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「よくある話」と言われたけれど <連載版>  作者: りすこ


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第八章 御礼カード ②

 次の休日。私はマーサに頼んで、ジンジャーブレッド・マンの作り方を教わっていた。


 フィンさんに送る菓子をあれこれ考えたけれど、日持ちして、クリスマスらしい愛嬌のあるお人形のかたちのクッキーがいいだろう。

 

 彼は素朴な味が好きだし、せっかくだから自分で作りたい。

 彼のお母様の味にはならないかもしれないが、マーサもお菓子作りが上手だ。

 マーサの味を気に入ってくれていたし、きっと喜んでくれると思う。

 それをマーサに話すと、とっても張り切ってくれて、今はちょうど、ジンジャークッキー・マンが焼けたところ。

 しっかりパリッと香ばしく焼けている。


「お嬢様、チョコでお顔を書きましょう。にっこり笑顔にしたら、もっと可愛らしいんじゃないでしょうか」

「いいわね」

 

 顔を描いたら、フィンさんもなごみそうだ。


「では、お嬢様。どうぞこちらを」

 

 マーサは溶かしたチョコレートと、かき混ぜ棒を私に手渡した。


「お嬢様が描いてくださいまし」

「う、うん」

 

 私は棒を手にして、ジンジャークッキー・マンを手に取った。

 顔を描くわよ。にっこり顔。笑っている顔よ。

 

 指を震わせながら、真剣に目と口を描いていく。

 五枚のジンジャークッキー・マンはそれぞれちょっと違う、にっこり顔になってしまった。

 チョコで黒いスーツを描いたから、どことなくフィンさんに似ている。

 照れくさくなりながらも、ジンジャークッキー・マンを箱詰めして、私は手紙をしたためた。


 

 ――フィンさんへ

 

 この前は寝てしまって申し訳ありません。

 来てくださって、ありがとうございます。

 ほんのお礼に、ジンジャークッキー・マンを贈ります。


         ――セリア・エバンス

 


 きれいな文字で書けた。

 満足しながら、カードに香水を焚きこませる。

 私が好きなスズランの香りだ。

 彼は、気づいてくれるだろうか。

 気づいてほしいような、見透かされたくないような。


 胸の高鳴りを感じながら私は手紙とジンジャークッキー・マンをフィンさんに送った。


 それから間もなく、フィンさんから返事のお手紙が届いた。

 手触りのよい封筒に包まれて、流麗な文字で私の名前が書かれてある。

 ドキドキしながらペーパーナイフで開けると、淡い黄色のカードが入っていた。

 真ん中にスズランのペーパーフラワーがあしらわれている。

 

「わあぁ……」

 

 私が犬ならば、しっぽを振っていたことだろう。

 カードからは仄かに香りがする。白檀だろうか。

 おだやかで深みある香りが、焚き込められている。

 フィンさんを思い出しながら、私はそっとカードをめくった。



 ――セリアさんへ


 お手紙をありがとうございます。

 ジンジャークッキー・マン、嬉しいです。

 食べるのが惜しくて、毎日、眺めています。


 これは、僕ですか?


       ――フィン・マッケンロー



 

 最後の一文を見て、頭に熱が上った。

 座っていた椅子から、転がり落ちそうになる。

 手紙を持つ手が小刻みに震えだし、心臓が爆発しそうなくらい高鳴っている。


「無意識にフィンさんに似せたって……当てられている……」

 

 秘めた思いを見透かされたようで、居ても立っても居られない。

 「そうです」と書いたら、私も感情まで伝えてしまうだろう。

 とはいえ「違います」と書くのもおかしい。

 私は部屋をうろうろしたあげく、椅子に座って頭を抱えた。


「な、なんて返事しよう……」

 

 散々悩んで、私は立ち上がった。


「とりあえず、またレターを買いに行こう。すべてはそれからよ」

 

 自分の気持ちに言い訳をしながら、私は再びデパートへと足を運んだ。

 いつくかのレターセットを買った。

 明星と同じ作者が作ったレターセットがあり、だんだんと昼に変わるシリーズだ。

 それもまたすてきだなと思い、レターセットを買って、家に戻った。

 文机を前に便箋をひらき、万年筆を持って、返事に悩む。


「……そうです……と書くもおかしいわよね……」

 

 彼は祖母を恩人として慕っている。

 私を助けたのも祖母への感謝があるから。

 そんな私が彼に仕事とは別の感情があると知られたら、彼の負担になってしまうかもしれない。

 優しい彼は、私を拒めない――。

 

 そう思うと、落ち込んだ。

 結局は、祖母という太陽がいるから、私という影が浮かび上がる。

 それでもいいとは思うけど、フィンさんにほんの少しだけでいいから、意識されたい。

 あれこれ悩んだ末に、短い手紙を出した。


 

 ――フィンさんへ

 

    似ていませんか?


        ――セリア・エバンス


 

 短すぎて、自分でもどうかと思った。

 でもそれ以上、何も書けなくて切手を貼り、郵便ポストに手紙を投函した。

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