お枝探し
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
先輩は「お枝探し」て、ご存じですか?
え? お部屋探し?
違います違います、「お枝」ですよ。まあ、家屋の空間を使うという点は部屋と共通していますか。
あ、もしかしてご存じない感じです? ならちょうどよかった、先輩は常日頃ネタに飢えていると思っていたので。ここで提供できるなら好都合です。
枝というと、私たちはいろいろな形を想像すると思います。好きなように曲がりくねっていたり、あるいは特定の意図をもってその育ち具合を調整されていたり。
彼らはそのときどきの状態や要請にあわせて、形を変えていきます。生き残るためにはおかしくない行動なのですが、人間などはたとえ不適切で非合理的でも、やり方を曲げない選択をすることもありますね。
それが手の焼ける部分であり、面白さともいえる伸びしろでもあるのですが、賛否が分かれるのは仕方のないところ。その点、思うがままに育てることができるものに、興味を惹かれるところがあるのかもしれませんが……。
おっと、お枝探しの話でしたね。これはとある植物の枝について、どうにか人に都合のよいものにしようとする、手段のひとつらしいのですよ。
母は何度か、このお枝探しを行ったことがあると話していました。
まだ実家にいた幼いころ。確かはじめは小学校にあがるより前のことじゃなかったかな、とのことでした。
ある休日に、母は珍しく祖母に連れられて外へ出たそうです。たいてい、お出かけのときは祖父に誘われるので、珍しいなと思ったとか。
これまでのお出かけは、長く屋外を散歩するものでした。人生経験的にはじめて見る景色ばかりで新鮮です。山の上から自分の住んでいるところ一帯を見下ろす体験は、幼心に染み渡るものがあったとか。
対する祖母は、屋内移動がほとんど。
当時の家を出て5分ほど。町内にある公民館の脇にある小屋へ連れていかれました。これまで横を通ることは何度もありましたが、中は見たことがなかった母です。
表向きに掲げられた看板には、〇〇地区防災用具倉庫。災害が起こらないよう、あるいは起こってしまったときに被害をおさえられるよう、用意されている道具たちと意味を聞きました。
その通りのものがあるのだろうと、子供の母は疑っていなかったのです。
祖母は上着のポケットから小さい鍵を取り出すと、曇りガラスの鍵穴へ差し込み、ぐいっと回しました。
中は両側の壁こそ、想像していたような用具をそなえた棚に占領されていました。それとは対照的にわずかなほこりも落ちていない床の先には、収納を思わせる取っ手がついていたとか。
それを持ち上げる祖母は、取り付けられた階下へのはしごに足をかけ、母にもついてくるよう促してきます。てっきり、表におさまりきらなかったり、すぐには出番がないものをしまっておいたりするためのスペースで、構造自体はこの地上と大きく違わないだろう……と母は考えていました。
ところが、想像よりも長いはしごを降りていくうちに、空気はどんどんと冷え込んでいき、ようやく降り立ったところは石の感触。周囲もまた凹凸に富んだ岩壁に囲まれ、ところどころが穿たれた通路となっている、迷路が広がっていました。
「そろそろ、あんたにも『お枝探し』を教えておかなきゃいけない。この迷路の中から『お枝』を探すんだよ」
「でも、じめんのしたにあるなら、『ねっこ』じゃないの?」
「おりこうさんだね、よく勉強している。確かに普通の植物ならそうだろうさ。でも、ここにあるのは枝なのさ。根っこのように栄養を吸い上げるためにあるんじゃなくて、実をつけるために伸びたものさね」
地下にはところどころ、裸電球が吊るされていて、地下にしては視界がよく確保できるレベルでしたが、祖母は念のため母に懐中電灯を握らせ、自らも構えながら地下迷路を練り歩きます。
初回ということもあり、迷路の構造を覚えてもらうことが肝要だったみたいですね。行き止まりになっているところへもあえて足を運び、二人して奥部を目指していきます。
そうしていくうちに、母は祖母のいっている「お枝」を見つけることができました。陽がほとんど当たらない環境ゆえか、色は白や灰色が中心。壁に張り付くことなく、奥からこちらへかけて中空に伸びるそれは、気を抜いているとつっつかれそうな指先にも思えたとか。
お枝探しは枝そのものを見つけるのも大事ですが、そこに成っている実を確認することも求められます。
実の大きさは、大きくてもせいぜいピンポン玉くらい。赤色の実が成っていたなら、その場でプチンとつぶします。青色の実であったなら、いったん回収して地上に出てからプチンとつぶします。
理由は分かりませんが、この対処をあべこべにしてしまうと悪臭をはじめとするトラブルが引き起こされるとのことで、注意が求められます。
実は放っておけばどんどん育って、やがては落果するなどして潰れます。このとき青のものが地下で破裂する事態になると、面倒なわけですね。
迷路について一通り回り、最奥も目にした母ですが、そこに立つ木は枝からも容易に想像できるような、真っ白な大樹だったようです。
地下でそびえるその姿は、周りを囲う電球たちの明かりをもってしても、てっぺんが満足に確認できないほどの高さだったといいます。地上だったら、どれほどの位置にあるのかは母にはいまいち把握できなかったとのことですが、その点はあまり重要視されなかったとか。
この仕事、女しかかかわることができないらしく、ローテーションで進めていたそうなのですが、母も仕事中に一度だけヘマをしてしまいました。
地上でつぶすべき青色の実。そのひとつをうっかり床へ落とし、割ってしまったのです。
とたん、地下にいても伝わる地上からの振動。急いで引き返したところ、公民館の一角が崩壊していたそうなんです。
屋根も壁も一緒くたになって、内側へ引き込まれたような様子で。人がいなかったのが幸いだと話されていました。




