕事次第かも」

「わかんないって、お前」

「仕方ないの。若菜を今回は連れていける場所じゃないから……」

電話の先で、重い空気を感じて。

晴は、溜息をつく。

「わかったよ、若菜は俺に任せろ」

「さっすがお兄ちゃん!じゃあ、よろしくね!」

ピッと電話を切ると、重く溜息をつく。

「ということみたいです」

「店長さんの妹さんって、お仕事はなにを」

「あぁ~、確かカメラマンだよ」

「カメラマンって、店長の妹さんは凄いお仕事されてるんですね」

晴のスラックスを若菜が握ってくる

「あぁ、若菜。今日からこの人達が、お姉ちゃんだぞ」

「よろしくお願いします」

ぺこりと礼儀正しく、おじぎをする。

「よろしくね、若菜ちゃん」

「はい、よろしくですよ。若菜ちゃん」

三人が、仲良く触れ合う姿を見て。

晴の心が、温かくなっているとドアごしから声をかけられる。

「話は、終わりましたか?早く、二人を入れてください」

「は、はい」

ドスの効いた声を上げている火砕に促されるまま二人を入れ、タバコを吸い直す。

「おとうたん、タバコダメだよー」

「ははっ。そうだよな、ごめん」

灰皿に押し付け、二人は中に入っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ