■ 第六話 「鍛錬に終わりはない」
(▭-▭)φカタカタ:そろそろ誕生日にしてあげようか。
歩けるようになってから、環境の見え方が変わった。
視点が上がる。それだけで情報量が増える。
床しか見えなかった世界に、家具の輪郭や配置、人の動きが入ってくる。
距離感も掴めるようになり、空間そのものを理解できるようになった。
同時に、内側の制御も安定している。
丹田に霊力を集める。練る。巡らせる。
この流れはもはや意識の一部になっていた。
歩行中でも、視線を動かしていても、乱れない。
むしろ、動きながらの方が分かることもある。
負荷。 身体を動かすことで、霊力の流れに微細なズレが生じる。
そのズレを修正する過程で、巡りの精度が上がる。
静止状態よりも、動きの中の方が調整しやすい。
試しに、少しだけ出力を上げる。 巡りを速める。
密度を上げる。身体へ流す量を増やす。 踏み出す。
軽い。 明らかに軽い。 次の一歩。 床を蹴る力が増している。
だが制御は問題ない。
そのまま、少しだけ速く動く。 音が変わる。足音が軽くなる。動きが速くなる。
……これは。 普通に走れている。
少し、やりすぎたかもしれない。 止まる。 バランスは崩れない。
呼吸も問題ない。霊力の流れも安定している。
だが。
「ちょ、ちょっと待って」
後ろから声。 振り返る。 女がこちらを見ている。
完全に目で追っていたらしい。
「今、走ってた?」
確認。 理解が追いついていない顔。
「……いや、さすがにそれは」
男が口を挟む。 だが、その言葉も途中で止まる。
俺はもう一度、軽く踏み出す。 速く。 一瞬だけ加速して、すぐに止まる。
見せるつもりはなかったが、まあいい。 沈黙。
「……」
「……」
「……走ってるわね」
結論。 否定できなかったらしい。
男は少しだけ視線を逸らし、考えるような間を置いてから、
「……筋がいいんだろう」
そう言った。 雑だが、前と同じ処理だ。
理解ではなく、納得できる形に無理やり落とし込む。
「筋ってレベルじゃないと思うんだけど……」
女は納得していない。 当然だ。 だがそれでも、強く否定はしない。
これまでの積み重ねがある。 違和感はあっても、否定しきれない。
それが今の状態だ。
「……まあ、元気ならいいけど」
最終的に、そこに落ち着く。 結局それだ。 問題がなければ許容する。 合理的だ。⋯⋯達観とも言う。
内側へ意識を戻す。 霊力は安定している。消費はあるが、回復が追いつく範囲だ。
むしろ、動かした方が循環が良くなる。 走る。 止まる。 方向を変える。
そのすべてで、流れを維持する。
問題ない。 むしろ、精度が上がる。
……使い方としては、間違っていない。
そのときだった。 視界の端。 ほんのわずかだが、違和感が走る。
空気の揺らぎ。 以前見たものと同じ。
黒いモヤ。 壁際、天井の隅。 薄い。 前よりも、ずっと薄い。
だが、ある。 視線を向ける。 向けた瞬間、わずかに形が揺れる。 反応した。
……なるほど。 前と同じなら、放っておけば消える。
だが。 今は、少し違う。 出せるようになっている。
霊力を。 丹田に意識を落とす。 集める。練る。圧をかける。
そして、喉へ。 流す。 ぴゅっ。 出た。 細い。 弱い。
だが、届く。 黒いモヤに触れる。 一瞬。
ほんの一瞬だけ、その形が揺れる。 消えない。 だが、反応はある。
――届いている。 それだけで十分だ。 もう一度。
流す。 ぴゅっ。 触れる。 揺れる。 だが、やはり消えない。
足りない。 単純に、量も質も。 だが。 無意味ではない。
干渉できる。 それが分かった。 そのときだった。
「……なんか、寒くない?」
女の声。 わずかに腕をさする。
「気のせいだろ」
男が返す。 だが、その視線は少しだけ周囲を探っている。
どうやら俺のほうが察知能力が高いらしい。――ふっ。
完全に気づいていないわけではない。 ただ、確信が持てないだけだ。
黒いモヤは、まだそこにある。 薄いまま。 揺れている。 消えない。
なら。 今は、いい。 無理にやる必要はない。 内側へ戻す。
霊力を収める。 流れを整える。 静かに、元の状態へ戻る。
黒いモヤは、しばらくその場に留まっていたが、やがてゆっくりと薄くなり、消えた。
何もなかったかのように。
両親のように感知できなかったら怖い。――なにかされるわけでわないが。
……だが。
見えている。 触れられる。 それだけで、十分だ。
積み上てく。 今はそれだけでいい。
やることは変わらない。
丹田に意識を落とす。霊力は静かに巡り、乱れもない。
練りも崩れない。外へ出す感覚も、まだ不完全だが確かに残っている。
内側は整った。
外は、これからだ。
無理に進める必要はない。積み上げればいい。少しずつ、確実に。
その繰り返しで、ここまで来た。なら、この先も同じだ。
身体を動かし、巡らせ、整え、練る。ただそれを、続けるだけ。
気づけば、それが当たり前になっていた。
時間の感覚は曖昧だが、日は確実に過ぎていく。
視界は広がり、身体は育ち、霊力もまた、少しずつだが積み上がっていく。
時計の針が止まることはない。
何も起きない日も、無駄ではない。
すべてが、そのまま力になる。
――そして。
気づけば、一年が過ぎていた。
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