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72.重ねた手


 私は自分の部屋に帰ってソルダム首長から頂いた布袋を開けた。中には処置のための軟膏と包帯、そして2枚の手紙。

 さっきリオンに拒絶されて落ち込んでいる気持ちを紛らわすように手紙に目を通す。


 一枚には乱雑に処置の方法が書き殴ってあり、あの時僅かな時間に書いてくれた事が分かった。

 一方、もう一つの手紙には丁寧にそしてぎっしりと文字が連なっていた。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジェシカ殿


 これは私がこれまで生きてきた中での情報を元に考えた事で、憶測も入っている事を視野に入れて読んで頂きたい。

 フロント子爵の一族は昔から治癒魔法にも長けている一方で、自分自身を治癒する力が弱い傾向があります。そして、膨大な魔力というものは身体に負担がかかるものです。

 それを上手く解放できないと、彼らは早く命を落とす危険性もあるということです。そして、致命傷を負った時、彼は自己回復をする力もなく誰よりも死に近い状態になってしまいます。


 気をつけて下さい。

 彼はとても優秀で才能ある若者ですが、あなたの事となると無鉄砲になる傾向があります。そして、ジェシカ様が無理する事でその危険も増します。

 お二人とも、あまり無茶をされないように……

 どうか、2人とも無事で。


 追伸:魔力の解放は自己治癒を少し高めることに繋がりますが、そこはお2人の考えを尊重して下さい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんていう事だろう。

 ソルダム首長の言い分によれば、リオンは自己治癒能力が低いという。だとしたら、腕の傷はやっぱり処置するべきだ。

 それに、もしリオンが致命傷を負った時。アンナがりいない今、リオンを助けられる人がいるかも分からない。

 背中がヒヤッと冷たくなって私はガウンを羽織り部屋を出た。リオンが嫌がっても処置をしなければ……毒が傷口に残っているかもしれないのだから。


 リオンの部屋の前に来てノックをしようとしたら、中から声がした。

 誰と話しているのだろうと悪い事だと知っていながらも耳を澄ます。


 「……俺たちの命が物凄く短いってことだ」


 中から聞こえたリオンの声に心臓が強く打つ。

 命が短い?どういうこと?

 

 私はソルダム首長の手紙をから、膨大な魔力は身体に負担がかかることを思い出す。

 魔力は心臓が作り出して全身へ送っている。その作り出される魔力が多ければ多いほど、身体の各臓器へも負担があるということなのか。


 どれくらい短いの?

 何か方法はないの?


 「……アムルと身体を交えて魔力を放出する事だ。膨大な魔力に身体が蝕まれるなら、それを出すしかない」


 アムル?聞いた事ない……というか今身体を交えるって……それって。

 彼の方からアンナという言葉が聞こえた。話し相手はなんだかアンナみたいだ。


 「だから、結局のところ、生きるためには……」

 「そんな早くに死ぬと分かっていて、彼女を1人にすると分かっていて……」


 私はリオンが自身の命より私なんかを心配している事に気付く。全く、そんな必要ないのに。相変わらず人のことばっかり。

 私はやっぱり腕の処置は必要だし、何なら事情を聞くまで彼を離してやらないつもりで扉を開けようとしたら、目の前にリオンが現れて。


 「ジェシカ様……」


 その瞳には不安と悲壮感と怪しい光と色んな感情が見え隠れしているのが分かる。

 私はこれ幸いにと彼を押して部屋の中に入った。


 「ジェシカ様。駄目です、戻って下さい」

 「嫌よ。腕を処置させて。なぜ拒むの?あなたの一族と何か関係があるのでしょう?」

 「……聞いていたのですか」

 「聞こえてしまったの。ううん、そう聞いたの。悪いと分かっていても気になったから聞いたの。でも、リオンが悪い。急に私を拒んで、何か隠し事して」

 「仕方ないのです。あなたを傷つけたくない」

 「なぜ、私が傷付くと分かるの?隠し事して拒まれる方が傷付くのに」

 

 それでもリアンは私を見ようとしない。


 「見せて」


 私はリオンの手を取って袖を捲った。雑に巻かれた包帯から傷口が悪いのだろうと見て取れた。


 「大丈夫です。ミスイの粉を使っていますし」

 「自己治癒能力が低いのに?」

 「それは……」

 「ソルダム首長が言っていたわ。魔力が膨大すぎて放出しなければ、身体は蝕まれる。そうすれば、元々低い治癒能力も弱くなる。そして、徐々に命が……削られていく……」

 

 腕の包帯を解く指が震える。いや、声が震えているのか。


 「リオンがいない人生なんて考えられない。それだけ、あなたは私の中を埋めているの」

 「ですが……俺は早くに死ぬかもしれない。結局死ぬ時を引き延ばすだけで、俺が先に死ぬのは、変わらない」


 ぐしゃっと前髪を掻き上げて顔を隠すリオン。一人称が「俺」になっており、それだけ彼は動揺しているのだろう。


 私はそっと彼の手を取る。

 泣きそうな顔に私は胸が締め付けられた。


 「酷い顔」

 「……あなたと一緒にいたい」


 リオンが私の肩に顔を埋める。私は彼の髪を掬って抱きしめる。


 「一緒にいればいいじゃない」

 「幸せを感じてしまえば、その時がより一層怖くなる。それに、自分の命のためにあなたの身体を利用するみたいに」

 「リオン、あなた馬鹿ね」


 私はリオンから離れて両頬を手で挟む。


 「私はリオンを求めている。魔力を放出させて時間を稼げばいいのよ、その間にきっと他の解決策が見つかるわよ。だって、あなたは天才でしょう?」

 

 私は彼の唇に手を這わす。


 「それとも……子ができない私じゃ駄目かしら……私じゃ、あなたの血を絶やす事になるもの。それに、私はあなたの、アムルっていうのじゃないのかしら?」

 「そんな事、あるわけないっ。それに、俺にはジェシカ様だけだ」

 「だったら……試してみたらいいわ」

 

 私はリオンの手を引く。


 「リオン、あなたは命懸けで私を助けてくれた。そうよね?」

 「……」

 「だったら、私も全力であなたの命を助けるわ」

 「後悔しませんか?」

 「なぜ?」

 「俺は、あなたを嫌だと言っても手放せないと確信していますから」

 「望むところよ、私がそれを求めているもの」


 ぎゅっとリオンが私の手を握って引き寄せる。

 お互い求めるように口付けをして固く抱擁した。そのまま、ベットに傾れ込む。

 月夜に差し込む光は、より一層私達を深い愛欲に誘っていく。


 私はリオンの温もりと吐息を感じながら人生で1番の幸福感を感じていた。いつまでもいつまでも、この時間が続けばいい。お互いそう思っているかのように、指を絡めて重なり合った。




 

 


いつもお読み頂きありがとうございます。想像以上に長引いてます自分を叱咤しています。ふぅ……

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