デソイ・トラバイル 1
記念すべき第一回目は、M1こと無気力がお送りします
この話は三人の作者がそれぞれ一人ずつを担当して、ちょっとあり得ない同好会活動をそれぞれの目線で見ていく物語です
ゲーム同好会。
それが、俺たちに与えられた地位だった。
これだけじゃ訳分かんないよな。取りあえずザッと説明しよう。
まず、俺の名前は有川尋哉だ。東奥寺高等学校の2年で、先に紹介した「ゲーム同好会」の会長を一応している。余談だけど、部活の長である部長よりも、同好会の長である会長の方が字面的に偉そうに見えるのは俺だけだろうか。
閑話休題。
ゲーム同好会の成り立ちはそれほど複雑なものではない。
俺・鷹尾・山田のいわゆる仲良し三人組でネトゲをしていた時に、ひょんなことからたまたま知り合ったプレイヤーが同じ東奥寺高校だと聞いて、話が盛り上がった。
そこでオフ会の提案がそのプレイヤーからあり、警戒心よりも興味が勝ったため約束の公園へと行ってみれば、まさかの校長が待っていた。というのが事の始まりだ。
初めは戸惑いつつも、校長の持つ深いゲームへの情熱と知識に触れて、俺たちは一気に仲良くなった。そこで出た話の中に「ゲーム部とかあればいいよな。堂々と部活動だって言えるわけだし」なんて話題があった。その時は冗談のつもりだったのだが、校長の「それなりの理由があれば、予算は下りないが同好会なら作れる」という言葉を聞いて、「あったらいいな」が「出来んじゃねーの?」に変わった。
翌日から俺たち(校長は含まない)は白紙の申請書を前に、どう理由をでっち上げればいいかを日々考えに考えた。
そして出来たのが次の申請理由だ。
『そもそもゲームというのは古くの戦争などを題材にシュミレートするモノであり、将棋などはそれを、戦略性の自由度や駆け引きを残して大幅に簡略化したものである。我々はゲームを通じてそのような先を見通す力と、最後まで諦めずにやり通す精神を鍛え、さらには豊かな想像力と、初対面の相手とでも臆せず話せるコミュニケーション能力を養うことを目的としてこの同好会を新たに建設したい』
まあ半分は遊びのつもりだった。どんなに偉そうなことを言ったところで、結局はゲームをするわけだから通るはずなんてないだろうと。
しかし通ってしまった訳だ。一応真面目に書いてある申請書と、校長の熱弁のおかげで「まあ、同好会くらいなら……」で許可されたらしい。貸し与えられた部室は、普段は誰も使わない、教室半分程度の広さの「相談室」とやらだ。近くにトイレと給水機があり、使わないはずなのに律儀にクーラーが付いている好条件の部屋である。これも校長パワーなんだろうか。
とりあえずこんな感じで俺達ゲーム同好会は発足した。
とまあ1話目に相応しい回想に耽っていると、会員ナンバー2の鷹尾が俺の肩を後ろからバーンしてきた。
「何してんだよ。さっさとゲーム始めっぞ。今回のはお前が持って来たんだからさ、お前が仕切らなくてどーすんだよ」
「悪い悪い。でもまあ準備は万端だ」
そういって俺は鞄から次世代携帯ゲーム機PZPを取り出す。
こいつは広範囲の通信機能に、フレンド機能とチャット機能。それに優良作が多い事で現在ノリにノっているハード機である。
向かいの椅子では既に、普段は無口な山田が準備を終えてゴーサインを出している。
俺はソフト入れから今回のお題を取り出した。同好会として活動し、来年に部として申請するために毎回ゲームをお題として全員でクリアし、そして報告書というか感想文というかそんなのをまとめて職員室に提出している。
ただでさえゲームなんて言うサブカルチャーを掲げているのだから、そのくらいの誠実さは見せないと潰されかねないからだ。
そして今回のお題は、
「『デソイ・トラバイル』……始めますか」
フランス語で自分の仕事と言う意味らしい単語を組み合わせて適当にローマ字読みしたらそれっぽくなったと言う逸話を持つ良作の一つである。
自分の仕事とあるように、キャラメイキングの自由度が凄く高いのが特徴だ。ストーリは簡単明瞭で、主人公が魔王を倒す。ただそれに尽きる。しかしそこへ到達するまでのプロセスがミソで、決まったルートが無いのだ。一応は時間のリミットが有って、それをオーバーすると魔王が世界を支配して物価が高くなったりモンスターが強くなったりするが、ゲームオーバーにはならず地道にレジスタンス活動を続ける事が出来る。超低レベルクリアも可能だし、ひたすら魔王の圧政に耐えて力を付けた魔王と戦ってもいい。言ってしまえば、判断力と行動力が全てのゲームだ。
ソロモードではこの時間縛りがあり、マルチモードでは最初から魔王に支配されている状況から始まる。ソロで鍛えたキャラはマルチで使え、マルチで得たアイテムは当然ソロモードでも使用可能だ。そしてマルチで魔王を倒せばストーリーもクリアとなる。そういう自由度が当たり、ユーザー数がどんどん増えている注目のゲームである。
「んじゃ、前に言った通りLv10まで上げてるよな」
ゲームを楽しむためにはある程度の強さとゲーム性の理解が必要だ。そのために先にソロでLv10まで上げておいてくれと前もって頼んである。
「当ったり前だろ。いいからさっさと始めようぜ」
「問題ない」
さすが心強い仲間たちだ。パーティー構成は俺が攻守ともに行けるマジシャンで、鷹尾が攻撃・クリティカルの高いガンナー。そして山田はいやらしい攻撃の多い盗賊だ。皆直感で選んだため仕方ないのだが、見事に前衛職が居ない。盗賊を前に置くことも出来るが、やっぱり本職でなく遊撃の面が強い盗賊では防御力に不安が残る。
とはいっても、選んで育てたものは仕方ないので無い物ねだりは諦める。
「おーし。それじゃあ始めるぜ。俺が部屋立てて、一応パスワードは****な」
「おっけー」
「承知」
俺の立てたヒロヤ部屋に、二人が入ってくるのはもう数瞬先の事だろう。
一話目なので説明やらがほとんどで読みにくいかもしれませんが、続く2人のノリがとても良いので期待していてください。