ドラゴナイト 6
はい
ちょっとだけ戦闘シーンやって、チョットだけ進みます
警報が鳴り響き、城内が騒然となる。先ほどまで笑っていたお姉さんの目にも緊迫の色が浮かんでいる。
「おいおい、何があったんだよ。俺たちまだ何も受けてないぜ!?」
ダントが周囲を見回して、落ち着かなさそうに叫ぶ。
その気持ちは分からないでもない。現在俺たちを置き去りにして、城中の人が慌ただしく動いているのだ。落ち着かないのも当然だろう。
「なんにせよ、その内なにか連絡があるだろ。まあ、警報の種類で事態を分けてるなら別なんだけど」
「そういえば、そうだよな」
アキの冷静な言葉でとりあえずダントが落ち着く。
直後、先の警報に匹敵する音量でアナウンスが流れた。こんな中世の世界でアナウンスとはこれ如何に? なんていう疑問が脳裏をよぎったが、いまは重要ではないので保留する。
放送によると、3000体のスカルナイトがこの町に向かって2方向から攻めて来たらしい。それと軍の戦闘要員は広間に集まれとのことだ。
(3000だって!?)
「初期クエストの数じゃないよな。なんだよこのゲームは」
「これも、恐らくリアルタイムで出現するイベントクエスト、あるいはランダムクエストなんだろう」
驚く俺に、ダントが推測だけどな、と断りを入れて説明する。
「それにしても3000か……。現実的な数字じゃないな」
集合場所に集まった戦闘員。兵士の数は200。それに対して敵の数が3000だから、誰一人として死なないことを最低条件として、1人で15体を相手にしなければならない。
しかもただの1対15ではないのだ。2方向から均等に来ているとして、100対1500。兵力差15倍のぶつかり合いなど聞いたことも無い。
一般に攻めるには守る側の3~5倍の力が要ると言われているが、余裕で越えている。加えて言うなら、これは籠城戦ではなく平野での迎撃戦だ。これはもう壊滅的に勝てる要素がない。
勝てる訳がない。
正直、そう思った。しかし友人の意見は違うようだ。
「なんだか面白くなってきたな。ダントもそう思うだろ」
「誰だろうと負けはしない」
なんとも気楽に考えていやがる。始めたばかりなのでLv1、さらに当然のように武器は初期のものだ。お前ら一人で15体も倒せるのかと怒鳴りたいが、よく考えればLv1で死んだところで大したペナルティーがあるはずもない。
そもそもこのゲームは、数値的なステータスも重要だが、どちらかと言うとプレイヤースキル、つまりアクションに力を入れている。以上の事を踏まえたうえで
「ま、油断せずにいきましょうか」
結局俺も、二人に倣って楽に構えることにした。
とは言ったものの、
いざ戦場に立つと、1500という数がいかに暴力的であるか、嫌でも理解させられる。
が、やるしかないだろう。そもそも俺の武器はこういった一対多数の状況でこそ真価を発揮する。適当に突っ込んで適当に振り回していれば、それなりの数は稼げるはずだ。
「先手必勝!」
3人の中で、初手はアキが取った。使いにくそうな、『斬る』という行為には向いていなそうな鎌で器用に骨モンスターに斬撃を見舞う。
「負けれられないかな」
「だな。相成す二振りの剣による舞を見せてやろう」
俺、ダントの順でそれぞれ手近なモンスターに向かっていく。
「お……っらぁ!」
俺は右から左へと武器の重量にまかせて振りぬいた。
巻き込まれた数体が防御も空しく宙に飛ばされ、爆散する。
「案外軽いな」
思いのほかあっけない手応えに、俺は拍子抜けする。
「俺もソレ思ったよ。数の割に単体じゃあ大した強さじゃないよな」
呟いた俺の意見に、アキが賛同の意を示した。双剣使いであるダントは一撃で屠ることが出来ず、尚且つその射程範囲の短さのせいである程度苦戦しているようだが、群がる雑魚など俺とアキ、特に重い武器を使う俺の敵ではない。
「ははっ。景気良くなってきたじゃないの!」
叫びながら、俺はハルバードを大上段まで振り上げ、スマッシュを発動させた。
刃先がわずかに紅く煌き、光を残して目の前に叩きつけられた。そこを視点に扇状に衝撃波が広がっていく。射程・威力・速度の全てにおいて満足できる良スキルだ。
俺は夢中で武器を振り続けた。いくら1体1体が弱いと言っても、数はそれだけで威力になる。そのうえNPCのやる気があまり見られないため、俺たちの倒さなければならない量が半端ではない。
そこから先は、よく覚えていない。気付けば戦闘が終わっていた。ちょっと普通ではない量の経験値と金額がそれぞれに入り、軽快なレベルアップの音を響かせる。
現在のレベル、Lv17
たった一戦でこれとは、かなり美味しいクエストだ。見れば、2人も同じようなレベルまで上がっている。
「なあなあ、何か新しいスキルとか出たか?」
俺がステータスを子細に眺めていると、アキが好奇心全開といった様子で俺たちに聞いてきた。
「秘密だ」
「うわ、連れねーの。じゃあヒロヤは?」
ダントにすげなくあしらわれて、今度は俺に振ってきた。普通に答えてもいいのだが、それだと面白くない。更なる強敵に会った時に、「何だよその技! いつの間に!」なんていう展開が全員に起こればさぞスリルのある戦闘になるだろう。
「って訳で同じく秘密」
「どんな訳だよ」
そんな下らない言い合いをしていると、視界の右下にクエストログが流れた。
「なになに? 戦闘に参加した者は広間に再度集合、ね。なんだと思う?」
さっとダントが音読する。
「さてね。報奨金とかなら嬉しいけど、このゲームだと「また攻めてきた!」とか言いそうだしなぁ」
「あー、分かる分かる。もうすでに無茶を言われてるしな」
「ま、行ってみれば分かるでしょ」
俺の意見にアキが賛同し、ダントが先を促すことで俺たちは再び広間へと向かった。
ざわざわと、初めに集まった時とは違う種類の喧騒がこの広い空間を満たしている。
幸いなことに死者は出ていないらしい。仮に出たとしてもNPCなので特に困ることはないのだが、やはり後味が悪いのはいただけない。
「あれー。どこ行ったかな?」
「誰探してんだよ」
周囲の雰囲気を全無視でキョロキョロとあたりを見回すアキ。それを咎めるような口調でダントが行動の理由を問うた。
「えーっと、戦闘中にフラグ立てたはずなんだけど」
「マジでか。お前暇だな」
「まあな。俺にかかれば死線だろうが午後のコーヒーブレイクと大して変わらないんだよ」
ダントの呆れ声にアキは胸を張って答える。
俺たちが並んでいるのは最後列なのでハッキリいて後ろから見ればとても目立つ。恥ずかしいので出来れば止めてほしいのだが、言ったところで聞きはしないだろう。
そう結論した俺は、せめて早く終わるようにと不自然にならない程度にカワイイ子を探す。ここにいるということは、恐らく同じ軍の戦闘部隊。竜騎士志望のヒロインだろう。
いつの間に知り合ったのかは分からないが、これで3人ともが攻略対象を見つけたことになる。
尚も俺たちが件のヒロインを探していると、ようやく200人+α がひしめく広間の前方に置かれた壇上に、出撃前も見たクロノが上がってきた。見ればクロノの鎧には凹みや返り血が付いている。指揮官として後衛に下がるのではなく、兵士として前線に出たことの証だ。
「集まってくれた勇士よ。まずは市民全員に替わって礼を言う。いまこうして私が、この城が、町が無事でいるのは君たちのおかげだ。本当にありがとう」
そういって、クロノは深々と頭を下げた。
「後になったが、君たちの無事も喜ばしいことだ。あのような大群が攻めてくるとは妙なこともあるが、君たちの力があればこれからも乗り越えていけるだろう。もっとも、私は御免だがな」
最後に付け加えた一言で、一部の古株っぽい雰囲気の人たちが笑い声を上げる。なかなかどうしてクロノは気に入られているらしい。
「君たちには、細やかながら軍部より報奨が出ることになった。後で順番に受付へと来てくれ。今回は本当に礼になった。今後も誇りある軍の一人として、この都市を共に守って行こうではないか!」
クロノの最後の言葉に続いて、野太い声援やらが広間を満たす。その中に、場違いな可愛い声を俺は聞いた。
「もしかしてさ、アキが探してるのってあの子?」
アキの肩を叩いて呼び、俺は音のする方へと指をさす。
「そうそう。よく見つけてくれた! 礼を言うぜ」
「じゃあ、俺とヒロヤはさきに報酬貰ってくるから、アキはヒロインと絆深めとけよ」
「おっけ。そういやお前も出る前になんか約束してなかったっけ。必ず生きて会いに来るとか」
「それはまた後でいいよ。折角金が貯まったんだから、先に武具を揃えたい。その過程で会いに行けばいいさ」
話の流れがリア充っぽくなってきたので、俺も負けじと攻略対象の名前を出す。アキはと言えば、俺の話も聞かずに既にヒロインの方へと向かっていた。
「俺とお前はルカが造ってくれるの忘れるなよ」
「忘れるかっての。でもさすがにずっと初期武器はないだろ? 財布が軽くならない程度に何か買わなきゃな」
「まあそれは一理あるな」
ルカの作ってくれる武器がどの程度か確かめるまでは武器を買わないつもりにしていた俺だったが、確かに2週間も初期のままではちとキツイ。
「あ、なら俺は武器はいいから魔法を買うことにするわ。とりあえず回復と牽制用くらいは欲しい」
「なるほどな。ま、とりあえず報酬貰いに行こうぜ」
「りょーかい」
今後の方針がなんとなく決まった俺たちは、アキを後方に置いて列のでき始めている受付へと向かった。
よく考えれば3000って普通じゃないよね
M1なら絶対に戦いません
だって15倍だぜ?
勝てるわけねーじゃん
次の人は、軍からの報酬の内容を決めちゃってください。
200人いるって事と、市民が避難するほどの大事だったって事を踏まえたうえで、軍部の経理担当になったつもりで考えてくださいね。
しょぼすぎると不満が高まって軍を維持できない
豪華すぎると軍の財布が空になって、これまた維持できない
この微妙なラインをガッシと見極めて、ヒロヤ君たちに報酬をば