マジシャンズ・アカデミア 14
また連休だねM1です
正直に言おう。この巻き込まれイベントは半ば予想していたものだった。
今まで幾度となくこの3人でゲームをしてきたが、何かが終わろうとしたら必ず余計な事が起きてしまう。ミノタウロスしかり方舟しかり。このゲームでも既にギガンテスに遭遇している。となると、そろそろかなぁ、とは思っていた。
そう、何を隠そう今俺たちは2頭のセイバータイガーに襲われているのだ。
3層で殺されかけて、名前知らない上級生に瞬殺されたあのセイバータイガーに。ダンジョンボスではないが、このダンジョン内ではかなりの強敵に分類される。
あれ、そうなると、そのセイバータイガーを瞬殺したあの上級生はなんであっこに居たんだろうか。
成績優秀のため監督生をしている。といった可能性も考えられるが、だったらもっと早く、具体的には俺達が襲われる前に助けてほしかった。ていうか今すぐ来てほしい。
アルマジロ狩りでかなり奥まった場所まで来ていた為、退路はセイバータイガーに封鎖されている。それを理解しているのかどうかは分からないが、2頭は絶妙に配置を変えながら俺たちが逃げれないように圧力をかけていたりする。畜生め。
思考を展開せさせる。
2頭のセイバータイガーは体格や見た目にほぼ差が無い。たしかこいつには雌のバージョンもあったはずなので、2頭とも雄ということになるんだろう。プレイヤーなんて無視して喧嘩とかしてくれないかな。
硬くて速くて攻撃範囲が広い相手に対してどう戦えばいいか?
現状、速度重視の技を習得しているとはいえ秒間当たりの攻撃力が一番高いのはダントだ。アキの連射も相当のダメージを叩き出すが、残念ながらタイガーさんは魔法防御も高いらしく、「疲労度」がネックになってアキが自滅してしまう。
となると何とかダントを懐に潜り込ませて溜めの一撃を見舞うしかないのだが、ここでタイガーさんの速さが壁になる。あれを掻い潜って拳の間合いに捉えようと思ったら、それこを死を覚悟した特攻が必要になる。
ダメだ、リスクが大きすぎる。しかし俺もアキも物理タイプではない。
どうしろってんだよ。
頭を抱えて空を見上げる。当然ながら、横たわる蒼穹は答えをくれ――
「てめぇそれ以上ダラダラしてたら撃ち落すぞ!!」
アキが切れた。
攻撃の届かない高さで作戦を考えていた俺の行動がお気に召さなかったらしい。
深謀遠慮の分からない奴だな。
しかしだからと言ってこのまま飛んでいる訳にはいかない。どこかのタイミングで打って出なければジリ貧にすらならないだろう。
ヒュン!
純粋な魔力により精製された矢が俺の首を掠めて空に吸い込まれる。
……そろそろ下りないとね。
「……作戦は?」
タイガーさんから距離を取ったダントが後ろ向きに俺に問う。
「何も思いつかなゲフぅ」
無言の肘鉄って怖いね。殴るだけ殴ってダントはまたタイガーさんに飛び込んでいく。
「せめて1体ならな」
刃を出すかどうか迷いながら、俺はタイミングを見計らう。2頭の猛攻を捌きつつ内へと切り込もうとするダントだが、どうしても限界がある。そこを無理矢理こじ開けるためにアキが何発も矢を撃ち込むが、レベル差や耐性もあってかほとんど気にされていない。
今の俺達ではこいつに攻撃魔法でダメージを与えることはまだ出来ないのだ。
そうこうしている内に、ついにダントの逃げ場が無くなる。モンスターのくせに奇跡のようなコンビネーションで前後から同時に刃付きの前足が振り下ろされる。
「アクアチェインっ!」
すんでのところで1頭の足を固め取って隙間を作りダントが生還する。
「……埒が明かないな」
「誰も大技ないのかよ」
額の汗をぬぐいながらアキも帰還。
「今は、倒すことじゃなくて生きて逃げること考えるぞ」
「羽ある奴に言われたくねぇよ!」
「……ヒロヤは黙ってろ!」
どうやら序盤の浮遊に相当お冠のようですね。一応考えはあるんだけど……。
「なあ、ダントって絶叫モノのアトラクションとか好き?」
「なんだよこんな時に」
「まあまあ。で、どうよダント」
「……嫌いではないけど」
ふむ。いけるか?
「ダント、俺の事信じて回避は考えずに特攻してくれるか? もちろんアキにも援護はしてもらうけど」
「……? ……わかった」
手甲打ち鳴らしてダントが歩を進める。
「おいおい良いのかよ」
「……頼んだぞ」
言うや否や、土煙を巻き一直線にタイガーさんへ向かう。見届けた俺はアキにダントの援護を頼んで俯瞰できる高さまで舞い上がった。
この位置からなら戦況を完全に把握できる。
タイガーさんが迎え撃とうと鉤爪を持ち上げるが、ダントは構わずに拳を握り走り込む。
「アクアチェイン!」
水の鎖が瞬時に生成されて
ダントの腰に巻きついた。
「!?」
ダントが驚きを見せる前に俺は集中力を全開にして鎖を操作する。
走る状態から人では不可能な軌道を描いて直角に体がスライドして鉤爪を避ける。
「……なるほど。連拳」
呟いて、ダントが駆ける。タイガーさんの右前脚内肘に神速の3撃が叩き込まれるが、怯むことなくもう片方の足がダントを狙う。
「見えてんだよ!」
俺はダントを上に引き上げるようにして鉤爪から離す。
「……ちょっときついけど、回避の事を考えなくていいから楽かもしれない」
危なげなく着地を決めたダントは俺の作戦をそう評価した。
「……でも、どうしても火力が足りない」
「おいダント、魔法を使え! こうやってな!!」
アキが連続で打ち込んだファイアボールがタイガーさんにぶち当たって爆炎を上げる。さすがに鬱陶しそうにアキの方を見ようとするが、
「遅せぇよ! エアリアル!」
アキが火の手が治まらない内に習得したてのエアリアルを立て続けに2つ発動させた。
風の竜は炎を食べてその身に纏う。火災旋風が一番見た目として近いだろうか。
炎の竜巻に囚われたタイガーさんは、エアリアルの吸引効果もあって出るに出られず中でダメージを蓄積させていく。
「長くは持たない。決めるなら一撃で決めろよ!」
「……まかせろ!」
竜巻が解かれた瞬間を狙って、ダントが駆けだす。
「……爆炎拳!」
偉そうな技名を叫んで、実際はファイアボールと速拳・連拳のコンボを1体のタイガーさんに叩き込む。
『ガラァァァァ!!』
おそらく現状で最も破壊力のある攻撃を食らってさすがのタイガーさんも怯むが、HPはまだまだ残っている。
動けない仲間に代わってダントを狙うもう1頭の顔面に多数の矢が飛来して動きを止める。
「俺ももう限界だぜ」
「……ここまでか」
肩で息をするアキを見てダントが撤退の決断をした。
けど
「どうやって逃げるんだよ」
「……僕に考えがある。ヒロヤ、この鎖は飽くまで水なんだよな」
「そうだぜ」
話す間にもタイガーさんの復帰がすぐそばまで迫っている。ダントは何がしたいんだ。
「……なら大丈夫、かな。ファイアボール!」
ダントは自分目掛けて火球を炸裂させた。それは俺の水鎖と反応して爆発的に水蒸気を発生させる。しかしまだ視界を埋めるには至っていない。
「……足りない。もう一つ頼む!」
「了解。目の前に出すぜ!」
アクアチェインが発動し、そこにファイアボールがヒットし再び蒸気が広がる。
飛び続けていたこともあってかそろそろ魔法の行使がしんどくなってきた。
「……ラスト!」
「あいよ!」
しかしそれでも弱音は吐けない。気力で水鎖を発動させて水蒸気へと変換させる。
「……これだけあれば十分かな」
「おっけ。逃げるか」
ダントとアキがタイガーさんを中心に弧を描くように距離を取りながら蒸気の外側を走る。
俺? 俺は悠々と飛んで帰ったよ。
――7層木陰
「……連携や発想はかなりのものとはいえ、個々のレベルはまだまだか。とはいえ新入生の中で際立っていることは間違いない。……一人では手が回らなくなってきた頃だ、使えるかもな」
3人の戦闘を見ていた人物はそう呟いて彼の相棒、夜桜・真打を抜き放つ。
深い鈍色に輝く刀はどこまでも澄んだ殺意を揺らめかせている。
「疾風」
ダントをも超える神速で飛びだし、セイバータイガーの横を駆け抜ける。
二閃。
残像すら視認できない速さで振るわれた刀は抵抗なくセイバータイガーを切り裂く。
刀が鞘に戻された時、2頭の虎は重い音を響かせ地に沈んだ。
「そう言えば……あいつら3層でもコイツに襲われてたな」
5層でギガンテス2体にガンを飛ばされ必死の思いで逃げて来た俺たちは
「ダントよー。アルマジロでどんな武器作るんだ?」
「……それは出来てからのお楽しみ」
「んだよケチ。しかしなぁ、購買のお姉さん、ドラゴナイトならどう考えても攻略対象だよな。で、落とせた暁にはあんなことやこんなことを……」
ダントはその購買のお姉さんのもとへと武具錬金に行ったので俺が突っ込むしかなくなる。
「アキさ~ん。ドラゴじゃない上に、一応俺たちテスターなの忘れるなよ」
「忘れてねぇよ。だからこそ色々やってバグが出ないよう確かめるんじゃないか」
「別にいいけどさ、校長と岸部さん(テスト話を持ち掛けてくれた校長の友人)、それにあの美人な秘書さんや開発スタッフの人にモニタリングされてるのは分かってるよな」
「…………俺は紳士だからな」
「分かってなかったのかよ!」
「さ~て、ダント君の錬金終わったかなぁ~」
「話逸らそうとしてもログで残るぞ」
「……死んでもいい?」
ギガンテス戦よりも顔色の悪くなったアキを放っておいて、俺はクエストボードへと向かう。
こんかいのタイガー戦でハッキリしたが、俺たちは圧倒的にレベルが足りていない。錬武館でも上層でも良いから、とにかくレベルを上げて、せめてタイガーさんを1人で倒せるようにはならないと攻略もクソもなくなってしまう。
なんか丁度いいクエストないかな。
あいつらが選ぶと大体いらん事起きるからな。下層に行く必要のないお使いクエとかで地道にレベリングしないと。
俺が依頼を吟味していると、ぽんと肩に手が置かれた。とても軽い仕草なのに、そこには抗えない圧力があった。
「話がある。後で以前に呼び出されたあの部屋まで3人で来るように」
手がどけられて振り返った時には、声の主は誰だか分からなくなっていた。
いやでも、なんとなくあの上級生の声だったような……。
取り敢えず2人に言わないとな。
依頼を受けるのを諦めて俺は購買へと戻った。
ちょこっとだけ話が動いたかな?
もちろんM2、M3には無断だけどな!!!