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87.再会


 転移陣から離されて、私はエイドリアン様に手首を強く掴まれた。


 「ジェシカ、どうして僕から逃げるの?」

 「やめて、離してっ!!」


 逃れようとすればするほど無意味なものだと実感する。エイドリアン様は私を壁に押し付けて動けないように固定する。


 「ねぇ、どうして?なぜ、君は僕を選ばないの?何が不満だったの?」

 「私はっ、うっ」

 「そんなにあいつがいいの?あいつの何が?」


 締まる首に息ができず、その上口付けされて脳に酸素が回らず頭がくらくらし始めた。


 「あ……う、あ……」

 「ジェシカっ、はぁ……君とはこんなに相性がいいと感じるのは僕だけ?」

 「っうぅ……独りよがりはっ、ごめんよっ!?んんっ」


 頬を掴まれもう一度強引に唇を覆われて苦しすぎて、足掻いた結果、彼の唇を噛んだ。


 「ぃてっ……っ」

 

 血を袖で拭ってエイドリアン様はそれでも私の首に手をかけて、小型ナイフを取り出した。恐怖で声が出なかった。


 「君に手を出せば、魔法契約なのか身体が酷く痛むんだ。でも……それも心地よくてね……この痛みは愛の証だと思えば……ねぇ、ジェシカ。君が手に入らないのなら、いっそ永遠に僕のものにしようと思うんだ……いっそ、僕の手で君を……そして、君も僕を……殺せばいい。君に殺されるのなら……」


 そう言ってもう一度首を絞められた。目が霞む。

 エイドリアン様の力が強まった時、目の前で彼が吐血して、血で真っ赤に染まる衣服。


 「ほら……これで、僕の胸をひとつきだ……」


 ナイフを誘導される。

 

 「最高だよ……ジェシカ……その顔も」


 血で濡れた手が私の頬を撫でた。


 「……おかしいわ……あなた、どうしてこんな……」

 「はは、狂ってるだろう?それは、もう血筋かもしれないね」


 エイドリアン様が泣きそうに顔を歪めたその時。

 部屋が青く光ったと思ったすぐ後に、大きな音と呻き声が聞こえ、エイドリアン様が横っ飛びに倒れた。

 私はそのままずるずると座り込んで、霞む視界の中彼を見れば、ぐしゃっと崩れ落ちて気絶していた。


 顔を上げれば、リオンが唯ならぬオーラを漂わせながら立っていて。


 「ジェシカ様っ!!!」

 

 リオンが顔を引き攣らせて私の元へ駆け寄り、私をこれでもかと抱きしめた。私も彼の胸に顔を埋めて、彼の衣服を強く握った。


 「リオン……」

 

 私達は強く、強く抱き合った。

 もう会えないかもしれない、そんな不安を消し去るように。


 私の顔を覗き込んで顔を顰めるリオン。

 直ぐにマントで私の頬を拭って血を拭き取る。


 「これは……」

 

 私の濡れ血のついた唇に触れ、首へと滑らせた。

 怖い顔で私を見る。


 そして……乱暴なしぐさで頬を挟んで口付けられた。


 食べられてしまう、それくらい強くて何度も何度も角度を変えられる。魔力がどっと流れてきて、酸欠だった頭にはとても刺激的ですぐに意識が朦朧とした。

 それでもリオンは魔力を流すのを止めなかった。私も……それを受け入れる。

 これ以上は駄目だと分かっているのに止められなかった。


 ただ、私の身体が根を上げて膝から崩れ落ち、リオンのマントを必死に掴んだ。掴む手も、もう無理かもと手を離そうとしたら、ぐっと腰を引き寄せられるものだから彼の首に手を回すしかなかった。

 そうすれば、リオンの熱い吐息が首にかかってのけぞる自身の身体。


 「あ……リオン……待って、くすぐったい……んっ」


 リップ音と彼の熱い舌が這うその音と行為に惚けそうだ。


 「……消毒を、しないと……あいつがあなたに触れた場所全て……」

 「まっ、ちょっと」

 

 胸元にリオンの顔が来て私は彼から離れた。


 「そこは、触れられてないわ」

 

 残念そうに顔を上げるリオンが可愛くて私は彼の頭にキスを落とす。ほんと、こんな事している場合じゃないんだけど……。


 「ジェシカ様、間に合って良かった……」

 「うん、ありがとう」


 彼の掠れた声がなんとも切なげで。

 もう一度、リオンにそっと口付けた。それにリオンが反応してまた始まりそうなキスの嵐を理性で止めるように葛藤しているのが分かった。

 そっと私を引き離した。

 そして、リオンが私を支えて立ち上がった。エイドリアン様を見てリオンは彼に近づく。そのまま彼らしからぬ乱暴さでエイドリアン様を引きずってきた。


 「大丈夫、そのうち目が覚めます」

 「心配は……していないわ」

 「そうですか?ジェシカ様の事だから、お人好しで怪我人だからと言われるかと」

 

 伺うように見るリオンに私は首を振った。


 「優しさだけでは人を駄目にするから」


 その人のためを思えば、時には厳しさも持たないといけない。

 じっと私を見た後に、私の額に軽く口付けるとリオンは床に落ちていたアンナの魔道具を手に取って魔力を込めた。

 

 「リオン……身体は大丈夫?」

 

 リオンの腕に触れる。


 「気怠い感じはしますが、大丈夫ですよ。それより、早く戻りましょう……最後の仕上げが残っています」

 「……そうね」


 リオンの体温を感じる。大丈夫だと言うが今後も魔力を使えば、いつかは限界が来る。不安と、でも何か引っ掛かりを感じながら私はリオンの側に立った。

 呪いを解く何か手がかりを私は知っている気がするのだけど……重要な事を忘れているような……。

 呪いに打ち勝つには、どうすればいい?

 

 私は、呪いを3つ受けて死ぬはずだった。


 「ジェシカ様」


 名を呼ばれて顔を上げる。

 ある1つの仮説が思い浮かび、私は可能性を感じた。もしかすると……。


 魔道具が光るのと同時に床が青く光った。

 私が、リオンを助けられるかもしれない。リオンを見上げてぎゅっと手を握る。


 私達は光に吸い込まれるように西の塔を後にした。


 

 

お読み頂きありがとうございます。

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