表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4 最期の手紙

『こんにちは。この手紙が無事あなたの元へ届いていることを希っております。もし、心当たりのない方がこれを見ていらっしゃるならば、そっと置いてあった場所に戻してくれると幸いです。


 さて、端的に言うと私は多分この世にいません。急にいなくなってしまって、ビックリしましたか? 今となっては確認する術はありませんが。


 きっとあなたがこの手紙を読んでも何も変わらないと思います。でも、多分これが私の最期のお仕事だから。たとえあなたが読んでくれなかったとしても、私はこの手紙を残します。



 あなたに出会ったあの日、医師に治らない病を宣告されました。頼るべき大人も、大事な人もいなかった私にはどうすることもできず、ただなんとなく、あの公園でブランコに乗っていました。傘も差さないで、バカみたいですね。


 でも、あなたが声を掛けてくれた。一緒に濡れてくれた。冷たい態度の私にも、精一杯の優しい声を投げかけてくれた。それにどれだけ救われたのか。あなたにはわからないでしょうし、どちらかと言うとわかってほしくないです。ワガママでごめんなさい。


 そしてもう一つ、ワガママを言わせてください。


 本当は、本当は、救って欲しくなんかなかったんです。


 私は多分あのまま、誰にも救われる事のなく死ねたら良かったんです。あの日あなたに会わなければ、あなたと会う度に胸が痛くなる事もなかったから。私はあなたと未来を見る事はできない。それを突きつけられる度に、心が壊されました。生きたいだなんて今更願ってはいけないことだったから、その思いを必死で抑え込みました。


 こんなワガママで自分勝手な私を、どうか許さないでください。


 決心が鈍りそうでした。だから、あなたの前に立つことをやめました。あなたから逃げました。私にはそれしかできなかったんです。あなたにこれを打ち明ける勇気はなかった。きっと話したらあなたは側にいてくれるでしょう。そうしたら死にたくないなんて思ってしまいます。その方がずっとずっと、辛いことだから。


 あの日私があなたに会ったのは、私の死ぬ事が決まったからなのに、私の死ぬ事が決まるあなたに会えなかったことが、後悔でなりません。私は死ぬにしても、多分、少し違った結末だったと思います。ただの、夢物語でしかありませんけど。


 あなたが私をどう思ってくれていたのかは、わかりません。でもこれだけは一つ、言わせてください。


 私はあなたにこれっぽっちも恋なんてしていませんでしたし、欠片も愛してなんていませんでした。


 ひょっとして、私があなたのことを好きだとでも思ってました? 気になってると思っていました? ざまーみろです。勘違いですよ。ぜーんぜん、ちっともそんなことはありませんでした。本当、本当です。


 きっとあなたはこれから素敵な人生を歩みます。あなたが素敵な人なんだから、それは絶対です。私のことは忘れてください。憶えておいても、きっといいことなんて一つも無いです。私を忘れたその分で、誰かとの思い出を詰め込んでください。ああ、またワガママが増えちゃいましたね。ごめんなさい。



 今更何を言っても遅いことはわかっています。だから、最後に、最後に一つだけ書きたかった言葉を、お願いを書かせてください。私の想いを、掛け替えの無い想いを、私には歩む事の赦されない、見えない未来へと託させてください。私には、もうそれだけで、十分ですから。』









  来世では、あなたを愛せますように。



                    』

 愛していたから、愛さなかった。そんな話でした。ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ