夫ガチャに失敗したので壊れたふりをしたら、なぜか時代の寵児になりました
私ことシンクレア伯爵令嬢アイリスは、父の決めたハミルトン男爵フィリップ様と結婚した。
困窮した名門と、金はあるが血統のない新興貴族。利害一致の政略結婚だ。
政略結婚にはアタリハズレがあるが、「これはハズレのほうだ」と悟ったのは、結婚式を終えて男爵家のタウンハウスに戻ったときだった。
屋敷を取り仕切っていたのは、フィリップ様の愛人キンバリーだったのだから。
「結婚はしたが、君を愛するつもりはない」という決まり文句すらなく、こぎれいな一人用の寝室に案内される。
「旦那様と夜を過ごしていただくのは、奥様が十八歳の誕生日を迎えられてからとなります」
「…わかりました」
部屋は整っていてクローゼットにも皺ひとつない色とりどりの服が並んでいる。「使用人扱い」みたいなことはされないようだが、みじめなことに変わりはない。
「…お母様もこんな気持ちだったのかしら」
父には結婚前から愛する女性がいたが、身分の関係で母と結婚した。そしてどう努力しても愛されないことに絶望した母は正気を手放した。
「自分も母のようになってしまうのでは」という予感にぶるっと体が震えたとき、執事がまた口を開く。
「来月、王妃様主催の舞踏会にご夫婦で出席していただきます。キンバリー様がくださった予算内で、衣装や宝石を揃えてください」
もともとのフィリップ様では参加できないような格式の高い舞踏会。名門伯爵家出身の私を妻に迎えたことで、参加を許されたのだろう。
つまり私はすでにフィリップ様に貢献していると言える。なのに愛人の差配の下で暮らせとは…
夫の愛を求める気持ちがすっかり失せたとしても、ずっとここで暮らしていたら、いつか母のように壊れてしまう。
だが愛人を追い出せと訴えたとて、フィリップ様とキンバリーの様子を見る限りとても無理。
離婚もできない。実家への援助が止まる。
「詰み…」
家族では扱いきれなくなり、喚き散らしながら別邸に移された母の姿が蘇る。
このままここにいたら、母と同じ運命…
――いや待て。
それがむしろ最適解なのでは。
本当に壊れる前に、壊れたふりをして「扱いきれない妻」になればいい。
壊れた理由が不倫なら、フィリップ様は強く出られない。離婚は避けつつ、タウンハウスは出て、領地の本邸かどこかで暮らせるはず。
私はきゅっと唇を引き結び、執事に指示を出す。
「早速明日、仕立て屋を呼んでちょうだい。デザイン性の高いドレスを扱える人を」
やって来たマダム・マレーは私が書いたデザイン画を見て絶句したが、報酬額を聞いて「やります」と絞り出した。
二週間後、完成したドレスを受け取って私は満足げに頷く。
「最高よ」
◆
「お待たせいたしました」
階段を降りて、玄関で私を待っていたフィリップ様に声をかける。彼は振り返った瞬間に口をあんぐり開けて固まった。それなりに整っている顔が台無しだ。
しかしそれも仕方ない。
私が着ているのは、てかてかの紫とショッキングピンクを黄色で縁取った、目が痛くなるようなドレスなのだから。そして頭には髪でできた渦巻き貝が二つ。アクセサリーは宝石ですらなく、大きな安っぽいビーズをつなげた、私のハンドメイド。
「なんだそれは」
「最新流行のファッションです」
もちろん真っ赤な嘘。
「ピンク」というドレスコードは守っているものの、ひたすら異様。壊れたふりをするなら、見た目からわかりやすく壊れておくべきだから。
「一緒に入場したくない」
そうでしょうとも。私でも私の隣に立ちたくないし、知り合いだとも思われたくない。
けれどあなたは私と一緒でなければ、今日の舞踏会には出席すらできない。
だから私をエスコートして、存分に恥をかき、心おきなく私を領地送りにするがいい。私も恥をかくけれど、すぐ領地に飛ばされるのだから、かき捨てる所存。
会場に着くと、貴婦人たちは扇で口を隠しながら私を見る。
《悪趣味にもほどがあるわ》
思った通りの反応。
「最新流行ではなかったのか」
フィリップ様の顔色がますます悪くなり、私の口元はニヤつく。彼は私から腕を離そうとするけれど、離れてあげない。さあ、悪趣味な服を着てニヤニヤする妻を見せびらかしなさい。
音楽が止まり、人々の視線が一点に向かう。国王陛下ご夫妻のお成りだ。
「…?」
「………???」
なぜか、薄い薄いピンクに銀糸を織り込んだ上品極まりないドレスの裾を翻し、王妃様は私のほうへまっすぐ歩いてくる。
「ハミルトン男爵夫人アイリス!そのドレス、どこの仕立て屋のデザインなの!?」
ああ、王妃様直々にお叱りを受けるなんて。
「私がデザインしたものを、マダム・マレーが仕立てました」
これで領地送りは確実だ。頭を下げながら思わずニヤリとする。
「素晴らしいわ!!」
「……はい?」
その言葉が信じられなくて、思わず私は顔を上げる。
周囲の空気も固まっている。
王妃様だけが手を打ち鳴らして、一人で笑っていらっしゃる状態。
「最近はみんな同じような色と形のドレスばかりで、心底退屈していたのよ。でもあなたのドレスは、見る者の既成概念を払って目を覚まさせてくれるわ。そうまるで…春の嵐のような、情熱の爆発ね!」
王妃様は、目に涙まで浮かべ始めた。なんだこれは。
「わかるわ、あなたの孤独と勇気が。今まで私以外にあなたの内面を理解した者がいて?」
いるはずがない。だって孤独も勇気も存在しないのだから。
「…いいえ、王妃様」
「そうでしょうね。魂のレベルが低い人間にはわからないのよ」
違います、王妃様。彼らはまともなだけです。
けれど王妃様のお言葉で、会場の空気は完全に変わってしまった。「魂のレベルが低い人間」になりたくない人たちは、私のドレスと髪型を一斉にほめそやす。
「春の嵐、確かに…」
「あの配色は、見れば見るほど引き込まれますわ」
王妃様は、私の横で事態がどう転ぶのか見極めようとしているフィリップ様に向き直る。
「ハミルトン男爵、あなたも立派だわ。頭の固い男性なら、”こんな格好はするな””一緒に出歩くものか”と咎めそうなものを」
フィリップ様は必死に言葉を絞り出した。
「…妻の孤独と勇気を理解しようと努めております、王妃様」
「エクセレーント!!これほど思考が柔軟な方だとはね。国が抱えている問題についても柔軟な視点で意見をもらいたいわ」
「私でお役に立てるのでしたら」
私の壊れたふりが、フィリップ様悲願の「諮問機関入り」をあっさり叶えてしまった。
フィリップ様に恥をかかせて領地に送られるはずが、王宮のど真ん中で盛大に内助の功を発揮してしまっている。なぜ。
「来月私たち夫婦が主催する慈善市にも、ぜひ参加してちょうだいな」
「光栄です、王妃様」
笑顔を作りながら、私は心の中で頭を抱えた。
◆
なぜあの奇抜ドレスが絶賛されてしまったのか。
わかるはずもないけど、王妃様はほぼすべての主催イベントに私を呼び、毎回招待状に「今回も内面の爆発を期待しているわ」と書いてくる。
そしてスイカを模した丸いドレスだの、ドラゴンを模した鱗と獣骨のドレスだの、身体にサーモンの切り身を貼り付けるだの、凡庸な頭で何とか絞り出した馬鹿馬鹿しい恰好が「生命への礼讃」だとか「儚さの極み」だとかと、すべて絶賛されてしまう。
そうこうしている間にマダム・マレーのお店は大忙しになり、ビーズアクセサリーがとんでもない値段で売られ、メイドは「髪結い師のほうが稼げる」と言って独立した。
壊れないために、壊れたふりをしていたはずなのに…
こんな状況になってしまって、本当におかしくなりそうだ。
さらに悪いことに、フィリップ様は頼んでもいないのにキンバリーを追い出してしまった。
「キンバリーへの愛情も冷めてきたところだし、君のほうが利益を生むからな」
「だからってこんな急に…!」
「生活に困らないだけの金は渡してあるし、家も用意してやったから大丈夫だ」
「妻を守る理由は金だ」と隠そうともせず、愛人とはいえずっと自分を支えてきた女性をあっさり追い出すなんて。
「控えめに言って、クズでは?」
「言われなくてもわかってる。キンバリーは男を見る目がなかったな」
「最っ低…!」
「強い言葉を出すようになったな。情熱の爆発か」
「馬鹿にしないでください!」
愛人がいなくなったとて、愛のない結婚であることは変わりない。むしろもっとフィリップ様を嫌いになっている。
さらに愛人を理由に家を出る計画は、丸つぶれだ。
「いや、まだ目はある…」
私は計画を立て、国王ご夫妻主催の慈善市の日を迎える。
王都の大きな広場に、主だった貴族たちが集まって「不用品」という名の高級品を並べるイベントだ。
「なぜ今日は普通なんだ」とフィリップ様が私に囁いた。
「…計画があるのです」
あなたが一番大切にしている人脈の前で、あなたに大恥をかかせる計画がね。
「浮いているぞ」
フィリップ様の言葉通り、会場には「アイリス風」と銘打った極彩色の渦巻き貝やスイカが大量発生しているから、コンサバな私がかえって目立っている。
「アイリス、今日は…普通ね?」と王妃様も残念そうだ。
「ええ。これにも考えがございまして」
「あら、どんな?」
「お目にかけます」
私はチンチンチンとグラスを鳴らす。
視線が一斉に私に集まり、緊張で喉がつまる。
けれど、やるのだ。領地送りになるために。
「皆様!この慈悲の心を再確認するよき日に、広い心をもって、この哀れな女の訴えを聞いていただけないでしょうか」
「聞かせて、アイリス!」
「…ありがとうございます、王妃様」
私はふっと息を吐く。
「我が夫ハミルトン男爵フィリップは、結婚初日からタウンハウスに愛人を同居させました。そして結婚式を終えた私を、彼女に迎えさせたのです」
集まっていた貴族たちの顔色が変わり、フィリップ様に視線が集まる。
「彼は家に箔をつけるためだけに私を娶り、私を蔑ろにしながら、私の名を使ってファッションブランドまで立ち上げ、儲けようとしています。なんて強欲なのでしょう」
私はフィリップ様を睨みつける。彼はこの状況をどう切り抜けるか、必死に考えている。
さあ、妻に罵倒されて思う存分恥をかき、私を領地へと追放せよ。
「私は好色で強欲な夫に踏みつけられるのは、我慢できません!これ以上彼と一緒にいたくはありません…っ!」
心からの叫びが、広場にこだまする。
ただただ夫婦の醜聞を聞かされ、どう反応していいのか困っている貴族たち。
そこへ――
「素晴らしいわ!!」
高らかな声とともに、王妃様が拍手する。
「なんて率直で力強い内面の告白なのかしら!これこそアイリスよ!アイリスは完全に自身の魂を解放しているわ!」
王妃様の言葉に、周囲がざわめき始める。
「つまりこれが、生き方としてのアイリス…っ!!」
「外見はいたって普通なのに、内面では激情が渦巻き噴出する…それこそが本物のアイリスなのね…!」
「今日のアイリス様が普通でつまらない、なんて思ってしまった自分が恥ずかしい…っ」
違う、そういうことじゃない。取り上げてほしいのはそこじゃない。
フィリップ様の恥はどこへいったのよ…!
フィリップ様が私のもとにずいっと寄り、「抑圧と化していた自分に恥じ入っている。償いとして、君の精神の解放から溢れる炎で私を焼き尽くしてくれないか」とか、堂々とわけのわからないことを言う。
「意味わかって言ってます?それっぽい単語をそれっぽく並べただけでは?」
「その通り。だが見ろ」
「な…っ!?」
ギャラリーは私たちに憧れの眼差しを向け、拍手を送っている。
「ハミルトン男爵…!自分が抑圧そのものだったと認めるなんて、なんて潔いのかしら…!」
「誰でも過ちはあるもの。認めることが大切よね」
「しかもアイリス様の炎で焼き尽くされたいだなんて、ロマンチック…!!」
そして王妃様が泣きながら、私の両手を握る。
「アイリス、おおアイリス…!!あなたはもう、ただのファッションアイコンではないわ。激情を解放する新しい女性の精神そのものよ」
何をおっしゃっているのかわからないけれど、絶対違う。
この状況もすべて意味がわからないけれど、これだけはわかる。
――私は領地送りにはなれない。
◆
クズ野郎だと暴露されたフィリップ様は悪びれもせず事実を認め、私に跪いて許しを請い、なぜか「潔い」と評価を上げてしまった。
その結果…私はまだフィリップ様と一緒に暮らしている。
「ここだ」という声とともに、馬車が止まる。
今日はフィリップ様が立ち上げたファッションブランド「アイリス・オーセンティック」のオープニングイベントだ。
来たくなんてなかったけど、王妃様に「私も行くわ!」と言われてしまって、来るしかなかった。
立ち上がろうとしたとき、フィリップ様に腕を掴まれる。
「何ですか?放してください」
「いや、待て。何かおかしい」
次の瞬間、馬車が派手に壊れた。
「きゃあああっ!?」
馬車の床が抜け、私はフィリップ様に抱き抱えられた状態で転げ落ちる。怖すぎて声も出ないし、痛みも感じない。
「痛みはないか?立てそうか?」
嫌いなはずのフィリップ様なのに、今だけはいてくれて本当によかった。
無言でこくこく頷いてなんとか立ち上がるけれど、ドレスは泥まみれで破け、髪はボサボサ。ひどい状態だ。
けれど、馬車寄せにいた人々の反応は、まったく予想外のものだった。
「さすがアイリス様!なんて革新的な登場かしら!」
「破壊と滅びのエレガンスね!」
呆然とする私の目の前で、王妃様が涙を流しながら手を叩いておられる。
「砂とボロ布を貴婦人の衣装にしてしまうなんて、誰も思いつかない。やはりあなたは天才…!」
いや、普通に事故です。馬車が急に全壊とかありえないけど、コンセプトじゃなく事故なんです。
盛り上がる外野についていけない私の肩を、誰かが叩く。
「アイリス様、なんでこれでも死なないの…?」
振り返ると…
「キンバリー…っ!?」
「死んでっ…!」
ナイフを、私にむかって振り上げる。
彼女の目の中に、母と同じ狂気を見て、私は悟る。彼女は壊れてしまったんだ。私の壊れたふりが、彼女を壊してしまった。
ごめんなさい、キンバリー。
私はぎゅっと目を閉じるけれど、衝撃も痛みも来ない。
怖々と目を開けると、自分の前に温かい壁があって、その壁が守ってくれていた。
「え…フィリップ様…?」
「アイリス、無事か?」
「…はい」
キンバリーの口から「なんで」と低い声が落ちる。
「なんで!なんでイカレ女を庇うの!私だけを愛してるって言ってたじゃない!最低!フィリップの嘘つきっ!!」
暴力には反対だし殺されたくもないけど、キンバリーの気持ちには完全に同意できる。
キンバリーは怒りに任せてフィリップ様の背中に短剣を何回も叩きつけるけど、刺さらない。
「なんでよ、なんで刺さらないのよ!!」
本当になぜ。
「アイリス・オーセンティックのドラゴンシリーズのベストを中に着ているんだ。鱗でできているから武器から守ってくれるようだな」
「は…はあ…よかったですね…?」
治安部隊が彼女を取り押さえ、取材に来ていた記者が「攻撃されることで完成する…まさに“死と再生の象徴”のドラゴンシリーズだな」とか「そしてアイリスは”壊れた美の革命”という新たな境地へ…」とか呟きながらペンを走らせる。
「また服が売れるぞ」
「…いい加減にしてくださいっ!」
なんなんだ、本当に。
◆
フィリップ様の予言通りに、ドラゴンっぽいベストとスタボロに破かれたドレスは爆発的に売れた。
その利益は、私にも配分される。実家を立て直せそうなくらいの、莫大な利益が。
「こういうところはきっちりしてますね」
「商売人だからな」
そうだ、彼は…合理的で、打算的で、お金が第一。
だったら…この一手。
「フィリップ様。離婚してくださいませんか」
「理由は?」
「私はフィリップ様のことがどうしても好きになれません」
不思議なくらい、本音がはっきり言えた。
「そんな夫婦はいくらでもいる」
「だけど好きでもないフィリップ様のために、”アイリス”を演じ続ける人生なんて、嫌なんです。このまま続けていたら私は壊れます。本当に壊れたら、時代の寵児アイリスは終わりですよ」
彼は少しだけ目を細めた。計算している。
「それに考えてみてください。”夫に愛想をつかして自分から離婚したアイリス”って、どう評価されると思います?」
フィリップ様は、顎に手を当てた。
「”強欲で好色な夫に負けない女”とか、”夫の支配から解放された新時代の女”とか、”愛人を追い出し愛人に襲われ、それでも進み続ける女”とか…」
「そうか。君は”妻”より”離婚した女”のほうが売れるな」
やっぱりこの人はこういう人だ。自分の離婚なのに、まるで他人事のように損得勘定ができる。
ぶれない姿に、もはや安心感すら覚える。
「離婚の書類を用意しよう」
「ありがとうございます」
◆
数週間後。私は正式に離婚し、フィリップ様がもたせてくれたお金とともにシンクレア伯爵家へ戻った。
「ふう…」
住み慣れた田舎と、自分らしい落ち着いたドレス。伯爵邸のみんなは元の私を知っているから、誰も奇抜さなど求めてこない。
その生活に、心からほっとする。
私は、母のように壊れずに済んだのだ。
もっとも、世間の「アイリス風に感化されていないまともな人」から見たら、十分壊れているのだろうけど。
元夫はアイリス・オーセンティックの利益を継続的に配分してくれ、ときどきはコンセプトについて相談をしに伯爵邸までやって来る。
今もクズだと思っているけれど、だからなのか、唯一と言っていいくらいに本音で話せる相手でもある。
「今は混じりけのない黒一色のドレスが売れてる」
「どうしてですか?」
「束縛と常識から解き放たれた、自由の象徴だそうだ。私にはまったく理解できないが、王妃様がすべてに意味を見出してくれるので助かる」
「ああ…その感じ、よくわかります」
「本当に頭がおかしいのは王妃様だろ?」
「そんなこと…誰かに聞かれたら死にますよ」
それから、気になっていることがひとつ。
「キンバリーは牢から出られたのですよね?」
「ああ。俺がクズってことは知れ渡ってるから、情状酌量されてな。君の嘆願書も効果があったよ」
「彼女がああなったのは、私のせいでもあるので…」
「いや、俺のせいだ。君が責任を感じることはない」
フィリップ様は「では」と立ち上がって、ちょっと目を細めた。
「再婚するときは教えてくれ。相手がクズじゃないか、見極めてやる」
「説得力がありますね」
ほんの少しだけ、笑い合う。
もう夫婦ではないし、夫婦だったことにいい思い出すらないのに…こんなの、変な関係だと思う。
でも――今となっては悪くない。




