デソイ・トラバイル 13
いくらなんでもドラゴン弱すぎだろ。
竜はもっとつえーんだよ!
なる指摘をリア友から頂き、M1自身もそのような感想を持っていたので、ファクルドラゴンの救済措置回です。
M3さん、語られていない戦闘部分ってことでお許しください。
PS:気分がノったのでちと長いです
ファクルドラゴンのタゲがエクスキューショナー山田からマイケルに移る。
(ナイスタイミング!)
俺は心の中でマイケルに賞賛を送った。あのままエクスキューショナー山田にタゲが留まり続けると、ほぼ間違いなく彼は死んでいただろう。紙細工同然の装甲で切り込み隊長なんて出来る訳がないのだ。
「さて、俺も仕事しなきゃね」
小さくつぶやいて、俺は自分のMPと仲間のHPを確認する。――まだ余裕あり。
突然だが、このゲームの魔法には『溜め』なるものが存在する。
魔法を発動させたまま撃たないでおくと、徐々にMPが消費され、その分魔法の威力が上がるというシステムだ。
俺の習得している下級魔法『Lv1ウィンドカッター』でも、最大まで溜めれば中級程度の威力まで上がる。時間もかかるし消費MPも馬鹿にならないのでソロには向いていないシステムだが、いまはパーティーを組んでいて、しかも前の二人が割と頑張ってくれている。
「なら今しかないでしょう! ライトニング――――」
覚えている魔法の中で、初期攻撃力が最も高い魔法を溜める。継続的に減っていくMPを見て心が折れそうになるが、我慢だ。マイケルだって撃てば撃つだけ弾が減るんだから。
エクスキューショナー山田? 知らん。
そうこうしているうちに、マイケルの弾丸が不規則にファクルドラゴンの鱗を飛ばしていく。そういえば、あの剥げた部分に魔法を当てると、魔抗はどんな計算になるんだろうか。ミノタウロス戦では眼を潰すと視界が無くなったみたいだから、もしかしたら魔法が徹るようになっているかもしれない。しかしそれにはかなりの命中精度が…………、
ライトニング――初級魔法の中で最高の命中精度を誇る。
やってみる価値はあると言える。その為にはもう少し剥げた範囲を広くしてもらわねばならないが、ギリギリのところでドラゴンの攻撃を躱しながら攻撃を続けるマイケルに、狙い澄まして撃つ余裕はないだろう。
どうしようかな。いっそのこと頭とか狙ってみるかな。
そんなことを考えていると、エクスキューショナー山田が居た辺りから、青白い光が迸った。それが雷撃であると認識するのに、わずかな時間がかかる。雷刃剣壱の太刀とやらも中々に雷っていたが、その比ではない。
『ライジング・バースト』
首を捻る俺の耳に、轟きのようなエクスキューショナーの言葉が届き
刹那、
光の本流を引き連れて、エクスキューショナー山田がファクルドラゴンを貫いた。それと同時にエクスキューショナー山田のHP・MPの両方が1/3ほど減る。
(グッジョォォォォォブ!)
俺は心の中で最大級の賞賛をエクスキューショナー山田に送る。
ファクルドラゴンを貫いた雷撃は、横腹の広範囲の鱗を弾き飛ばしていたのだ。
「よっしゃあ! ライトニング ver.フルチャージ!」
すかさず俺は溜めまくっていたライトニングを、ピンク色の見える、すなわち鱗のとれた部分に叩き込む。
ライジング・バーストに比べれば乏しい雷鎚が横腹に吸い込まれ、炸裂した。
さしものファクルドラゴンもこの二連撃には耐え切れなかったのだろう。体を大きくのけぞらせる。しかし転んでもタダでは起きない精神なのか、それとも竜の意地か。倒れ込むと同時に太くしなる尾がエクスキューショナー山田を襲い、岸壁まで吹き飛ばした。
「あ――ぐぁ……っ!!」
ライジング・バーストによって減ったHPが、さらに大きく削り取られる。
「ヒール!」
即座に回復魔法を掛けたが、それでもHPバーは半分ほどまでしか回復しない。
まずいな。非常にまずい。俺のMPは先ほどの溜めで大部分を消費してしまっている。その上エクスキューショナー山田にヒールを掛け、もうほとんど空だ。さらに間の悪いことに、そろそろ最初に掛けた各種補助魔法が切れる頃合いである。
ファクルドラゴンも、既に相当のダメージは食らわせたはずだがまだ倒れる気配はない。
アイテム蘭に寝かせてあるMPポーションを使うべきか否か……。
(バカ高いんだよな。コレ)
すでに一つ使っているため、この依頼を達成してようやく元が取れると言ったところか。
「悩んでる場合かっての!」
もしここで瓦解してしまえば、それこそ意味のない損失だけが残ってしまう。
覚悟を決めて、MPポーションを一気に飲み干す。柑橘系の香りが全身を巡り、MPバーが最大まで回復した。
その確認をする前に、エクスキューショナー山田のHPをフル回復。防御を除く支援魔法を掛け直して、いい感じに隠れていた岩陰から飛び出す。
「俺も攻撃に参加する! HPは自分で何とかしてくれ! 薬草くらい持ってるだろ!!」
前の二人に叫び、俺は杖を眼前に掲げた。
総力戦だ。こちらも大した余裕は残っちゃいないが、ファクルドラゴンにしてももう楽観できる被ダメージ量ではないはずだ。
「なんで魔法使いが前衛を差し置いて高火力職なんて言われてるか教えてやるよ」
瞑目。体の芯が冷めるような感覚。己の感覚が、すべて内に収束されていく。
――――コンセントレイション
目を開けたとき、小さくない魔方陣が俺の重心を起点として広がっていた。
直訳では集中とかそんな意味だった気がする。魔法使い系の職が始めから覚えているアクティブスキルだ。
一切の移動が出来なくなる代わりに、MP消費軽減と、魔法攻撃力増加の恩恵を受けることが出来る。
基本的に、敵と自分の位置が変動する戦闘では動けないこと=ゲームオーバーであるが、PTメンバーが居ればその限りではない。
コンセントレイションと溜め。この二つが合わさったとき、他の追随を許さない高火力職が誕生する。その姿はまさに固定砲台と呼ぶにふさわしい。
俺にとって好都合なことに、ファクルドラゴンは飛ぶそぶりを見せない。開始早々のマイケルによる射撃と、先ほどのライジング・バーストによって、翼の膜が千切れているのだ。そのうえ奴は、方向転換をしながら尾や鉤爪、たまに羽撃きによる烈風なんかで攻撃をしてはいるが、その場からは動かない。
しかし、ついにファクルドラゴンが竜の代名詞とでもいうべきブレスの構え取った。
大きくのけぞらせた口腔からは、禍々しい緑が漏れている。恐らく食らえば確実に毒に犯されるだろう。
そして、慈悲も何もない緑の濁流が、
「マイケル!!」
ガンナーの小さな背中を飲み込んだ。
「よくもマイケルを……。後悔しやがれ。爆炎の地獄へと墜としてやる」
思わずエクスキューショナー山田口調になってしまった。後で思い出して身悶えするかもしれないが、誰もが通る道だと思って割り切る。
コンセントレイションの状態から魔法を最大まで溜め、
「フレイムタワー!!」
少し前に覚えたばかりの中級魔法を放つ。
ファクルドラゴンの足元から焔の柱が吹き上がり、その体躯を一時的にとはいえ飲み込む。
馬鹿にならない量の継続ダメージを与える炎柱とは別に、いく筋もの雷撃と銃声がファクルドラゴンを打つ。あのブレス、毒は食らうがダメージはさほどでもないらしく、お返しとばかりに元気にマイケルは動き回っている。
だから解毒は後でいいよね。
もはや大勢は決したと言っていいだろう。ファクルドラゴンは為す術もなく、攻撃の雨に晒されている。
だが、あと少しというところで、ファクルドラゴンは最後の悪あがきを見せた。己がこの世に存在した傷跡を残すように、それは全身全霊の悪あがき。
「お前ら下がれ!」
後方に居たためソレに気付いた俺の警告は、しかし遅すぎた。
今までで最速の尾による薙ぎ払いが、マイケルとエクスキューショナー山田に直撃した。攻撃を仕掛けている最中の二人は、防御姿勢すらとれずにまともに吹き飛ばされる。
(あ、マイケルがさすがにヤバイ。毒を放置しすぎたな)
俺は溜めていた魔法をキャンセルし、マイケルに解毒を掛ける。
しかしこれで、残りMPはヒール1回分……。
(エクスキューショナー山田は、まだもう少し余裕あるな。なら)
「ヒロヤ! 俺に回復をよこせ!!」
虫の息であるマイケルに最後の回復と掛けようとしたとき、耳に届いた、まだ宙に留まるエクスキューショナー山田の叫び声。
俺を信じろとでも言うのだろうか。マイケルを回復させて体勢を立て直すのではなく、あのエクスキューショナー山田に懸けろ、と。
「あぁくそ。信じてやるよ! お膳立てはしてやらぁ! ゲームの中でくらい精一杯輝けよな!!」
文字通り最後のMPが、エクスキューショナー山田のHPへと変換される。
「恩に着る」
そんな呟きが聞こえた気がした。
滞空中のエクスキューショナー山田が視界から消える。
そして、
二度目の雷光。
雷を纏う影が、ファクルドラゴンの胴体を右から左へ貫いた。
離れた位置に着地したエクスキューショナー山田が短剣を頭上に掲げた直後、竜はその動きを止め、ポリゴンとなって飛散した。
「「おっしゃぁー!」」
最初に勝鬨を上げたのは誰だろうか。俺とマイケルは何度も手をたたき合い、エクスキューショナー山田も満更ではない笑みを浮かべている。
そのあと、何やらレアドロップの短剣が俺に出たので、何とか売ってもらおうとエクスキューショナー山田が俺に付きまとう中、マイケルの取り出した、所謂「キメラの翼」的アイテムで、俺たちは街へと戻った。
「いやー、竜つえーな」
マイケル改め鷹尾明希が、PZPをテーブルの上に置いて大きく体を伸ばした。
「だな。俺が居ないとどうなってたか」
ヒロヤ改め俺もつられて首を鳴らしてみる。
「俺が……一番活躍した」
普段は無口なエクス以下略改め山田断人も、今回ばかりは自己主張を入れてきた。
「…………久しぶりに、手ごたえのあるアクションゲームだった」
「面白かったなー。とりあえず、これはいったん終わりにして、またそれぞれ強くなってから強敵倒しに行こうぜ。ずっと通信してても面白いけど、手の内ばれるの嫌じゃん」
「まあ、確かに」
いろんな魔法を覚えて、驚かしてやりたいって気持ちはある。となると、
「各自ソロでラスボス倒したら、またやろうぜ。確かラスボス倒したらプレイヤー同士の決闘とかも出来るようになるはずだし」
「マジかよ」
「……俺に、挑戦すると?」
「「エクスキューショナー山田に負ける気はないな」」
「……必ずその言葉を撤回させる」
メガネに隠された山田の瞳がきらりと光ったような気がする。
「あぁぁ……。そろそろ下校時間か?」
「……そう」
会話も途切れてきたころ、腕時計を確認した鷹尾の問いに山田は小さく頷く。
「んじゃあ、俺が鍵返しとくから、二人はさき帰っててくれていいよ」
俺はそう言って、手早くゲームの類を鞄の奥に収納する。
当然だがゲームはこの教室、それも放課後に限ってしか使用することはできない。校内での放課前のゲーム使用が確認された場合、即座に解体すると怖い顔で校長に釘を刺されている。まあそうでなくても校則に背くようなことは極力しやしないが。
「いや、ナニ恩着せがましく言ってるんだよ。今日の当番はお前だろうが」
「……まあ、ね。そうなんだけどね」
わざわざ言わなくてもいいだろうが。
「デソイはこれで一旦終わるとして、次は断人が持ってくるんだよな」
「……まかせろ」
企画やら、経験皆無でいきなり始めたPTプレイやらLv上げも含めると、そろそろ1週間になる。そろそろ頃合いだろう。面白そうなゲームが無ければこのまま続けるが、山田の推すゲームが中々面白そうなので、同好会活動活動としてのデソイ・トラバイルは終わりだ。
「レポート頑張れよ」
「……尋哉なら出来る」
ゲームの報告は、発案者が持つことになっている。
(どーすっかなぁ)
すでに暗くなった帰路の最中、俺はずっとレポートをどう書くか考えながら家まで帰った。
レポート 作品名:デソイ・トラバイル 有川尋哉
細かく作りこまれたディティールや、行動パターンがとてもリアルで、新しかった。
なにより、決められたストーリーが存在しないというのは興味深い。スタート地点とゴール地点のみのマラソンの様なモノ。正攻法で走ろうが、歩こうが、タクシーを拾おうが、すべて個人の勝手にできる。
その点において、自分は高評価を付けたいと思う。
多少システムが複雑なのが難点といえば難点だが、理解してしまえばゲームの奥行きがさらに深くなり、より一層楽しめること請け合いであるだろう。
今回、後方支援職を選んだ定めとして、全体把握能力の大切さが身に染みた。
それは現実でも当然必要なものだと自分は思う。
このゲームでそれが身に付くとは言い切れないが「大切だと気付いた」ことに意味があるんじゃないだろうか。
よく「所詮ゲームだ」と言われるが、「されどゲーム」でもあるのだ。
世界中のどこを探しても見つからない世界に、ゲームは連れて行ってくれる。
しかも、その世界は人が己の想像力で、己の手で創造したものなのだ。
何が言いたいのか自分でも少し分からなくなってきたので、最後に一言で絞めさせてもらう。
すげー面白かった。ありがとう。
そんな感じで、「デソイ・トラバイル」編はひとまず終了です
どうやらまだこの同好会は続くみたいですね
凄いね、ノリ
次回からのゲームはM2さんの担当です
ゲーム内容どころかジャンルすら聞いていませんが、
「面白すぎてぶっ倒れるなよ?」
とのお言葉を頂いているので期待していますよ
以上、M1