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第12話:澪との放課後

 チャイムが鳴った。

 いつもより少しだけ長く感じる午後の終わり。

 教室に残るのは、帰り支度の音と、雑談と、椅子を引く音。


「……お疲れ」


 隣の席から、渚 澪が声をかけてきた。


「お疲れ」


 それだけのやり取り。

 特別なことは何もない。

 だが、それが妙に心地よかった。


「今日、帰り一緒?」

「いいけど」


 責める口調ではない。

 ただの事実を、淡々と述べる声音。


「……色々あって」

「知ってる」


 即答だった。


「家、行ったし」


 ああ、そうだった。

 あの日、全部見られた。

 霊界案内人も、エルフも、異世界少女も。

 それでも、澪はこうして隣を歩いている。


「正直さ」


 彼女は前を見たまま言った。


「最初は、夢かと思った」

「だろうな」

「でも、あれは夢じゃない顔してた」

 少しだけ、笑う。

「……あなたも、あの子たちも」

 コンビニに寄って、飲み物を買う。

 並んで歩きながら、他愛もない話をする。

「ゼミの教授、また変な課題出してたね」

「レポート地獄」

「卒業させる気あるのかな」


 普通の会話。

 異界も、霊も、魔法も出てこない。

 ただ、それが逆に――重かった。

 沈黙が少し続いたあと、澪が言った。


「……あのさ」

「ん?」

「告白した相手のこと」


 心臓が、少しだけ跳ねた。


「……まだ、引きずってる?」


 歩きながら、足を止めずに。

 逃げ場のない質問。


「……少し」


 正直に答えた。


「完全には、無理だろ」

「うん」


 澪は頷いた。


「でも、前よりは……顔、マシ」

「それ、褒めてる?」

「褒めてる」


 即答。

 しばらく歩いて、澪が続ける。


「……振られた理由、聞いた?」

「聞いてない」

「聞かないの?」

「怖い」

 澪は、少しだけ視線を落とした。

「……それ、普通だよ」


 その一言が、妙に胸に刺さる。


「無理に立ち直らなくていいし、

 忘れようとしなくてもいい」

 夕焼けが、彼女の横顔を染める。

「……ちゃんと傷ついたってことだから」

 慰めじゃない。

 励ましでもない。

 ただ、肯定だった。

 別れ道の前で、足を止める。

「……今日は、ありがとな」

「何が?」

「普通で」


 澪は、少しだけ驚いた顔をしてから、笑った。


「変なの」


 そして、真剣な声で。


「でもさ」

 こちらを見る。


「普通って、意外と大事」


 一歩、近づく。

 距離は、近い。

 だが、越えない。


「……もし」

 澪は言葉を選ぶ。


「全部が落ち着いたら」


 間。

「また、ちゃんと前向けたら」

 夕風が吹く。


「……その時に、考えればいい」

 それ以上は言わない。

 期待も、約束もない。

 でも――

 それが、一番現実的で、

 一番優しかった。


「じゃ、また明日」

「また」


 背中を見送りながら、思う。

 異界の少女たちは、非日常だ。

 癒しで、刺激で、逃げ場。

 でも。

 渚 澪は、現実だ。

 ここに戻る場所。

 だからこそ――

 一番、近い。

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