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85.計画は順調に


 〜数時間前〜


 「こんなものか?」


 俺は魔法部で魔術師たちを気絶させながら呟く。

 ジェシカ様からの指示通りに魔法部を機能不全にさせる。


 「早すぎ、こわい、容赦ないですね」

 「コイツらが弱すぎるだけだ」


 そう言いながらも泡を吹いて気絶させられた魔術師を床に下ろすルーカスも容赦ない。

 俺は魔法で気絶させている分まだ優しいと思うのだが……。

 胸元をさする。魔法を使いすぎたのか。

 魔力は増え続ける一方で使わなければならないが、徐々に使う度に体が重くなっているのを密かに感じていた。

 

 ジェシカ様は無事だろうか。

 そう彼女を想えば想うほど溢れてくる魔力は使えば使うほど身体は疲労感と高揚感が繰り返され、どんどん呪いに蝕まれているのを感じる。

 まだ、命に関わるほどの事ではないが……この身体が駄目になる前に、ジェシカ様に会ってもう一度抱きしめたいのが本望だ。


 「溜息もそんな顔がいちいち艶っぽいのも、ムカつくくらいですねぇ、顔が良いと」


 揶揄うルーカスを無視して俺は魔法部にある城内の結界の機能を一時解除する。俺達を捕えるためのものなのだろう。

 転移魔法の成功のために、城内の転移魔法制限の結界は邪魔でしかない。


 「こんなことやって、俺達は無事でいられるんですかね?」

 「そこは心配するな。忘却の魔法をかけるからな」


 呪文と同時に金の粉が舞う。

 さらさらとそれらは気絶した魔術師達に吸い込まれるように消えていった。魔術師達の顔が苦悶表情から穏やかな表情に変わる。


 「うわ、ずる……何でもできるってどんな感じですか?」


 自分の掌を見る。俺の魔力は真の力ではないのではと思い始めていた。呪いのおかげで、これだけの魔法を使えてるのではないだろうか。

 皮肉だな……だけど。


 「少なくとも……誰かの役に立てるのは感謝しているかな」

 

 俺は窓から見える月夜を眺めた。

 まだやる事がある。

 

 「ルーカス。後はここを任せた」

 「ええ、勿論です。起きたらまた寝かせときますよ」

 「……なるべく優しくな」

 「ええ、優しくですね」


 親指を立てるルーカスに軽く頷き、やや不安を残して俺は部屋を出た。

 出た瞬間、髪の色を変え容姿を変える。なるべく目立たぬように俺は王宮の中を移動した。


 自分が姿を現せば捕らえられる。そのまま殺される事もゼロではない。なんたって、王族にとって1番危害のある人間なのだから。

 だからといって、このまま現状を見過ごす事はできない。もう、逃げながら姿を隠しながら生きるのはごめんだ。

 ただ、リオン・フロントとして生まれたばっかりに王家の血筋だからとロメルダの一族だからと排除され生を終えるくらいなら、愛する人のために死にたい。


 王妃の企みを明らかにした後には、平穏な日々が過ごせたらいい。


 「叶うかどうかは別だが……」


 投げやりに言った言葉は、ずしりと胸にのしかかった。そんな未来は来ない気がしてならなかったのだ。

それを無視するように俺は目的地に行くため廊下を進み続けた。誰も俺を気に留める者はいない。

 しばらく歩けば、何やら騒ぎが聞こえた。


 「ほらほら、さっさと歩きますよ」

 「離せっ、どこに連れて行くんだ!!」

 「どこって、だって王妃宮にて不審人物の噂があった時に貴方がうろうろしていたら、そりゃあねぇ」


 オーラントだった。

 良かった、計画通りに進んでいる。


 「あ、あそこが王妃宮だとはっ、知らなかったんだ!!私は娘に会いにっ」

 「迷子って事ですか?まさか、方向音痴ですか?そうですか、なら娘さんに会いに案内しますよ」

 「ま、待てっ」


 オーラントが男をがっちり掴んで誘導しようとした時、側から威厳ある声が聞こえて、そこにいる皆が跪いた。


 「何事だ、もう日も暮れたのに。これは何の騒ぎか」

 「へ、陛下……」


 そこには国王のアニアス陛下とセントラル公爵が立っていた。陛下の登場にその場がしんっと静まる。


 「ウォルス伯爵とカルティアン侯爵、何の騒ぎなのか教えなさい」


 オーランドに捕まるウォルス伯爵が真っ青な顔をしている。その反面、オーラントはケロッとしており相変わらずマイペースな奴だ。

 まぁ、仕組んだ側からすれば平気なものだよな。


 「陛下、お休みのところご迷惑おかけしまして、申し訳ありません。ただ、王妃宮で不審な人物がいるとメイドからたまたま聞きまして、すぐに駆けつけたのです。そしたら……」

 「それが、ウォルス伯爵だったと言うのか」

 「はい」

 「へ、陛下っ、違います、私はその、娘に会いに行こうと思って迷ってしまい……」

 「ミーシャにか?ミーシャなら城の客間であろう?どこを迷う必要があるのか」


 陛下が訝しげに尋ねた。

 

 「まっ、まさか、王太子妃になるのに城の客間にいるなんて思いも及ばず……」

 「ふむ。まだ宮が用意されていないのは可笑しいとでもいいたいのか」


 遠回しに王族への不満を言っているようなものである。陛下の声色が変わった。

 

 「めっ、滅相もありません。ただ、娘から直に宮に住むと聞いていたものですからっ……」


 額に汗をかきながらしどろもどろなウォルス伯爵。


 「まぁまぁ、アニアス。こんな寒空の下では凍えて言葉も出ないだろう」


 思わぬ助け舟にウォルス伯爵が安堵の表情を見せたのも束の間。


 「近くに応接室があったな、そこへ移動してはどうか?ゆっくり話を聞けばいい。娘会いたさに来たのであれば、ミーシャ殿も呼べばいい」

 「わっ、私は、その、は、はい、お願い致します……」


 セントラル公爵の視線で押し黙ったウォルス伯爵をオーラントが引き上げ、そのまま陛下とセントラル公爵の後ろをついて行った。

 

 「あぁ、魔術師どの。部屋は寒かろう、手っ取り早く準備をしてくれんかね」

 「ええ、勿論でございます」


 セントラル公爵に言われて俺も後ろを歩く。振り向き様に片目を瞑るセントラル公爵もなかなかだが、公爵までも巻き込んだオーラントには感服だ。

 

 大丈夫、計画通りに進んでいる。

 だがまだ安心できないと気を引き締めたのだった。

 


 

 

 

 

 

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