マジシャンズ・アカデミア 8
この連休でどこまで進むのやら
下りて早々に見つけたゴブリンを殴ろうと走り込むと、突如として足元で光が弾け、全身を鋭い痛みが駆け抜けた。
まさかゴブリンのくせに魔法使えるのか!?
と思ったら普通にトラップだった。ゴブリンには逃げられた。
泣いてもいいかな。
5層まで下りてきたが、特に層の雰囲気が変わったとかそういうのは無い。
強いて言うなら新入生は3~4層ほどを拠点にするため、ここで見る生徒数が減ったってくらいだろうか。
「なあ、ギアゴブリンってどんな見た目なんだ? さっきのはギアとか付かない普通のゴブリンっぽかったけど」
アキから始まる歩きながらの雑談。
「さあな。案外あれがギアゴブリンかもよ。なんにせよ、ゴブリンって付いてるからにはゴブリンみたいな見た目なんじゃねぇの?」
「答えになってねぇ」
俺の回答にダントが突っ込みを入れ、再びアキへとボールが回る。
「いやいや、一回オチてるのに繋げろとか鬼畜かよ!」
「そうでもないぞ。ここで如何に上手く持って行けるかどうかで芸人としての資質が分かる」
「芸人になるつもりないって!」
「まあまあ2人とも、ゴブリンじゃないけどモンスター来たぜ」
ふむ。ダントの指す方を見ると、確かにトンボのようなモンスターが4体こちらをターゲットしているようだ。
「なんかさ、ドラゴナイトであんなモンスター居たよな」
「……フライザ、だろ…………」
てめぇら嫌な事思い出させんなよ!
1体狩るごとに俺らの精神衛生面がガリガリ削られていく、ある意味ではボスよりも恐ろしいモンスターを思い出して俺はげんなりする。
「いやいや、見てみろよ! あんなに凶悪そうな見た目した奴があんな鳴き声で死ぬわけないだろ!」
確かにアキの言うとおり目の前のトンボは眼が赤く光り、鉄さえも噛み千切りそうなエグい顎を開いている。その上しっぽ(でいいのか?)の先には鋭く尖った針のようなものまである始末だ。
…………目の前?
『キシャアアアァァァァ!!』
「うおぉっ!?」
俺たちは慌てて各々その場から飛び退く。
フライザの事でどんよりしていた為に接近に気付くのが遅れてしまったらしい。
卑怯な!
フライザはそんなあくどい戦法なんて取らなかったぞ!
俺の思いが伝わったらしく、アキ、ダントもそれぞれが武器を構え臨戦態勢をとる。
「お前らフライザを見習え!」
アキが大きく啖呵を切り、それにダントが続く。
「そうだそうだ! あいつ等はお前らみたいに不意打ちなんかしないで真正面から健気に、ホント健気に勝負……挑んできたんだぞ…………!!!」
こんな奴がフライザと同じトンボ型モンスターとは到底思えない。否、思いたくない!
「ファイアボール! オラオラオラぁ!」
先手必勝、とばかりにアキが火球を連続で見舞う。さすがは攻撃魔法適性の高い悪魔族。その威力は俺やダントよりも一周りは強そうに見える。
「ちぃっ、避けやがった!」
しかしトンボ、というかデスフライは見事な編隊飛行でそれらを躱す。が、
「甘いな」
それを見越して位置取ったダントの一撃により1匹が地面へ叩きつけられた。すかさず腰から剣を抜いたダントが胴の中心を地面に縫い付けて止めを刺す。
『ギシャァァ!!!』
断末魔も汚く、俺たちの心には響かない。これなら思う存分戦う事が出来る。
「ファイアボール!」
アキに速度も威力も劣る俺の火球は当然デスフライには当たらない。だがその程度で錬武館に通った俺から逃げれるなどと思わない方が良いな。
「かーらーのー、アクアチェイン!!」
俺がターゲットしているデスフライの周囲に水でできた鎖が浮き上がり、縛り付ける。レベルが上がれば同時に複数を縛れるらしいが、今は無理です。
「おー、ヒロヤの新技それか!」
「違うぜアキ。まだだ、まだ終わらんよ」
テンション上がってきたな! 俺はノリノリでアクアチェインの追加効果を発動させる。チェインの名は伊達ではない。ここから4つの派生呪文と2つの連続詠唱が可能なのだ。……レベル上がったらな。
気分を切り替えて、
「咎に伏し煉獄で果てろ。フラッド!!」
初っ端の厨二セリフはともかく、俺の派生呪文によって水の鎖がデスフライもろとも爆散する。しかしながら汚い断末魔が聞こえない。
「てめえ大口叩いて仕留め損なてるじゃねぇか! エアレイド!」
爆発の中心に風の刃が複数飛んでいき、今度こそあの断末魔が聞こえた。
……あれだな。まだレベル低いからな。仕方ないっての。
「でもまあ、束縛系の魔法が初期から使えたら便利だな」
いつの間にかもう1体のデスフライを屠っていたダントが会話に合流する。……ということは、残りは1体か。
デスフライよりもさらに凶悪な顔をした3人のプレイヤーがトンボを瞬殺しました。
「いやー、思ったより楽だったな。相手飛んでたから俺も飛んだ方が良いかなって思ったけど普通に届いたし」
俺はバサリと羽ばたいて宙に浮きあがる。
「なあ、それどんな感覚なんだ?」
「ん~? 分からん。何となく思ったと通りに飛べる感じ?」
「便利なもんだな。俺も飛べたらパンチとか当てやすいのに」
「翼人族以外の種族が飛べたら差別化できないだろうが」
「いやいやだってさ、俺の竜人もアキの悪魔も翼あるだろ普通」
「だからそこは差別化だっての」
「お二人さん、あれさ、ギアゴブリンっぽくね?」
アキが会話を止めてダンジョンの一角を指す。そこには2匹のモンスターが小動物か何かを食べていた。
「あー、確かあんなのだったな」
ダントは生徒手帳を取り出してクエスト詳細を空中に投影する。そこには目の前にいる凶悪そうなゴブリンと同じ絵が添付されていた。今さらだけど世界観どうなってんだよ。中世ファンタジーなんだろ?
ちょっと待て。
…………目の前?
『ギャシャァァアアアァア!!』
「またかよ!!」
今度ばかりは回避が間に合わず、俺は「冒険者の杖」なる名前の初期武器でゴブリンの持つ棍棒の一撃を受け止める。
「重っ!」
なんでチュートリアルクエでこんな強敵なんだよ! って思ったけどこの1層下からはあのセイバータイガー出てくるんでしたね。
一応デスフライと錬武館での訓練で全員がLv3にはなってるけど、適正はもう少しばかり上らしい。
俺と同じように隣でアキが抑え込まれている。
ギリギリと圧力をかけてくるゴブリンの顔が、笑ったように見えた。
プチン
「ゴブリン風情が舐めんなよ! こちとら何度も魔王倒してんだよ!」
別のゲームだけどな!
ゴブリンの正中線を蹴りあげて軽くなった隙に宙へと舞い上がり、その勢いのまま側頭部へと杖を叩きつける。ギアゴブリンがよろめいたのを確認してアキの方を見ると、ダントの3段蹴りを食らったギアゴブリンがアキから引き剥がされている所だった。
「あざっすダント。それが新技?」
「いや、自力だ。こんな雑魚に技なんて勿体ないだろ」
滅茶苦茶カッコつけてるが、それはデスフライ戦で技使った俺らへの当てつけか?
『ギギィ』
2体のギアゴブリンがそれぞれ棍棒を構え直す。
「だから甘いっての」
「俺らゲーム同好会だぜ?」
神速で踏み込んだダントによる膝打ち上げで浮き上がる一体を、剣に持ち直した俺が上空から切りつけ叩き落とす。
「相手が悪かったな」
転がるギアゴブリンのすぐ傍にはファイアボールを準備済みのアキ。火球が撃ち込まれ、断末魔さえ出せずに1体が焼かれる。
「やっとバルカスに身体が慣れてきたな」
ダントがそう言い、腕をぐるぐると回す。
「だな。効率のいい動き方も分かって来たし」
「そろそろ本格的に攻略しますか。――アクアチェイン!」
状況に着いて行けていないもう1体を水の呪縛で絡め取る。
「アキ、もう一発行くぞ」
「おっけー!」
動けないギアゴブリンにダントが左右の掌打を叩き込み、アキの方へと吹き飛ばす。
「ファイアボールにエアレイド!」
隠し要素(俺たちは事前に教えてもらっていた)相乗魔法により火炎を引き連れた風刃が、目下吹き飛ばされ中のギアゴブリンにぶち当たった。
「楽勝だな」
武器を仕舞って地上に降りる。翼の扱いにもだいぶ板についてきた。
「伊達にゲームばっかりやってるわけじゃないからな」
よしよし。俺のゲーム人生が無駄ではないと証明できたな。
「ヒロヤにアキ。音に釣られてか丁度いいのか来たぜ」
ダントがクイッと顎でさした先には、怒った様子のギアゴブリンが3体。
鴨だな。鴨が鴨背負ってやってきたな。
さっきの戦闘ではほとんど疲れていない。というより、慣れてきた分今の方が調子いいくらいだ。
「サクッと狩って帰るか」
「おう」
宣言通りサクッとギアゴブリン3体を屠った俺たちは、隠しパラメーターの疲労度を回復させるために木陰で休んでいた。しかしダンジョンなのに木陰があるとかもうイチイチ突っ込んでたらキリがないな。
「お、さっきの戦闘でレベル上がってた」
「マジか」
「俺も上がってるぜ。おかげでまた1個魔法増えたな。シェイキだって。えーと、説明読む限り氷のつぶてみたいな魔法かな?」
「へ~。って、俺も新しいの出てたぜ。エアリアルなんて名前で、効果は、風刃の渦を作りだし捕えた敵を切り刻む。だって。強そうだな」
「……何で俺だけ上がってないんだよ!」
あれじゃないの? 竜人族は大器晩成的な感じなんじゃないの?
取説によると、竜人は大器晩成、悪魔は比較的早熟で、翼人はどちらかと言えば大器晩成らしい。
となると、このテストプレイがどのくらい続くか分からないけど、レベル上げに勤しまないとアキばっかりが目立つってことになるのか。
「さて、そろそろ上に戻るか」
「クエスト条件もクリアしたしな」
ダント、アキが立ち上がる。
「はっ」
俺はと言えば、座った体勢から翼で文字通り飛び起きてみていた。
これ普通に楽しい。学園内って飛行OKだったかな? 後で生徒手帳確認しとくか。
「カッコつけてんじゃねぇよ。それじゃ、帰……?」
ダントの号令で移動しようとした俺たちに、突如として影が落ちた。
なんとなーく嫌な予感がして3人で振り返ると、1つ目の巨人、いわゆるギガンテスがニヤリと笑い道を塞いでいた。
やっぱりかよ!
何でこう、いつもいつも中ボスクラスが出てくるんだよ。あれか、このギガンテスは遙か過去にも感じるデソイトラバイルの時のミノタウロス的なポジションか。
気持ち悪い笑顔が張り付いたギガンテスは、ギアゴブリンなどとは比べ物にならないほど巨大な棍棒を叩きつけた。
「のわっ!?」
アキ、ダントは左右へ。俺は空へと緊急避難をする。
「痛って……。ふざけんなよ」
アキが顔に着いた土ぼこりをぬぐいながら立ち上がる。
「巨人め。……駆逐してやる!」
首をバキバキ鳴らしたダントは一度拳を突き合わせて臨戦態勢を取った。
「やられたらやり返す……」
流行語大賞を狙えそうなほどにキマるセリフを吐きながら、俺も杖を構える。
「倍返しだ!!」
vsギガンテス戦
盛大に頼んだ




