ドラゴナイト 13
ラーメンはシンプルイズザベスト、というわけで醤油派です。
俺は今、騎士団長を睨んでる。
距離は凡そ10m弱離れてるだろう。
その騎士団長さんは相変わらず余裕を感じさせる柔和な笑みを浮かべている。
いや、実際余裕なんだろう。
なにせ向こうは騎士団長、対するこちらはたかが入隊したての一兵卒にすぎない。実力も訓練した時間も俺なんかでは到底足下にも及ばない。
これで油断するなという方が無理な話だ。
だから審判が休憩をとっているこの時間に俺は相手を睨みながら考え込む。
一国の軍を率いる騎士団長、ガルフィード・クロノに勝てる方法を。
アキは不様に負け(あれは負けたともいえないが)ヒロヤも負け、今の所0勝2敗。
もし勝ち越しで正騎士になれるのだとしたらもう不可能になった。
だが、そうじゃなくて総ダメージ量がキーだとしたら?
いや、ヒロヤとアキはろくにダメージを与えてなかった。
アキは別としてヒロヤには副団長が当たった。
その戦闘力も凄まじいものだった。
あれを相手に大ダメージを与えるのは正直キツいものがある。
そして俺はその更に一段階、いやそれ以上の相手と戦わなくちゃならない。
切り札もあるにはあるが……正直焼け石に水だろう。
ここまで考えた所で審判が遠くから少し急ぎ足で歩いていくのを視界の隅っこの方で捉えた。
そして知らず知らずの内に下げていた視線を確認の意味を込めて再び俺の前にいる騎士団長さんに向ける。
装備は使い込まれた鎧丸い形が特徴のラウンドシールド?とそれと騎士団長さんの身の丈程(175cm)長さの手入れが行き届いた切れ味が鋭そうな両手剣。
いや、片手でもってるから片手剣か。
最初に見た時驚いたんだが両手剣って片手で持てるものなの?
もしそうならとても近付きたくないです。しかもラウンドシールド装備ってことはカウンター狙い。
あんなのが一発でも当たったら即死だろ……
お願いっ!見かけ倒しで……見かけ倒しで……見かけ倒しで……っ!
騎士団長さんもその視線に気付いたのか人好きするような笑みを返してくる。
ちっ……甘いマスクも装備っと。
イケメンで強くて上流階級って何処の少女漫画の主人公だよ。
審判がやっと定位置につく頃には今すぐにでも飛び付きそうな程、臨戦態勢万全だった。
審判が二人を交互にみて準備はいいかとアイコンタクトを仕掛けてくる。
俺と騎士団長は同時に頷き了承の意を伝えた。
それを見た審判も頷き手が静かに空へ向けられ――
「両者!いざ、尋常に……始め!」
勢いよく降り下ろされた。
二人は勢いよく飛び出――さなかった。
二人ともその場で構えてるだけで動こうとはしない。
こちらは相手の実力を知るために待ち、向こうはきっとカウンター狙いだろう。
神経がすり減っていくような時間が十分を過ぎた頃、痺れを切らしたのか、それとも挑発か、警戒態勢を保ったまま騎士団長が話しかけてきた。
「どうした、ダント君?初撃は君に譲ってあげるよ。それに君だって何時までも睨めっこするのは好きじゃないだろう?いや、君が睨めっこが好きなら俺もそれに乗っかるつもりだけどね?」
この時何処か威圧感を含んだ柔和な笑みは、俺にとって馬鹿にしたような笑みにしか見えなかった。
「んじゃあ騎士団長さんのお言葉に甘えまして……っ!」
相手が絶対に動かないといった以上此方が動かなければ何も始まらないので俺はそれまで構えていた防御の姿勢を崩し、相手の元へ向かうべく走り出した。
「騎士団長なんて固っ苦しい呼び方はやめてくれよ。クロノでいい」
「さん付けはっ!」
相手との距離が大分縮まってきたところで剣を交差させるように前へ持ってくる。
「やめませんよ!」
「ふふ、私なんかにさん付けとは、有り難いこと、だな!」
騎士団長もといクロノさんが剣を振り上げた瞬間、スキルを発動した俺の体は仄かに黄色い光を纏い出した。
「切駆!」
発動させたのは先の大戦で手に入れたスキル、ダッシュ攻撃lv.1。
残り大体3mの所で俺は先程のダッシュとは比べ物にならないぐらい加速した。
トップスピードのまま敵の間合いに入り、交差させた双剣を袈裟斬りのように両側から降り下ろし相手の体力を削りにかかる。
ただ向こうもそう易々と体力を渡してくれる訳じゃなく間合いに入った俺を消しにこようと振り上げた剣を頭目掛けて降り下ろしてきた。
「らっ……ああああああ!!」
「ぜやあああああああ!!」
俺が降り下ろそうとした双剣とクロノさんが降り下ろした両手剣が絶妙なタイミングでぶつかり拮抗する。
「くっ……両手剣片手に持って俺より速いとか……っざけんな!」
両手で斬ろうとしてんのに片手で押さえられるとか……化物だろ……
「君達より長く生きているからね……っ!」
少し表情が硬いがそれでも笑みを崩さないクロノさんが俺の悪態に応える。
俺は徐々に力負けしてきた双剣をで押し上げるような形で両手に力を入れる。
互いに鍔迫り合っていると、目の前でラウンドシールドが持ち上げられるのが見えた。
正確にはラウンドシールドを装備している左手が、だが。
これはいけないと咄嗟に押し上げていた力を抜いて両手剣を受け流すような形で今にも俺を殴り飛ばしそうな左手から距離を取る。
俺が横へとずれた瞬間、凄まじい勢いで両手剣が地面を切り裂き、後を追うように左手が俺に迫る。
俺が避けようと足を動かす前にラウンドシールド付きの左手が俺を殴り飛ばす。
「………っ!?」
そのまま2バウンドして地面を擦るようにして減速して止まる。
あまりの威力に目を白黒にし、直ぐ様体力をゲージに目をやる。
体力ゲージは今の一撃で1/3程減っておりその馬鹿げた威力を物語っている。
「いよいよ化物じみてきやがったな……」
俺は冷や汗を流しながら依然笑みを絶やさずに地面に突き刺さった両手剣を片手で引き抜いてこちらをみている優男を見返す。「いや、やるねダント君!今ので半分くらい持ってこうと思ったのに上手くかわされたよ。僕もまだまだだね〜……」
嫌味ってわかってていってんだろアンタ。
俺は態勢を立て直してまた剣を構えて猛然と相手に向けて走り出す。
あちらもそれを迎撃しようと剣を構え直す。
ただ、その表情はやや呆れた様子だ。
「同じ手が通じると思っているのかい?……だとすれば、それは間違いだ!」
クロノさんの左手が薄緑色に輝き手に持っていたラウンドシールドを投げてきた。
……投擲スキル!?
想像もしていなかったスキルに俺の反応はやや遅れたが、それを跳んでやり過ごす。
そんな愚行を歴戦の兵が見逃すはずもなく、スピードが乗った横薙ぎを仕掛けてくる。
クロノさんの顔には笑みが浮かんでる。
その笑みは勝利を確信した笑みだろう。
――だから俺も笑ってやる。それは間違いでしたよと。
横凪ぎが当たる瞬間、俺はもう一回“飛んで”かわす。
「な……!?」
顔にずっと浮かんでいた笑みが消え、驚愕で埋まったを確認して俺は先程よりも獰猛に笑う。
そして俺の体は先程と同じく仄かに黄色く光る。
ダッシュ攻撃は空中でも使える数少ない技の一つなのだ。
「空駆!」
交差させた双剣は敵に反撃の暇なく体力を削る。
俺のこの「二段ジャンプ」は固有スキル“軽業”によるお陰である。
固有スキルとはそのジョブに初めからついているスキルの事をいい、例えば愴斧使いだったらバックステップといったように双剣使いの俺はこの軽業というわけだ。
空駆が見事に決まりクロノさんの顔から笑みを消した後俺は体を反転させて追撃を仕掛けていた。
相手の体力ゲージは1/5も減ってはいなかったがそれでも、ダメージらしいダメージを与えていた。
だがそこまでだった。
そこから先は片手の両手剣で全ていなされ、かわされ弾きかえされた。
双剣の速度を超える片手の両手剣は自分でも思ってた以上に驚異で付け入る隙なんて何処にも見当たらなかった。
「何したら、そんな、強く、なる、んですか!」
「訓練かな?」
「どんな、密、度で、やってん、ですか!?」
こんな言い合いをしてる内に俺たちは何合、何十合と打ち合う。
正しくは俺が切りかかり全て弾きかえされたりするだけなんだが。
ただ、こんなにも打ち合ってるのにクロノさんは反撃という反撃ををしてこない。
たまに牽制程度に剣をふるうだけだ。
攻撃は最初の一回と俺が二段ジャンプを使った時に一回の計二回。
これはもう何かを試しているとしか思えない。
……いや、実際試すのが今回のこの人の目的だったな。
そうこうしている内に気付けばクロノさんにもまた笑みが戻り俺の顔から笑みが消えた。
それを見ると俺の心の淵の部分である思いがくつくつと煮えたぎってきた。
――なめんなよ
そんな思いが視線越しに伝わったのか何時もの柔和な笑みから何処か挑発するような笑みへと変化する。
もう何度目かもわからない鍔迫り合いを受け流すように終わらせて少し下がって距離をとる。
それにたいして追撃をかけるような真似はクロノさんはとらず静かにこちらを見ている。
俺は静かに相手を見つつ心を落ち着けていく。
数瞬の静寂の中、動いたのはまたしても俺だった。
動きは助走へと変わり助走がダッシュへと変わる。
いくぞ……これが俺の切り札だ!
「回転斬劇・開幕!」
俺の双剣が全体的に朱色に煌めいていく。
相手の間合いに入った直後に俺の間合いも訪れ剣による攻防が始まった。
相手の方が一瞬だけ速く豪速の剣が煌めき俺を狙って突きを仕掛けてきた。
それを体を独楽のように回しながら避け、すかさず反撃をしようと剣を薙ぐが戻ってきた両手剣に阻まれる。
そしてもう一度回転し、相手の右側に移動し剣を薙ぐ。当然防がれるが今度は相手の頭を越えるような縦の回転で攻撃を仕掛け反対方向に着地する。
これには相手も意表を突かれたのか若干反応が遅れるも、確り防ぐ。
その後も俺は独楽のように回転しながら、体操選手みたいに回転しながら攻撃を続けていく。
朱い残光を残しながら様々な方向へと移動する俺はまるで花火にでもなった気分だった。
そしてその次に何処へ行くのかわからない回転のせいでクロノさんは徐々に受けるダメージが増えていった。
「どうしました!反応が遅いですよっと!」
「困ったね、これは少々キツ……くっ!?」
相手は少しだけ焦ってしまったのか剣を先程よりも大きめに動かしてしまった。
そこを俺が見逃す訳もなく、急いで反対方向へと回り込んで切りかかる。
クロノさんは力で無理矢理軌道を変更させ威力が殺された両手剣で俺に対抗しようとする、が俺に剣一本で止められてしまう。
二本目で剣を弾き返し、その場でグルンと一回転しフィニッシュに持ち込む。「これで……終いだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
遠心力が乗った双剣は、がら空きな懐へと勢いよく叩き込まれた。
「ぐ……っ!」
振り抜く勢いを利用して相手を吹き飛ばしたと同時に剣が纏っていた朱色の光が消える。
振り抜いた後相手の体力ゲージを確認するとさっきのをあわせ、全体の1/3程減少していた。
ここで俺はふとした違和感に気付く。
「クロノさーん!投擲スキル以外に使わないんですかー?」
聞かない方が良かったんだろうがこのまま勝ったとしても何処か後味の悪いものになってしまっただろう。
「……ぐっ……ああ、使うのは投擲だけだ!じゃないとフェアじゃないだろう!」
少し痛むのか時折腹を擦りながら声を張ってこたえる。
まあ、向こうがスキルを使いまくったらヒロヤ戦みたいになってしまうからな。クロノさんはそれだけは避けたかったのだろう。
それを聞いて胸のつっかえがとれた俺は再び剣に朱く煌めかせる。
次は半分まで削る!
そう意気込み再度「回転斬劇・開幕」を仕掛ける。
だが先程と違う点は向こうが今まで片手で持っていた両手剣を両手に持ち変えたという点だけで、柔和な笑みも、不動の構えも何一つとして変わっていなかった。
その事をさして気にも留めず、そのまま突っ走っていく。
普段の俺ならこんな馬鹿な事は止めさせるのだがダメージを削ることばかりで視野が狭くなっていたため自制は出来なかった。
そして相手の間合いに一歩、踏み込んだ瞬間体が動かなくなった。
あれ?どうして?ということも出来ずただ、人形みたいに立ち尽くしていた。
体力ゲージをチラと見て悟る。斬られたのだと。
それも可視出来ないほどの速度で。
鈍い痛みと共に段々と薄れていく視界の中、俺はヒロヤの言葉を思い出していた。――あの人の長剣の一撃は戦神アラスの一撃ともいわれているらしい――
確かにそうだよ。身をもって体感した俺が言うんだから間違いない。
殆ど真っ暗な視界で最後にみたのは、灰色で埋め尽くされた体力ゲージだった。
――ろ――きろ――!
寝かせてくれよ……俺あんだけ頑張ったんだから……
――きろ――――死ねっ!
「はっ!?」
本能的な所で危機を感じた俺は転がるような形で起き上がる。
それと同時に地面に何かが突き刺さるような音がする。
みると持ち主がアキ。犯人もアキ。
……
「てめえ何すんだよいきなり!?」
「うっせ!夕方まで眠りこけているお前の方が悪いんだよ!」
「は!?夕方?……そんな寝てたの?」
「ああ、ぐっすりだったぜ!」
「そ、そうか……それはすまなかったな……スマン」
と、ここまで話して今まで沈黙を守ってきたヒロヤが口を開く。
「なあ……お前ってラーメン何派?」
「いきなり何いいんだすんだよ!?」
「因みに俺は豚骨醤油派だ」
「まず何でこんな流れになった所から説明しろよ!」
「えーと、俺は……」
「てめえは黙ってろアキ!」
「聞いてきたのヒロヤだろ!何で俺キレられてんだよ!?」
「さっきのお返しだ!有り難く頂戴しとけ!」
「面貸せやてめえ!」
「上等だ!表出ろアキ!」
こんな風に仲良く(喧嘩一歩前とかナッテナイヨー)話してあっていると後ろからリズミカルに土を踏む音が聞こえた。
「あれをくらって起きてそうそうそんなに元気に会話できるなんてつくづく君には驚かされるよ……」
呆れたような声色をしているが耳に染み入るような低いこの声は……クロノ騎士団長だ!
バッと後ろに振り向くとそこには苦笑いをしたクロノ騎士団長が立っていた。
「その様子だと、怪我は大したことなかったかな?」
「いえ、めちゃくちゃ痛いです。今にも泣き喚いて逃げたしたいぐらい痛いです」
咄嗟にもう一回やろうとかいわれそうだったんで嘘ついちゃったが無問題ですよね?
実際は鈍く痛む程度なんだが。
そんな俺の様子を見破ったのか苦笑いから何時もの柔和な笑みに変えて「その様子だと問題ないらしいね」といってきた。
いや、笑うと痛いです。
「あ、そう言えば君達に話があってここに来たんだったね」
それを聞いた瞬間ピリッとした空気がヒロヤとアキから発せられる。
俺?俺は大体予想はついてるから自然体だ。
話とは恐らく十中八九で正騎士になれるかどうかの話だろう。
いや、それ以外には考えがつかない。
「試合をする前にいった内容によって正騎士に昇格させるといったことだけど」
二人から生唾を飲み込む音が聞こえる。
そんなに期待してたら後が辛いぜ、とは言い出しにくく俺も黙ってクロノさんの言葉に耳を傾ける。
「……うん。実力も申し分ないので今日付けで君達を正騎士に昇格させます!」
……………え?
横でよっしゃあ!とか喜びの声をあげているが俺はどうしても喜べなかった。
「騎士団長!どうして昇格なんですか!?あの試合は戦闘時間、総ダメージ量、勝ち数、どれをとっても良い出来とは言えませんでした。なのに何故、正騎士に昇格させるのですか!?」
本来、このようなめでたい時にこんなことは言わないで良いんだろうが俺はいってしまった。いや、言わずにはいられなかった。
それほどまで俺の中で納得がいかなかった。
あんな取ってつけたような理由でポンポンと位をあげられてはやってるこちらとしては楽しくもなんともない。それではまるでクソゲーじゃないか。
声が途切れ、俺の荒々しい息遣いだけが静寂が支配する場に響いた。
俺のこの問いにクロノ騎士団長は困ったような笑みを浮かべて話し出す。
「クロノで良いのに……何故、ねぇ……理由は先程もいったように実力が申し分ないから」
「しかしそれは!」
「だったら君は」
俺の言葉に被せるように優しく問い掛けてくる。
「だったら君は俺に両手で剣を握らせる事が出来る人数を知っているか?体術だけなら僕を超える副騎士団長に朧を出させる相手がどのくらいか知ってるかい?」
その問いに俺は答えが出ず、黙ってしまった。
「答えは両の手で足りるぐらいの人数だ。だから使わせた君達の実力は申し分ないのさ」
そう言われてみれば確かになるほど、と思える節が幾つか見付かった。
俺の場合は反撃をしてこなかった。
今思えばこれは両手を使うに相応しいか見極めていたのか。
「納得できたかい?」
その口調は優しく俺のさっきの噛み付くような態度を咎める素振りすら見せない。
その事を少し有り難く思いながら俺は力強く頷いて返事をする。
「はい!」
「うん。良い返事だ。じゃあこれからよろしく、“正騎士”さん」
差し出された手をギュッと掴んで俺は今出来る精一杯の返事をする。
「よろしくお願いします!!」
「あ、アキ君は一人でここに残って後で僕と模擬戦だよ」
「なんで!?」
「君だけ実力が測れなかったからだよ」
「じゃあ実力が謎なミステリアスな男で――」
「連携も重要なんだからミステリアスじゃ意味ないんだよ。それに模擬戦しないと君だけ正騎士になれないよ?それでも良いんなら別にいいんだけど……」
「わかりました、わかりました!やりゃあ良いんでしょ!やりゃあ!…………はぁ……」
なんか久しぶりな気がする戦闘シーンです。
上手くかけてるでしょうか?(ドキドキ)
あ、M3さんは別に模擬戦書かなくて大丈夫です。そのままストーリー進めちゃって下さい。
以上今回は割かし真面目なM2でしたー。




