4 最期の手紙
『こんにちは。この手紙が無事あなたの元へ届いていることを希っております。もし、心当たりのない方がこれを見ていらっしゃるならば、そっと置いてあった場所に戻してくれると幸いです。
さて、端的に言うと私は多分この世にいません。急にいなくなってしまって、ビックリしましたか? 今となっては確認する術はありませんが。
きっとあなたがこの手紙を読んでも何も変わらないと思います。でも、多分これが私の最期のお仕事だから。たとえあなたが読んでくれなかったとしても、私はこの手紙を残します。
あなたに出会ったあの日、医師に治らない病を宣告されました。頼るべき大人も、大事な人もいなかった私にはどうすることもできず、ただなんとなく、あの公園でブランコに乗っていました。傘も差さないで、バカみたいですね。
でも、あなたが声を掛けてくれた。一緒に濡れてくれた。冷たい態度の私にも、精一杯の優しい声を投げかけてくれた。それにどれだけ救われたのか。あなたにはわからないでしょうし、どちらかと言うとわかってほしくないです。ワガママでごめんなさい。
そしてもう一つ、ワガママを言わせてください。
本当は、本当は、救って欲しくなんかなかったんです。
私は多分あのまま、誰にも救われる事のなく死ねたら良かったんです。あの日あなたに会わなければ、あなたと会う度に胸が痛くなる事もなかったから。私はあなたと未来を見る事はできない。それを突きつけられる度に、心が壊されました。生きたいだなんて今更願ってはいけないことだったから、その思いを必死で抑え込みました。
こんなワガママで自分勝手な私を、どうか許さないでください。
決心が鈍りそうでした。だから、あなたの前に立つことをやめました。あなたから逃げました。私にはそれしかできなかったんです。あなたにこれを打ち明ける勇気はなかった。きっと話したらあなたは側にいてくれるでしょう。そうしたら死にたくないなんて思ってしまいます。その方がずっとずっと、辛いことだから。
あの日私があなたに会ったのは、私の死ぬ事が決まったからなのに、私の死ぬ事が決まるあなたに会えなかったことが、後悔でなりません。私は死ぬにしても、多分、少し違った結末だったと思います。ただの、夢物語でしかありませんけど。
あなたが私をどう思ってくれていたのかは、わかりません。でもこれだけは一つ、言わせてください。
私はあなたにこれっぽっちも恋なんてしていませんでしたし、欠片も愛してなんていませんでした。
ひょっとして、私があなたのことを好きだとでも思ってました? 気になってると思っていました? ざまーみろです。勘違いですよ。ぜーんぜん、ちっともそんなことはありませんでした。本当、本当です。
きっとあなたはこれから素敵な人生を歩みます。あなたが素敵な人なんだから、それは絶対です。私のことは忘れてください。憶えておいても、きっといいことなんて一つも無いです。私を忘れたその分で、誰かとの思い出を詰め込んでください。ああ、またワガママが増えちゃいましたね。ごめんなさい。
今更何を言っても遅いことはわかっています。だから、最後に、最後に一つだけ書きたかった言葉を、お願いを書かせてください。私の想いを、掛け替えの無い想いを、私には歩む事の赦されない、見えない未来へと託させてください。私には、もうそれだけで、十分ですから。』
『
来世では、あなたを愛せますように。
』
愛していたから、愛さなかった。そんな話でした。ありがとうございました。