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第6話 監視者は警告する

 最初に異変に気づいたのは、エイルだった。

 いつものように、部屋の隅で無言のまま魔導書を読んでいた彼女が、ふと顔を上げた。


「……来る」

「なにが?」


 俺が聞き返すより早く、空気が変わった。

 耳鳴りのような圧。

 見えない膜が、家全体を内側から撫でられた感覚。

 次の瞬間——

 バチン、と乾いた音がして、リビングの中央に“裂け目”が走った。


「うわっ!?」


 反射的に後ずさる。

 だが、それは亀裂ではなく、展開された何かだった。

 歪んだ空間が折り畳まれるように収束し、そこから一人の少女が現れる。

 無音の着地。

 ——そして、あまりにも場違いな格好。

 上は、明らかにサイズの合っていない白い男物のワイシャツ。

 裾は太腿の半ばまで垂れ、ボタンはきっちり留められているが、布の張り方が逆に体のラインを強調している。

 下は黒のミニスカート。短い。実用性よりも、割り切りを感じる長さだ。

 胸元の主張は、誰の目にも明らかだった。


「……誰?」


 澪が小さく呟く。

 少女は無表情のまま、室内を一巡した。

 レイナを見る。

 セラフィナを見る。

 エイルを見る。

 そして、俺を見る。


「——確認完了」


 淡々とした声。


「この建物、及び居住者に対し、結界異常を宣告する」


 言い切りだった。


「自己紹介は?」


 レイナが軽く手を挙げる。


「カナデ」


 少女は短く答える。


「属性、結界管理者。兼、監視役」

「……監視?」


 嫌な単語が出た。


「結界の歪み、重なり、干渉。通常、同一地点に三系統以上が存在することはない」


 カナデは床を一度、靴先で叩く。


「だが、この家には——」


 指を折る。


「霊界通路。

 異世界転移痕。

 自然精霊圏。

 魔力回復領域。

 加えて、未分類の観測不能域」


 最後に、俺を見る。


「——原因」

「え、俺?」

「可能性が高い」

「なんで!?」

「不明」


 即答だった。


「ただし、全ての結界が、ここに“集結している”」


 空気が、少しだけ重くなる。


「結論」


 カナデははっきりと言った。


「この家は、危険」

「だよねぇ」


 澪が乾いた笑いを漏らす。


「じゃあ、出て行った方が?」


 俺がそう言うと、カナデは一瞬だけ考える素振りを見せた。

 そして。


「否」

「否!?」

「監視対象を放置するのは職務違反」


 彼女はリビングを見渡し、頷く。


「それに——」


 ノートPCを取り出した。

 どこから? という疑問は、もう湧かない。


「魔力ノイズが少ない。結界が安定している時間帯は、通信も良好」


 PCを開き、起動。


「……リモートワークに最適」

「住む気!?」

「当面」


 即決だった。


「この家、どんどんヤバい人が増えてない?」


 澪のツッコミに、誰も反論しない。

 カナデは壁際に座り、淡々とキーボードを打ち始める。


「警告はした」

「それで?」

「それでも居住を継続するなら、監視と最低限の調整を行う」

「つまり……」

「あなた達は自由。ただし、何か起きたら、私が記録する」


 無表情のまま、カナデは言った。

 その視線は冷静で、感情がない。

 だが、なぜか——

 この家で一番“信頼できる”存在に見えてしまうのが、皮肉だった。

 俺は天井を見上げる。

 霊。

 エルフ。

 異世界人。

 一般人。

 監視者。

 全員が、この家に集まっている。


「……本当に、何なんだよ。この家」


 誰も答えなかった。

 だが、カナデの指だけが、静かにキーボードを叩き続けていた。

 ——まるで、

 何かが起きるのを、最初から待っているかのように。


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