81.お守り
王太子が私を血眼になって探している。
「無駄に動かない方がいいですね」
「ここは大丈夫なの?」
「ここは安全です。言ったじゃないですか、私が地道に足場を固めてきたって」
「そうよね」
早く動きたい気持ちと再びエイドリアン様に見つかる不安が相まって私は落ち着かない時間を過ごしていた。
エイドリアン様から逃げてきて1日が経った。ケイトが私の手紙を届けに行ってくれている中、私は待つしかない。
リオンは無事だろうか。ティアナやアナベラは?アンナは……。膝を抱えて顔を埋めれば少しは不安が遠のく、なんて事はなくむしろ不安が増すばかり。
「ねぇ、アマンダ」
「何でしょうか?」
「無事、終わるかしら……」
「どうしたのです?あんなに進んで指示を出していて、何か思う事がおありですか?」
「ううん……ただ、時間がありすぎて考えてしまうの。その、もしかしたら、また誰かが犠牲にって」
アマンダが私の横に屈む。
「大丈夫です。そんな事が起きないよう今、事前に動いているじゃないですか。ジェシカ様がそれをやっている。自信を持って下さい」
「……」
「それに、あなたはご自身が考えている以上に皆から慕われているんです。危険な目にあった時、力を貸してくれるはずです。私達がそうしてきましたから」
自信げに言うアマンダ。不安を消すように無理に笑って見せれば、アマンダには分かるのだろう。背中を優しく撫でてくれる。
「……アンナが言ったの。アナベラを守って、と」
アンナの名前を出すと手が止まるアマンダ。
「そうですか……アンナはとても良い母でした。とても子思いで強くて……」
「うん、凄く強い子よ。だからこそ、私はあの子を守らないといけないの、アンナの代わりにはなれないけど、アンナの主としてアナベラの未来を守らないといけない……アンナが……」
「ジェシカ様」
肩を抱き寄せてくれるアマンダの手は温かい。
「皆んなで守ればいいのです。ジェシカ様は真面目でお優しいから1人で抱え込む。だけど、私もアンナもあなたの家族のようなもの、そうでしょう?」
「……家族」
「皆んなで背負っていけばいいのです。あなただけがアンナの事を悔い責任を追う必要はない」
「……」
「それこそですよ?アンナにはフロント子爵がいるじゃないですか。あの方が1番に面倒を見ればいいのです」
「あ……そうよね、叔父様になるんだもの」
「そうです。それに……ジェシカ様とフロント子爵が引き取って育てれば問題ありません」
「えっ!!?」
「だって、そうでしょう?お2人、恋人なのでしょう?ジェシカ様からはまだ何も聞いてないですが」
アマンダの鋭い視線にたじろぐ。
「あの、ご、ごめん」
「いいんです、ジェシカ様が好きな人と一緒にいればいいんですから。ただですねぇ、フロント子爵もなかなかジェシカ様への愛が重いから」
「そ、そう?」
「鈍感ですからね、ジェシカ様は」
恥ずかしくて目を逸らす。
アマンダが優しい声で言った。
「フロント子爵を、私たちを頼ればいいんです」
「うん、ありがとう」
不安が全くないとは言えないが、強くなると決めたからには、皆んなのために生きると決めたからには、弱音など吐いてはいられない。
それからケイトが戻る時まで2人沈黙して待つ。
少し時間がかかっているのか、明日の夜までに終えればいいけど……。
アマンダが外の様子を確認しに行った。しかし、暫くすると何やら文句を言いながら戻って来た。その手には鳥の形をした手紙が乗っていた。
「あ……」
私はその鳥を受け取る。リオンの魔法を感じた。
「全く、こんな魔法使えば誰かに分かるかもしれないのに……何のために隠れていると思っているのでしょう」
私は手紙を開ける。中身は変わっていないがリオンが無事であること、そして、手紙から彼の魔力が感じられる事、それだけで不安が一気になくなった。
「本当に、優秀な方なのにこういう事は後先考えずなんだから」
ぶつぶつ文句を言うアマンダに微笑んで、私はその手紙を胸にしまった。そんな私を見てアマンダは「全く」と言いつつ顔は優しい。
大丈夫。
きっと成功する。
無事に終えるその時まで。
私は胸に手を当てて彼を感じた。




