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80.西の塔


 「どうだった?」

 

 戻ってきたケイトに私とアマンダが聞く。

 私達2人は顔が割れているからあまり動かない方がいいとの事で、ケイトに仲間達の連絡網とあらゆる手段を使って、西の塔を調べてもらった。


 「信じ難いかもしれませんが……あの塔には女性が1人監禁されているみたいです」

 「監禁?」

 「……女性が?」

 「ええ、間違いないです」


 ケイトは使用人通路を使い西の塔の裏庭に出たらしい。入り口は1つ、扉に護衛が2人。騒ぎは起こせまいと、驚く事にケイトは木と壁をつたって最上の部屋まで確認した。


 「夜だったので全然余裕でした」

 「え?壁をどうやって?」

 「そんな事簡単ですよ。これを使って登るだけです」


 ケイトが取り出したのは、金属の先が鋭く細長い針だった。


 「これを壁に刺しながらそれを使って上まで行くのです」

 

 もの凄い身体能力だ。ただ、アマンダは驚かずにいるところから彼女らにとっては普通なのだろう。


 「ぶ、無事で良かったわ。それで女性というのは?」

 「とても痩せた女性でした。必要最低限の物しか置かれてなくて、その女性もとても衰弱しているみたいで……」

 「まさかイリス様が監禁なんて……」

 「やっぱり親子ですね」


 アマンダの棘ある言い方に苦笑いする。


 「1つ気になることが……その人がぶつぶつ呟いているのです」

 「何を?」

 「私の可愛い子……ミーシャって」


 驚きで呼吸が止まる。


 「ま、まさか……本当なの?」

 「間違いありません」

 「そんな……彼女の母親は亡くなったはずでは……」


 私は必死にこれまでの情報を思い出す。


 「どういうこと?ミーシャ様のお母様は亡くなってなくてずっと監禁されてた……何のために?」

 「何か……特別な力があるとか?ほら、ミーシャ様も治癒魔法が使えますし」

 「いいえ、ミーシャ様の治癒魔法は本当の力ではないわ。イリス王妃が禁術の魔法を使うよう彼女に差し向けているの」

 「え?何のために?」

 「そう、何のために、か」


 ケイトが首を傾げる。


 「イリス王妃は何がしたいの?」

 「ざっと聞くだけだと、男女関係でこじれてその恨みで監禁して何かしようとしているように見えます」

 「ええ、確かに……あの4人で何かあったのは間違いないわ。でも、ウォルス伯爵も実の娘を駒のように使って……イリス王妃だって、傍観者のようにエイドリアン様やミーシャ様、私達の関係を楽しんでいたの……自分の子達にそんな事できるの?」

 「ジェシカ様。世の中には色んな人がいます。歪んだ考えを持つ人も、残酷な事をする人も」

 「それは理解しているわ」

 「1番は、復讐、じゃないですか?」

 「復讐……」


 アマンダが言う。


 「例えば、国王とミーシャ様のお母様が浮気した。そして、その腹いせに監禁し、大事な娘を陥れる」

 「親にとって子は自分の命より大切ですからね。あ、一部を除いては」

 「西の塔に……行きましょう」

 「本当に言ってます?」

 「ええ。何があったのか知らないけど、こんな事終わらせないといけない。昔の諍いだったとしても、それを子供達まで巻き込むなんて間違っている」


 ふつふつと怒りが沸いてきた。事情を知らない事にはこの怒りをどう処理していいのか分からなかった。


 「もしかしたら、国王とその女が悪かったかもしれないですよ?」


 ケイトの言っている事も分かる。私が知らないだけで、イリス王妃も苦しんでいるのかもしれない。でもそれは全て憶測なのだ。


 「だからこそよ。事実を確認して正すの。終わりにしなければ」


 私の声に2人が視線を交わしてざっと跪く。


 「承知しました」





 「ルーカス、ルーカスっ!!」


 どことなく聞こえた微かな声にルーカスが当たりを見回した。すると階下からふわっと1人の女性が舞い上がってきて、見事に着地する。

 風が冷たく俺は目を細めてその人を見た。


 「ケイト、どこにいたんだ?連絡がないからどうしたものかと」

 「ごめんごめん、急展開だったもので」

 

 ケイトと呼ばれた女は俺を見ながら言った。


 「フロント子爵ですよね?私はケイト、アマンダとルーカスの幼馴染で今は城のメイドをしています。そして、大事なあなたのジェシカ様のために情報を持ってきました」

 「本当かっ?っジェシカ様は!?」


 俺は前のめりに彼女の肩を掴んで聞けば、「まぁまぁまぁ」とルーカスと似た調子であしらわれる。


 「ジェシカ様って本当に素敵ですよね。お優しくて毅然としていて、それで……ちょっと頼りなさげな女の子らしさがあると思いきや、ぽっと突拍子もない事を言い出して突っ走って大胆なんだから。惚れちゃうほどだったわ」


 ケイトが頬に手を当ててうっとりするから、面白くないやら、早く情報が欲しいやらで焦りが募る。


 「おい、ケイト。冗談はやめて早く言いな。この方もジェシカ様のことになると本当に突っ走るほど暴れるから」

 「はいはい分かりましたって」


 そして1枚の紙を取り出して俺に渡す。


 「必要な事をここに書いてます。読んでください、私は次にやる事があるので」


 そう言ってさっといなくなるケイト。身のこなしからとても優れた人材なのだろう。「忙しないやつ」とルーカスが呟くのが聞こえる中、手紙を開いた。ジェシカ様の綺麗な文字だった。それだけで安心と会いたい気持ちが溢れてきた。


 箇条書きに書かれたそれら。


 俺は読みながらその字を手でなぞる。ジェシカ様を感じるようで、指先がじんじんと熱く感じるほどだった。

 早く彼女が安全だとこの目で確かめたい。この腕でその温もりを感じたい。

 俺は手紙に口付けた。

 それを見たルーカスが呆れ、「うわ……変態だ」と言っているが構うもんか。


 そしてその紙は宙を舞い、鳥となって飛んで行く。彼女の元へ……自分も無事だと伝わってくれ。


 「君も誰かを愛せば分かるさ」

 「愛したとしても、手紙に口付けするほど落ちません」


 軽く笑って夜空を見た。

 無事に事なきを終える事を願って。



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