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第9話 霊界案内人と夜の街

 夜の街は、昼とはまるで別の顔をしている。

 ネオンの光が滲み、人気の少ない路地には妙な静けさが漂っていた。

 そんな中、俺はレイナと並んで歩いていた。


「……本当に、ここなのか?」

「うん。反応、強いよ」


 レイナはいつも通り、露出の多い服装で平然としている。

 だが、その表情はどこか仕事モードだった。

 辿り着いたのは、いわゆる心霊スポット。

 古い病院跡地。今は立ち入り禁止になっている場所だ。


「肝試しとかじゃないよね?」

「違う違う。今日はちゃんと“案内”」


 軽い口調だが、足取りは迷いがない。

 建物に入った瞬間、空気が変わった。

 ひんやりとした気配。

 誰かに見られているような感覚。


「……いるな」

「うん。子供の霊」


 レイナが声を落とす。

 廊下の奥、薄暗い一室。

 そこに、小さな影が座り込んでいた。


「……おかあさん」


 か細い声。

 レイナは、しゃがみ込んで優しく話しかける。


「迎えに来たよ。霊界に行こう」


 だが、子供は首を振った。


「いやだ……おかあさんに、会ってない」


 その言葉に、レイナは一瞬、黙った。


「……まだ、会えてないんだね」

「うん。ずっと、待ってる」


 レイナは立ち上がり、静かに目を閉じた。

 霊の情報を読み取っているのだと、直感で分かった。


「……この子、三百年くらい前の子だ」

「三百年!?」

「当時、流行り病で亡くなってる。

 まだ幼くて……名前も記録に残ってない」


 胸が、きゅっと締め付けられた。


「じゃあ……母親は?」

「……霊界に来てない」


 レイナの声が、少しだけ低くなる。


「きっと、自分を責めたまま、成仏できなかったんだろうね」

 レイナは、方向を変えた。


「探そう。母親の方を」

「え、そんなことできるのか?」

「未練が強い魂同士は、引き合うんだよ」


 しばらく歩くと、空気が歪んだ。

 今度は、大人の女性の霊。

 俯き、泣き続けている。


「……ごめんなさい」


 その瞬間、子供の霊が顔を上げた。


「……おかあさん?」


 次の瞬間、二つの影が引き寄せられるように近づく。


「……会いたかった」

「ごめんね……ごめんね……」


 言葉は少なかった。

 だが、それだけで十分だった。

 二人の霊は、重なり合い、淡い光に包まれていく。


「……行こうか」


 レイナが静かに告げる。

 光は夜空へと昇り、やがて消えた。

 しばらく、言葉が出なかった。

 レイナは空を見上げ、ぽつりと呟く。


「未練があると、魂は成仏できないんだ」


 視線は前を向いたまま。


「だから私たちが、こうして手伝うこともある」


 その言葉が、胸に刺さった。


 ――未練。

 数ヶ月前のことが、自然と思い出される。

 告白して、振られた日。

 笑ってごまかしたけど、心の奥に残ったもの。

(……未練は、まだ少しある)

 レイナは、俺の表情を見て、何も言わなかった。

 ただ、歩調を合わせてくれた。


「……今日は、ありがとうな」

「ううん。付き合ってくれて、ありがとう」


 夜の街を並んで歩く。

 派手な露出の霊界案内人と、冴えない元引きこもり。

 不釣り合いな二人だが、

 この夜だけは、不思議と静かで、優しかった。

 ――未練は、すぐには消えない。

 でも、いつか。

 成仏できる日が来るのかもしれない。

 そう思えた夜だった。


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