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93.昇華


 あざのあるミーシャ様の頬に触れた。目は一点だけを見つめており、微動だにしない。ただ、その手はラニア様の背中をきっちり握りしめていた。

 ラニア様は、殆ど身体に渦巻くあざだらけであり、守るようにミーシャ様を抱えていた。


 母と子の姿を見ると胸が痛くなる。ラニア様の事情やミーシャ様がしてきた事を許すわけではないし、憎くないわけでもない。

 ただの親子として見た時、その絆を思えば無視できないだけ。


 「ミーシャ様。私が影を吸収しても、あなた達2人とも助かるかは分からないけど……イリス王妃の思惑によって離れ離れになってしまったのだから……少しでもお母様と一緒にいれるようにできないか、最善を尽くすわ。母になるあなたになら、どれだけ愛されていたか分かるでしょう?それに、お腹の子もあなたの愛をちゃんと感じているわ、きっと」


 ミーシャ様の瞳が揺れた。


 私はそのまま彼女の肌から影を吸収していった。さっきも感じたが、影が私の中で私を食い尽くそうとあらゆる手を使ってくる。

 子供の頃から感じていた劣等感や親への欲求。美しくないと自分を卑下した事もあったし、魔法が使えなくて無能だと罵った事もあった。愛されたいと泣いた事も、強がった事も全て。幼い頃の苦しかった思い出がさまざまと目の前に繰り返し現れる。


 色んな負の感情が溢れてくるが、今の私にとっては、そんな事はとてもちっぽけな感情だ。

 

 私の大切な人々、国を守るためだったら、偽善者と言われようともいい。もし、悪魔だと悪女だと罵られようとも関係ない。

 全てを投げ出しても、私は私の宝物を守るだけ。


 負の感情は自分の中で昇華するだけ。

 

 劣等感は自分の弱さだと認めて

 その弱さを愛しさに変えて

 愛されたい時は、まず自分を愛して

 他者への愛を深めればいい

 泣きたい時は泣いて笑えればいい


 影がどんどん吸い込まれる。

 そうするほど、負の感情は大きくなって一段と私の体力を削っていく気がした。


 アンナの笑顔が消えて、横たわった姿になった。

 産めなかった自分の子、この手に抱けたのは小さな小さな身体だった。

 胸の痛みに呼吸が乱れる。飲み込まれそう。


 大切な人がいなくなるのは胸が張り裂けるほどだ。


 ぎゅっと目を瞑った。

 だけど、悲しみに暮れるだけではいけない。思い出は辛い事だけじゃなくて、楽しい事も幸せだった事も、ちゃんと私の胸の中に残っている。

 それは、永遠と忘れることのない、私だけの宝物だ。私が死ぬ時まで彼女達は生き続けるのだ。


 肩に誰かの温もりを感じた。

 

 リオンが影を制御してくれている。

 悲しみも彼が一緒ならこれからも乗り越えられる。


 「もう少し」


 最後の力を振り絞り、私は影を吸収した。

 全ての影が身体を駆け抜けた後、膝から崩れ落ちるほど疲労感がどっと押し寄せた。だけど、空を見上げれば黒くなく透き通るような空が広がっていて、人生で感じたことのない達成感を味わった。


 「きれい」


 身体はひどく疲れておりこのまま眠りたかった。


 「ジェシカ様」


 リオンがぎゅっと私の背中を抱く。彼の手に自分の手を重ねると僅かに震えており、リオンにだいぶ心配させていたのだと実感する。


 「終わったわね。お疲れ様、リオン。ありがとう」

 「それは私が言う事です。ありがとうございます」


 2人は……と目を向ければ。

 ミーシャ様がラニア様を抱きしめて顔を埋め……泣いていた。声も出さず肩を振るわせて静かに。

 どうする事もできない現実は、受け入れられるその日を待つしかない。


 彼女の立場は今後どうなるのか。

 それは、流れに任せるしかない。


 影がなくなって、私達の安否を確認すると続々と騎士が訪れて2人を連れて行った。お兄様やティアナ、アマンダが顔色悪く駆け寄ってくる。遠くに私達を見るエイドリアン様が見えた。

 

 「お2人を休める場所へ。すぐに治療師と医者の用意を」

 「ジェシカ様は私が」


 歩けると言う私の主張を聞かずに抱えて歩くリオン。皆に見られて恥ずかしくて顔を上げれなかった。

 

 皆が私に声をかけてくれる。だけど、影を吸収するのに体力を使ったせいか、頭がぼんやりするしとても眠かった。周りが動いているのが、映像のように過ぎて行った。


 「リオン」

 「どうされましたか?」

 

 リオンが優しい目で見下ろしてくれて安心する。


 「凄く、眠いの」

 「寝ていいですよ、私が付いてますから」

 「うん、離れないで……側にいて」

 「ご所望とあらば、いつまでも」


 目尻を下げて笑って私の額に口付けるリオン。

 私は安心して愛する人の腕の中で、少し眠ろうと目を閉じた。


 でも、その眠りから覚めるまでに


 随分時間がかかってしまった。



 

祖父や祖母が亡くなっても、幼い頃の思い出って鮮明に覚えていませんか?

祖父母の家に帰れば当時に戻ったような気持ちになるのです。センチメンタルな気持ちになるのですが、同時に温かい気持ちになる。きっと大切な思い出は死ぬまで心の中で生き続けるのだと思っています。

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