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97.私のすべき事


 目が覚めてから気づいた。

 私の周りはガラリと変わっていた。1番大きいのは、リオンは国王になっていた事だが、そうなる可能性を視野に入れてなかった訳ではない。でも、そうなると私の身の振り方とリオンとの関係は変わってくる。


 私がここに戻る事はないし、リオンは妃を娶るかもしれない。今後、私達はどうするきなのか、明るいだけの未来ではない。

 昨日は私の腕で数日分の睡眠を取り戻すかのように深い眠りについたリオン。愛されている実感はこれからも私を強くする。いや、強くいなくてはならない。


 既に処刑されたイリス王妃、亡くなったアニアス国王、失踪したエイドリアン様。全ての尻拭いをリオンは背負って必死に働いている。

 今は国を安定させる事が最優先であって、私がする事は影で支える事だ。それに、全てが終わった訳ではない。


 「リオンはあんなに朝早くから働き出して大丈夫かしら」


 朝早くには執務に戻ったらしく、私が目を開けた時にはすでにいなかった。


 「行く前に顔を見たかったわ」

 「きっと照れているのでしょうね。ジェシカ様に随分甘えていらしたから」


 アマンダが優しく言った。

 確かに、あんなに欲望を吐き出すリオンは初めてだった。可愛いと思ってしまったのは秘密にしておこう。

 アマンダが朝の用意をする。

 いつかの日々を思い出した。でも、ここにはアンナはいない。寂しさと胸の痛みが増す。


 それから、昼前にリオンが訪ねてきた。少し気まずそうに照れているリオンを見て抱きしめたくなる。

 軽く昼食を取った後に私が眠っている間の事、今後すべき事について話してくれた。


 私がすべき事、それはミーシャ様のことだ。

 ミーシャ様を許したわけでもないし、今後も許すなんてできない。

 ただ、イリス元王妃の企みによって巻き込まれたといえるのも事実で、母親と離れ離れになってしまった彼女達の境遇に同情しなかったわけではない。

 例外を除いて、誰だって自分の子が可愛い。ラニアの子を思う気持ちが痛いほど分かって、少しでも2人が救われるなら……そう思ったのも事実だった。


 ただ、あの時はそう思っていたけれど。

 実際に落ち着いた場所で考えると、非常にやるせない気持ちになる。命が2つ失われているのだ。

 溜息が出た。

 誰かを恨んでも何も解決しないし、復讐はまた復讐を生む。私はこの感情を自分の中で昇華しないといけない。そして、ちゃんと法に則って答えを出さないといけない。


 「彼女、もう少しで生まれるのでしょう?」

 「そうですね」

 「……リオン。あなたはどう考えているの?」


 リオンは動揺せずに言い切った。


 「1人ならず、2人……命を奪っています。誰かに唆されたとはいえ、最後は彼女の意思です。脅されやらされた訳ではない。法に基けば彼女は死刑です」

 

 新たに命が生まれる。だが、彼女は殺人を犯し、禁術の魔法を使い国民を危険にさらした。だから、それは当たり前のことで。


 ただ、お腹の子はどうなる?私の子を流産させた事を殺害と捉えるのであれば、彼女の子も1人の命としてみなされる。

 生まれる子には罪はないと言うけれど、そんな綺麗事が罷り通る世の中ではない。母親の十字架を背負って生きていく事になるだろう。

 そして、そんな自分の人生と親を恨んでしまうのだ。なぜ、生まれてきたのか、なぜ母がいないのか、そう問いながら生きていくのだ。


 「そして、もし、その子に王族の血が流れているのであれば……争いの根は詰まねばなりません」

 「それは、そうね……」


 しかも、王族ではないと分かっても、神への冒涜とされ誕生が許されたものではない。

 勿論、絶対産んではいけないというわけではない。ただ、産まれた子は神の怒りを買ったとして病気や障害、死産などで苦しむことになると言われているため、皆、産まないだけなのだ。


 「もし、答えが出ないのであれば……その時は私が私の意思で彼女を処します。あなたは何も背負わなくていいです」

 「私は……そうね」


 彼女の行いを考えれば、死刑は妥当な刑だ。でも、私が眠っている間にも、彼女のお腹の子は成長していたはずだ。お腹は大きくなり、胎動を感じてより母性は強くなっただろう。

 それは、母親にしか感じられないもので。


 よほど、私が難しい顔をしていたのだろう。リオンが立ち上がり私を抱えてソファーに座り直した。そして、使用人を下げさせる。


 「あなたに辛い思いをさせるつもりはなかったのです」

 「違う。これは私も向き合わなければならない事だから」


 死刑、誰かの命を奪う。

 罪人とはいえ、それは決して気分が良いものではない。

 しばらくリオンの胸に顔を当てて考える。

 

 「アナベラは、どうしてるの?」

 「私達を育てた乳母に来てもらって子爵邸で過ごしています」

 「そう……」


 アナベラはもう母の温もりを感じる事はない。自分の母親が死んだ理由を知って、何も感じないわけない。きっと、もし彼女達が生きていると知ったら許さないだろう。

 復讐の根は詰まなければならない。


 「ミーシャ様に会わせて」

 「それは……」

 「ちゃんと話したいの」

 

 リオンは静かに頷いた。

 

 「分かりました。私も一緒に行きます」

 「それと、もう一つ気になる事が」

 「何でしょうか」

 「……エイドリアン様の失踪なんだけど」

 

 私は気になっている事を言った。


 「彼はどこにいるかも掴めていないのでしょう?」

 

 何か躊躇するような顔をしたリオンだったが、すぐに首を振った。


 「まだ、何も掴めていません」

 「そう……」


 彼は一体どこへ行ったのだろう。





 考え込んだまま俺の胸で眠りについたジェシカ様をアマンダに託し、静かに扉を閉めた。


 失敗した。

 

 ジェシカ様が人より何倍も優しいのは知っていたのに。彼女の意見を聞くことが負担をかけるかもしれないと、なぜ気付かなかったのか。

 子供の命までも考えるジェシカ様は、きっと自分に投影して考えてしまったのかもしれない。


 「はぁ……情けない」

 「陛下、ジェシカ様には話したのですか?例の件」

 「いや」

 「またの機会で?」

 「あぁ…………いや、予定変更だ。極秘で頼む」


 これ以上、ジェシカ様に負担をかけてはいけない。

大丈夫だと言う彼女の顔は無理に笑っているようにも見えたから。


 

 

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