マジシャンズ・アカデミア 20
再始動。再始動?
何も考えなくていいファンタジー書くのは楽しい
「結城八雲です。よろしくおねがいします」
猫人族の少年はそう言ってぺこりと頭を下げた。突然のことに俺たちの頭の上にはハテナマークが浮かんでいる。
「えーっと、どゆこと?」
アキが空を見上げて問いかける。運営からの返答を期待しているのか、あるいは単に疑問を口にしただけなのか。どちらにせよ、答えは八雲と名乗った少年、そして急に届いた校長からのメッセージの両方から与えられた。
「あ、もしかして話通ってませんでした?」
「いや、きた。いま話きた」
校長からのメッセージと彼の自己紹介からするに、彼は夏休み直前にゲーム同好会に参加した1年生らしい。たまたまテスターの一人の都合が悪くなり、そこにどうせならと校長がねじ込んだようだ。
俺たちはさくっと自己紹介を終えて、調査を再開した。なお、その間リーナ先輩は黙って待っていてくれた。さすが天使。
「調査への同行は別に良いけれど、ギガンテスが出てくる可能性もあるんだから、弱いようだったら途中で帰ってもらうわよ」
「実力って事なら、多分問題はないと思いますよ」
そう言って八雲はやたらと格好良いガンアクションを決める。
「そ。ならせいぜいアテにさせてもらうわ」
信じていない様子のリーナ先輩。
「そんなことよりギガンテスだけどさ、出てきたところで弱点分かってるから大して心配しなくていいんじゃねーの?」
「・・・・・・うん。実際に一度倒してるし」
「へえ、それは初耳ね。それがここで通じればいいけれど」
含みのある笑みとともに言い残して、リーナ先輩は先へ進む。まだまだ森の浅いところであるにも関わらず、あちらこちらにモンスターの痕跡が見て取れる。前情報によれば、実際の生息数は別にして、この森では人間とモンスターの棲み分けは割とハッキリとしていたはずだ。なのに。
「明らかに凶暴化してるわね。・・・・・・それも、思ったよりも多い」
八雲にこれまでに得た情報を伝えていると、ダントが急に足を止めた。
「どうかしたの?」
「・・・・・・何か聞こえた気がする。もしかして、モンスターの鳴き声」
「まじかよダント」
「・・・・・・こっち」
獣道を外れがさがさと茂みをかき分けて、ダントが先頭を切る。50mも進まないうちに、空気が震えた。
おぉぉぉおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉ!!
「「「!!!」」」
こんどは俺たちにも聞こえた。どう考えても、自然音などではない。次いで木が薙ぎ倒されるような音が響く。
「近いわね」
リーナ先輩の纏う雰囲気が即座に戦闘時のそれに変わる。
「見てきます」
俺は意識的に翼をはためかせる。軽く地を蹴ると、俺の体はあっという間に10mも飛び上がった。枝を避けつつ上昇し、縦方向に森を抜ける。360度解放された視界の先に、ちょっとした広場のようになった場所と、見覚えのあるシルエットが飛び込んできた。
「仮にこの先にいるのが凶暴化したギガンテスだとして、戦闘になった場合、なにがあっても攻撃は食らっちゃだめよ」
俺が降りてそれを知らせると、一同をぐるっと見回してリーナ先輩が緊急の作戦会議を始める。アキがしきりに頷いているところを見ると、あの一撃は相当堪えたようだ。
「それと、交戦経験のあるダント君たちは知ってると思うけど、ギガンテス種の弱点は目玉よ。遠距離武器のアキ君、八雲君、それに飛べるヒロヤ君はともかく、私とダント君は工夫をしないと有効打を与えることすら出来ないかもしれない」
いいわね、と念を押すようにダントを見るリーナ先輩だが、そこらへんは既に攻略済みだ。ダントは自信のある顔で頷き返す。
「・・・・・・問題ない」
誰ともなしに音の方へと走り出す。だが、勢いそのままに突撃する予定だった俺たちは足を止めざるをえなかった。
「なん・・・・・・だと・・・・・・」
どこかで聞いたことのあるようなセリフをアキが呟く。俺たちを認めて威嚇の咆こうをあげるギガンテスの頭には、ヘルムが装備されていたのだ。もちろん眼の部分はしっかりとガードされている。隙間はあるが、好き放題に攻撃できるとは到底思えない。
「・・・・・・聞いたことがあるわ。一部の、知能の高い個体はどんな種族であれ自らの弱点を何らかの方法で補うこともあるって。でもよりによって」
「とりあえずやるだけやってみようぜ」
開口一番、アキがヘルムの隙間を狙って引き金を引き続ける。数発は間をすり抜けて眼へと届いたようだが、その殆どがヘルムに阻まれる。ダメージソースとして期待するにはかなり厳しい。
「あの、もしかしたら何とか出来るかもしれません」
おずおずといった様子で八雲が手を挙げる。皆の目が八雲へと注がれた瞬間、ダントがいつになく真剣な声音で警告を発した。次いで、よろけそうな程の空圧が全身を叩く。
「・・・・・・ギリギリセーフ」
間一髪の所で斧の横腹を殴って軌道をそらせたダントがギガンテスをみたままで呟いた。
「・・・・・・油断大敵」
「「ダントさんマジかっけぇぇぇぇぇ!!」」
俺とアキの声が見事にハモる。
「ダント君の言うとおりね。八雲くん、だっけ? 考えがあるなら手早くお願い」
「はい。前にやってたゲームのおかげか精密射撃が得意なんです。銃もそういう武器だし、多分眼を狙えます」
「まじか」
同じ射撃武器のアキが少しうらやましそうに八雲の両手に収まる銃を見る。
「・・・・・・頼んだ」
「それじゃあいくわよ。八雲君に攻撃が届かないように私たちで押さえましょう」
リーナ先輩の言葉でそれぞれが散る。足止めならば自称水鎖の魔術師こと俺の出番だろう。踏みだそうとしたその足下をめがけてアクアチェインを投げつける。狙い通りに足首にからみついた水の鎖はそれ以上の前進を阻んだ。
それでもなお轟風のように振り回される斧をものともせずにダントとリーナ先輩がそれぞれ膝裏やアキレス腱といった、痛そうで見てられないような所をがりがりと削っていく。だが、分かり易すぎる弱点があるためか眼以外の防御力は高く、なかなかゲージが減らない。シャイニングモードを発動させたアキが神業のような体捌きで眼球を狙うも、すこし顔を振られるだけで魔力の矢は通り抜けることが出来なくなる。
「やっぱきびしくね?」
そう思った矢先、銃声が響きギガンテスのHPゲージがごっそり減った。何事かと後ろを見ると、銃を一艇だけに持ち直した八雲が片膝をついて銃口をギガンテスの眼へ向けている。そのまま2度3度マズルフラッシュが閃く度に、がりがりとゲージが削られる。
「銃弾は魔力で作られた矢と違って跳弾してくれるんで、多少射線を阻んだ位じゃ普通に届くんですよね。まあ実費かかるのが痛いですけど」
困ったように笑いながらも、撃ち出された弾丸は魔法のように眼へと吸い込まれていく。開戦から5分もしないうちに、普通に殴っていれば一時間は掛かったかもしれないギガンテスのHPゲージはゼロになった。
「「「八雲さん半端ねぇぇぇ!!!」」」
静かになった木立の中に、ゲーム同好会メンバーの叫びが木霊した。
次回
×××の卑劣な罠によりダントの命は風前の灯!
はやく助けに行かないとダントが死んじゃう!
次回、ダント死す
デュエルスタンバイ!