デソイ・トラバイル 10
なんとついにナンバリングが2ケタ突入ですね
ノリって凄いなぁなんて実感させられた今日この頃です
by M1
「くっそ! 俺の攻撃はタダじゃないんだよ!」
「懐が苦しいなら下がっていろ」
ベレッタのマガジンを空にしたマイケルの脇から、短剣を構えたエクスキューショナー山田が飛び出す。刃の向う先は、この辺りに出没する雑魚モンスター「リザードマン」の喉元だ。
俺たちは今、『蒼窟の渓谷』に来ている。深くまで潜れば高レベルプレイヤー御用達の稼ぎ場だが、浅い所なら低レベル者でも十分戦えるフィールドマップである。
なぜそんな所に居るかって?
原因の全てはエクスキューショナー山田の選んできたクエストにある。
『貴様ら、竜を撃ち落したくはないか?』
仰々しいセリフとともに、エクスキューショナー山田は俺達に見繕ってきたクエストを説明した。
『竜を狩る者』
それが俺たちが今受けているクエストの名前だ。討伐対象はこのフィールドに巣食う中型モンスターの「ファクルドラゴン」。ステータス的な強さはミノタウロスとそれほど変わりはないが、今回の相手は飛ぶし、状態異常を起こす可能性のある遠距離攻撃も持っている。
大層な相手だが、実質は全く持って無理なクエストという訳でもない。受ける事が出来る、ということは、受領可能レベルに達したクエストであると言うことだ。しかし、あまり現実的なクエストでないのも事実である。あの馬鹿がエクスキューショナー度とやらを優先したためだろう。
一応、下級のドラゴン族は鱗テカテカの見た目に反して物理耐性がそこまで高いわけではないから、十分に可能性はあると言える。しかしその分魔法耐性は高いので、俺の攻撃はあまり役に立たない。まあ裏方に徹すればいいさ。
ファクルドラゴンは、今戦っている場所からしばらく行ったところにある、三方を岩肌に囲まれたちょっとした広場に巣を作っているらしい。そのため俺たちはマップと睨めっこをしながらその広場とやらを目指しているのだが、何故かやたらとリザードマンとエンカウントするのだ。
爬虫類のくせにわんさか出てきやがって。とはマイケルの言葉。
ほんと、爬虫類のくせに簡単な武具を装備しているせいでなかなかダメージが通らない。
そんな状況で俺は何をしているかと言えば、離れた所に座って自動MP回復能力をそれとなくブースト中だ。仕方ないだろう。ひとつ前のエンカウントでエクスキューショナー山田が下手を打って、ダメージを食らった上に状態異常も併発し、その治療の為にMPを無為に消費したからだ。
「おぉっと、危ないな。ヒール2連発」
初音ミクの髪色みたいな光が前で戦っている二人を包み、体力を回復させる。全体回復のヒーリングも習得したが、3人以上に掛ける場合じゃなければ単体用のヒールを小出しにする方が燃費が良い。
再び減少したMPを確認してうんざりする。必要な投資と分かってはいるが、今の所3秒に1しかMPが回復しない俺にとって、例え下級回復魔法であろうともそれなりに痛い消費なのだ。
そんな個人的な事を考えていると、ようやくエクスキューショナー山田の剣線がリザードマンを切り裂いた。金切声のような断末魔と共に、リザードマンを形作っていたポリゴンが飛散する。
「おつかれ~。あと距離どんくらい?」
重い腰を上げて、俺は二人の所まで行く。
「ん。あと、歩いて15分ってとこか?」
「ふん。中々に手こずらせてくれる」
「選んだのお前だけどね」
「ナニモキコエナイ」
「まあいいや。マイケルは残弾数とかまだいける? ドラゴン倒すまで保つ?」
「おう。まだ余裕だ」
「んじゃ行きますか」
小休止を取って、俺たちは行軍を再開した。
その後は、いままでのエンカウント率が嘘のようにナニにも合うことなく、件の広場にたどり着く事が出来た。
「ここが決戦の場か。……悪くはない」
「歩くだけでも疲れるな」
「俺はMP全快したからいいけどね」
まだ広場には入らず、そとから様子を眺める。
「んーと、リザードマンが4匹と、弱っちそうな獣が数匹。竜は……ああ居た居た。ちょい壇みたいなところで寝てるな」
ガンナー補正で抜群に目が良いマイケルが、さっと状況を見て取る。
「なるほど」
「取り巻きが邪魔だな」
「それに関しちゃ、俺とヒロヤが開始早々銃と魔法で一気に殲滅しようぜ。足りない所はエクスキューショナー山田が補うし」
「だな。まず竜は無視して周りから潰そう」
「お前たち二人で取り巻き殲滅に足ると判断すれば、俺はファクルドラゴンを叩くが良いか?」
「ご自由に」
「当然だ」
提案者であるマイケルの首肯も得られたエクスキューショナー山田は、じっと岩肌の間を眺めている。
「じゃあ最後の確認な。作戦なんて言える上等なものじゃないけど、まずはエクスキューショナー山田が飛び込んで引き付けて、そこに俺とヒロヤが銃と魔法を撃ち込んで殲滅。残ったやつが居れば、ってか多分リザードマンが残ると思うから、そのときはエクスキューショナー山田が止めを刺す。
取り巻きが居なくなったらヒロヤはいったん下がってMP回復しててくれ。余裕が出来しだい補助頼む。それと回復な。基本はこれで行こうと思うんだけど、オーケー?」
「了解」
「俺からの攻撃は殆どないと思ってね」
マイケルも俺たちの言葉を聞き頷く。
「先陣は俺が切るんだったな」
「たのんだぜ。出来るだけ引き付けてくれ。じゃないと範囲から漏れたヤツの対処が面倒だ」
「無論だ。任せろ」
エクスキューショナー山田は腰から短剣を抜き取り、戦闘態勢の構えと取った。
「今より竜狩りを始める。俺に続け」
そう呟いて、エクスキューショナー山田は駆け出した。
続け、と言ったが、あいつがこのパーティーの中で一番足が速いのだから、誰もついていくことなど出来ない。エクスキューショナー度でも上がってそんな簡単な事も失念しているのか、全速力で小さくなっていく背中を俺たちは慌てて追いかける。
約束通り、猪突猛進しやがった馬鹿は広場の全ての敵を一か所に集めていた。それなりに動き回ったのだろう、体力も少し減っている。
しかし、あれだけ囲まれているにもかかわらず、到着早々エクスキューショナー山田に回復魔法を使わなくてもよかったのは腕がいいのか運がいいのか……。
「ウィンドカッター3連撃! あーんどライトニング!!」
「サンダーバレット!」
追いついた俺たちは、予定通りエクスキューショナー山田に群がっているモンスターへ範囲攻撃を叩き込む。
削りきれなかった分は、エクスキューショナー山田の旋風斬っぽい攻撃でまとめて削りきる。
「さっさと失せろ!」
しぶとく残った最後のリザードマンもマイケルの凶弾に倒れ、ついに残すはファクルドラゴンのみとなった。
そのドラゴンは、ようやく眠りから醒めたのか、闖入者である俺たちを感情の読めない瞳で見下ろした。
「ふん。今頃お目覚めか。よほどの大物か、さもなくば馬鹿だな」
「いやいや、んなこと言える相手じゃないからね。曲がりなりにもドラゴンだからね」
「相手が何者であろうと、俺は俺の道を行く。邪魔をすると言うなら排除するまでだ」
「セリフだけはいつもカッコいいんだけどなぁ!」
グルルルルル……
「……!」
「ちぃっ」
いつものように始まったマイケルとエクスキューショナー山田の喜劇も、ファクルドラゴンの唸り声だけで強制的に止められてしまう。
ギャオオオォォォォォォ!!
音自体に攻撃判定があるかのような振動が、後方に居る俺にまで届いた。
俺は素早くMPポーションを飲んでMPを回復させ、補助魔法を重ね掛けする。
「アタックシフト・ディフェンスシフト。んでもってスピードシフトぉぉ!!」
一応パーティー全員にバフが掛かるため、俺の能力も向上してしまっているのがなんとも損した気分になる。
気分を切り替え、俺は状態異常アイコンやダメージが発生すればすぐさま回復できるように全神経を研ぎ澄ませた。
前方では既に二人が、まだ翼を広げていないファクルドラゴンに攻撃を仕掛けていた。
本日ラストのクエストは、上々の滑り出しで開戦の火ぶたが切って落とされた。
全員がすべてを絞り出さねば勝てない。そんな戦いが始まった。
全員がすべてを絞り出さねば勝てない。そんな戦いが始まった。
そんな戦いが始まった!!!
舞台は整えた
あとは好きにやれ
老兵はただ去るのみ……ってな