ドラゴナイト 18
「おい、ダント、アキ」
俺は、目の前で倒れる仲間に声を掛ける。
「何寝てるんだよ。新しい武器を親方に作ってもらうんだろ?」
しかし、返事はない。
「お得意様になるまで宿屋に入り浸るって言ってたじゃないか」
しかし、返事はない。
すべての元凶は、目の前にいる1つの狂気。
「なんでだよ。なんで、俺たちはだた――」
何も写すことのない瞳をそっと閉じさせ、俺は狂気と向かい合う。
「……こいつらが何したって言うんだ」
手に持つ槍斧に意思を込めて、狂気を睨み付ける。
「え……?」
いつの間に近づいたのか、離れたところに立っていたはずの狂気は、いま目の前で楽しそうに笑っている。
温かい痛みを覚え、俺は胸元へと視線を落とす。
「マジ、でか」
痛みと言う感覚が遠のき、次第に現実が鮮明になってくる。
「なに泣いてんだよ」
狂気は、笑っているのではなく泣いていた。
俺の胸に二人を殺めた肉厚の短刀を突き刺して、肩を震わせて泣いていた。
「泣くなって。ほら、どこにも行かないからさ」
そっと、俺は両の手を狂気の背中に回す。
「あ……」
こうなってから初めて見せた、人間らしい反応。
「どこにも行かないけど、永遠にお別れだ」
俺は、ルカの背を抱いて目を閉じた。
ヤンデレルートがあるとか聞いてねぇぞ、ダント……。
ってなわけでM1です
方舟つえー
こいつらはなんで勝てなさそうな相手にばかり挑むんだろうね
作戦。
アキがその身を以って稼いでくれている時間を、俺達は有効に使わなければならない。
「って言ってもさ、どう考えても勝算ある相手じゃないよな」
四重奏により合計5人になったアキの鎌は確かに届いているのに、『方舟』のHPは恐ろしく遅々とした速度でしか減っていかない。
「確かにな。手厳しいにも程がある。どんだけレベル離れてんだよ」
「しかも、だ」
俺はダントの嘆息にしたくない補足を付け足す。
「どうもこの戦いからは逃げられないらしい。その証拠に――」
戦いの余波で転がってきた小石を、俺は後方へと投げる。低めの放物線を描いて放たれた小石は、広間の出口あたりで何かに弾かれて落ちた。
「アレを倒して、初めて出れるって訳か……。まいったな」
口ではそう言うものの、ダントの顔は笑っている。強敵を前にした緊張からくるものなのか。
まあ俺も多分似たようなものだから指摘はしないが。
「どうするよ。このままじゃ消耗戦にもならない」
ダントの言葉と同時に、アキの分身が一人、炎に包まれて消滅した。するとすぐさま少し離れたところに新たな分身が現れる。
「数の上では5人っていっても、分身の性能はオリジナルの半分ちょっとしかない。アキ1人で耐えれるのも、そんなに余裕ないぞ」
「まあ待てって。何か、何かあるはずだ」
このタイミングで出てきたクエストにしては、敵の強さが半端ではない。つまり何かギミックがあるはずなんだ。
『電光石火』
方舟が新たに魔法を唱える。手に持つ禍々しい杖に光が集まり、そのせいで周囲の鉱石がキラキラと反射して光っている。
(いや、あれは……)
しかし考えがまとまる前に光が収束し、紫電が広間中を駆け回った。
「くっそ!」
ダントが隣で悪態を吐き、器用に足捌きだけで全てを避ける。
指向性の無い広域攻撃なのか、俺たち以外も紫電の嵐に見舞われる。
壁が、床が、剥き出しになっている各種鉱石に紫電が直撃し、耳障りなスパーク音を奏でた。
攻撃を受けた鉱石の一つが、輝きを失って崩れる。
(まさか……ってことは、この広間は…………)
「もしかしたら、手が無い訳じゃないかもしれない」
「なんだと?」
「さっきから、アイツが魔法を撃つたびに周りにあるいくつかの鉱石が光ってたんだよ」
「……? それは、反射してるだけじゃないのか? 水晶みたいなのもあるし」
一見関係のなさそうな話を始めた俺を訝しみつつも、ダントは目線で先を促した。
「俺も最初はそう思ってた。でも、明らかに影になっていて、反射のしようが無いものまで光っていた」
「どういうことだよ」
「確証はないけど、アレは方舟の魔力の源かもしれない。いや、事によってはこの広間自体が『方舟』の可能性もある」
「はあ? いくらなんでもソレはないだろ」
流れ弾を防ぎながら、俺達は会話を続ける。アキのHPが危険域に入ってきたので、そろそろ話をしている時間はなくなってきた。
「このゲームは、確かにイベントはたくさん起こるけど、強制参加はほとんどないらしいんだ。それなのにこの空間からはプレイヤーどころか小石ひとつ出ることができない」
「……『方舟』。じゃあこの大量の鉱石は、あの魔物がノアのように匿った、この山、いや、ほかの山も含めての希少鉱石ってことか?」
「そこまでは分からないけど、このまま3人で総攻撃をしてもジリ貧なだけだ。怪しいところがあるなら、賭けてみてもいいんじゃないか?」
実際のところ、なぜ『方舟』なのかは微塵も分からないが、正攻法でどうにもならない以上あらゆる手は尽くすべきだ。
「不確定要素、不安材料だらけだけど、たしかに黙って死ぬよりは足掻いて死にたいかな」
ダントの言葉で、俺達は武器を握り直す。
「アキ! もういいぞ。この作戦ならいける!」
かもしれない。と心の中で付け足して、孤軍奮闘してくれていたアキを後方へと回す。そのついでに半分を切ったHPを回復させるべく、俺は軽く左手にした指輪に触れた。
青の淡い光がアキを包み、全快とはいかないまでも安全域まで回復させた。
「ついでだ。休む暇が無くて悪いけど、方舟が魔法を撃つたびに、自然な反射以外で不自然に光ってる鉱石を片端から壊してくれ!」
「は? なんで?」
細かく説明している暇はない。今ダントは俺が作戦を伝える時間を稼ぐため、一人で相手をしているのだ。
「いいから! この仕事は5人いるお前のほうが適任なんだって!」
これ以上の説明は不要。全てを理解していなくても、アキならばやり遂げてくれる。その確信が俺にはあった。
なら、今度はその時間を俺たちが稼ぐべきだろう。
鉱石を壊して、本当に弱体化するかは分からない。もしかしたら罠かもしれない。しかしその時の責任は俺が取る。
アイテムがロストすれば、それは立案をした俺の責任だから。
「ゲーム同好会舐めんなよ!」
右手中指にはめた指輪が、鋭い光を放つ。先日買った、唯一の攻撃魔法だ。
「アイススラスト!」
凝縮された冷気による複数の刃が、方舟に殺到する。
『無衝洸壁』
だがそれらは全て、方舟の召喚した見えない壁によって防がれた。
しかしこれで成功だ。
視界の端々で、光源がないにも関わらず光を放つ鉱石を捉える。そして、それに向かうアキの姿も。
通常攻撃にあの防御魔法を使わないのは、対魔法専用の防御なのだろうか。
詮索している暇はない。ローブ姿の見た目に反した防御力があるとはいえ、アキの攻撃で2~3割減ったのは事実なのだ。
「とことん削ってやる」
走り込み、下段からの振り上げ。
確実に刃は方舟にあたったが、怯みすらせずに俺の手首にとんでもない反動を返してくる。
「撃鉄・重!」
訪れる硬直を、技で無理やり上書きする。
上段から落ちる真正直な一撃は、またしても硬い装甲に阻まれる。しかし今回はただの攻撃ではない。
ハルバードを叩きつけた一点に、5重の斬撃が衝撃波として襲い掛かった。両手武器の中でも範囲に優れるハルバードの、少ない一点集中攻撃だ。
「からの――楼閣一閃!」
横一文字に振りぬく刃先が揺らめき、多方向からの斬撃として方舟を包む。
「おいヒロヤ! 俺まで巻き込むな!」
方舟の向こう側からダントが声を荒げるが、そんなことを気にして勝てる相手ではない。
「この武器は範囲が広いんだよ! 巻き込まれないように気をつけろ!」
一言返して、俺は方舟を見据える。
ダントの各種ダッシュ攻撃や二段跳びによって標準を定め切れていない方舟は、苛立たしげに杖を横に振った。
ただそれだけで、広範囲に衝撃波が発生して空中のダントを狙う。
「うわっ! 空駆!」
空中でのダッシュ攻撃を上方へと使うことによってダントは衝撃波を凌いだ。
でも、その回避は間違いじゃないか?
『多核魔弾』
「……マジで?」
さすがにジャンプも空駆もそう何度も使える訳ではないらしい。ただ物理法則に従って落ちるしかないダントに、複数の炎弾が飛来する。
「っ、サークリットフォール!」
双剣を上段に構えたダントは、縦方向に回転しながら自由落下を超えた速度で不規則な軌道を描いて地面へと向かった。
振り下ろされた二筋の斬撃は、方舟のローブに僅かな傷跡を残す。
「死ぬかと思ったぜ」
「最初から下に空駆を使えばよかったのにな」
「うるせ」
戦闘音に紛れて、硬質な破砕音がたまに聞こえてくる。方舟の魔力に反応した鉱石を、アキとその愉快な分身たちが壊して回っているんだろう。
そろそろ確かめなければならない。本当にこの作戦で大丈夫なのかを。
「ダント! 一瞬でいいから方舟の気を引き付けてくれ!」
「りょーかい!」
理由も聞かずに、高身長イケメン(だけどヘタレ)は双剣を握る手に力を込める。
「回転斬劇・開幕!」
凄惨なイケメンスマイルを見せたダントは、あのクロノをも驚かせた縦回転連撃を発動させた。
ダメージは微々たるものと言っても、次々に襲いくる刃を無視することは方舟にもできなかったようだ。放たれていた威圧感が、ふっと俺から逸れるを感じた。
「アイススラスト」
最初に使ったのと同じ距離で、俺は魔法を発動させる。
氷刃が鋭い軌跡を描いて方舟を狙い撃つ。ここまでは先ほどと同じ。
俺は聴覚視覚に全神経を注いで、その結果を確認する。
『無衝――』
氷刃は、方舟が防御魔法を完成させる前に届いた。不意打ちと距離。この二つの条件は同じなのだから、これは方舟の詠唱が遅くなり反応も鈍くなっている証拠だろう。
『――洸壁』
しかし幾つかの氷刃は後だしで発動した無衝洸壁に阻まれる。
「まだまだぁ! アイススラスト!」
俺の魔法に気を取られて今度はダントの方がある程度フリーになり、その隙にダントはいったん離れて様子を見ている。
追加の氷刃は壁に阻まれるが、幾つ目かの衝突が無衝洸壁にヒビを入れた。そして、その後到来した氷刃によって方舟を守る壁は砕け散った。
「よし!」
鉱石を壊すことで、反応、詠唱、さらには魔法強度も下がった。
さながら新世界の神になりたかった某大学生のように、俺は心の中で「計画通り」と呟く。
「変に光る鉱石はあと少しだ。俺の分身がその内壊してくれる!」
絶妙のタイミングで、アキからの報告。
「なら、もうちょっとだけ粘りますかね」
検証のために離した距離を一気に詰め、その勢いを殺さないままに軸足を入れ替えて横方向の回転に変え、力任せに振りぬく。
「っ!」
弾かれるのは想定済みだ。その勢いすらも利用して、
「双戦斧撃・鋼叉!」
両の手で持ったハルバードを、超速で叩きつける。
「あ……」
しかし俺が鋼叉を発動した瞬間に、方舟は杖の後端、無意味なほどに尖った切っ先を、俺の体目掛けて突き出していた。
いくら鋼叉が速い言っても、弧を描く攻撃と、直線の突きでは後者の方にアドバンテージがある。
「まずっ!」
俺は半分死んだ気で、バックステップを発動させる。ハルバード固有のこのスキルは、例え技の途中であっても、どんな体勢からでも発動できるメリットがある。
膝をたわめて、俺が後方に飛び退るのと、俺の居た場所に杖が突き刺さるのとは、ほぼ同時だった。
そして、ダントの攻撃で方舟のHPが5割を切ったのと、アキの分身が最後の鉱石を破壊するのもほぼ同時だった。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
方舟が突然自信の身体を抱いてもがき始める。
鉱石、つまり魔力の源をすべて破壊されて、体力も半分を割った。
このどちらか、あるいは両方の条件がそろった時に何かが起きると、俺の勘は告げていた。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
おぞましい叫びをあげた瞬間、方舟は光に包まれた。
俺たちは全員が黙って推移を見守る。
光が晴れた後には、もともと黒かったローブが更に漆黒に染まり、杖は中ほどから生物的なデザインの、同じく漆黒の剣に変化していた。
「まさか、ここからが本番ってことかよ……」
アキが、3メートルを超える方舟を見上げて呟く。
「魔法の次は近接戦とか、芸が細かすぎて嫌になるな」
ダントもそれに同意。
「じゃあ取り敢えず、あと半分は自力で頑張るか。一応俺が回復も使えるから、きつくなったら知らせてくれ。それと、考える暇なんて無いだろうけど、もし作戦とか思いついたらその都度大声で知らせるって事で」
未だに勝算は感じられないが、しかしあと半分、この3人ならどうにかなる気もしてきた。
「生きて帰って、リンの顔を見るまでは死ねないからな!」
「「おう!」」
文字通りの総力戦。削り合い。
そんな、極限の戦いが始まった。
若干どころか多分にご都合主義な展開ですが、普通に殴って勝っても面白くないので適当に作戦とか設定とかをでっち上げてみた次第
アキ1人で3割削れるなら、3人で総攻撃すれば勝てるよね? と思うのはM1だけ?
つーか下校時間大丈夫?
おまえら結構やり続けてるだろ
そろそろお馴染みになっていて欲しい次回予告
広間に一人の慟哭が響き渡る
生々しい傷跡が残る二つの亡骸は、かつてのように笑うことはもうない
失われた命を嘲笑うかのように方舟は手に持つ剣をヒロヤだったモノに叩きつけた
「……許さねえ」
二振りあった剣の片方は折れ、もう片方はいくつもの刃こぼれが見て取れる
だがそれがどうした?
「剣が折れても、腕を切られても、足を失っても、首だけになっても、俺はお前を許さない」
既に体はボロボロ。HPも僅かしか残ってはいない
「殺す」
限界を超えた怒りと悲しみが、ダントをさらなる高みへと飛翔させる
「天竜之咆哮・終焉」
二つの温かい手が、ダントの背中を押した
「ああ、行ってくるぜ」
次回、
「名古屋って県じゃなくて愛知県の中にある名古屋市なんだぜ?」
「ばーか。知ってるよそのくらい」
の二本立てでお送りします!




