71.魔力と命
その日の夜、俺は持ち込んだ資料をめくる。
「アムル」はなぜ存在するのだろう。惹かれて子孫を残そうとするのは、一族の生殖能力が低いから。であれば、なぜ生殖能力が低いのか。
他にもまだ何かある気がして資料を読み漁る。もう夜が深いというのに、納得できない思いは俺の意識を目覚めさせた。
そして、ふと手に取ったある資料でその答えは見つかった。この資料だけ魔法で鍵が掛かってある。これに答えがある。
そう確信して、俺は魔法で資料の鍵を解く。ほとんどこじ開けたに近いが、仕方ない。
ページをめくるたびに俺は新たな事実に手に汗を握る。
そこに記されていたのは、俺たち一族が著しく『短命である』という事だった。
思えば父も若くして亡くなり、叔母さんも同様だ。それに父方の祖父に会ったことはなかった。ただ父は事故死だった事もあり、それが本当の寿命だったかは分からないが。
「膨大な魔力を宿す代わりに、その命はとても短い。その魔力は常に生命力を蝕んでおり負荷がかかっているためだ……まさか、そんな事って……」
『何がそんな事なの?』
頭の中で声が響いて驚き、部屋を見渡すが誰もいない。
「アンナか?」
『うん、お兄様の意識に操作できるみたい。これも、私達の血が関係しているのかしら』
そうだろう。血に魔力が宿っておりその結びつきは強い俺たち一族だからこそなのか。
『それで、何が分かったの?』
「……俺たちの命が物凄く短いってことだ」
『そっかぁ……そんな気がしてたわ』
「どうしてだ?」
『だって、あの女に禁術の魔法でやられた後にも、私の身体はほとんど機能していないのに、こうやって魔力だけは残っている。それって、とてつもなく魔力が強くて特殊なことだし、身体の方が弱いのかなって』
「……家にある身体には」
『戻れなかった。勿論、試したわ。でも、全然だめ……身体が閉ざしているみたいに……意識だけがある』
「アンナ……」
『辛くないわけじゃないけど、でもこうやって私にもできる事があるから』
「諦めるのは早い。俺たちの魔力が膨大ならまだ助かる可能性もある」
『お兄様。魔法が使えても私達の身体はただの人間よ』
「だが、俺たち一族は治癒魔法に精通しているし、魔力が特殊なら命を助けることも……」
『私達は神様じゃないわ』
俺は資料が歪むくらいに手を握った。
そう、俺たちは特殊な魔法を使えるが、神じゃない。そこにある命を魔法で助けることはできる……ジェシカ様にしたように。でも、灯火が消えた命を再び蘇らせることはできない。
分かっている、分かっているが……。
「まだ、決まったわけではないだろう?」
『分かるわ。自分の事だもの』
頭の中の声が酷く震えており、俺は天井を見上げた。
『ねぇ、お兄様。私達が短命でも何かしらそれに対する策はあるのでしょう?』
「……アムルと身体を交えて魔力を放出する事だ。膨大な魔力に身体が蝕まれるなら、それを出すしかない」
『アムルって言うのは、出会ってこの人だってことよね?』
「あぁ、そうだ……アンナもそうだったんだな」
『そうよ、だから言ったじゃない。頭でどうこうできるわけじゃなかったって。本能が求めてた……確かにその後は身体がすっきりしていたわ』
「そんなにか?」
『まぁ、普通の人は知らないけどそれなりの回数したからなぁ……幸せだったわ』
生々しい会話に苦笑する。
「会いたいとは思わないのか」
『物凄く惹かれたけれど、私の性格も関係しているのかしら……お互い自由人って感じだったし。私にはベラもお兄様も、何よりジェシカ様の近くにいたかったし』
「そうか……」
俺は資料の続きに目を通す。
女性は男性に比べて身体が弱く、より短い命らしい。だが、子を宿せば魔力は子に流れるためそれである程度の魔力は放出されるらしい。
だが、男性は……。
『やだ、お兄様何を考えてるの』
「うるさい」
揶揄うような声に俺は払い除けるように言った。頭の中でアンナが笑うような声が響く。
『ジェシカ様も大変ね?これからお兄様のその膨大な魔力に付き合わされるんだから』
「そんなことは」
『そうしないとお兄様もすぐに死ぬわ。思っているほど私達の魔力は膨大だもの。したら……分かるわ』
「ふざけてる。自分の命を長らえさせるために彼女を抱くなんて」
『でも、そんな相手に出会えることも奇跡よ』
そうらしい。アムルと出会えずに魔力が身体を蝕んで20代という若さで亡くなった先祖もいる。
「俺たちは……その膨大な魔力のため命を削られ、そして、それの策として治癒魔法に精通し、医療を学んできたのか」
一族の中には医者家系と縁づいた者もいたらしい。魔法ではどうしようもない事を、医療の観点から解決しようということだろう。ここ屋敷にも多くの医学書が並べられており、よく小さい頃に読んだものだ。
それが、ユナリア、ミスイを摂取する事で身体の機能を少しでも維持できるようになったらしい。ただ、それもほんの少しの効果だ。
「だから、結局のところ、生きるためには……」
『何を迷っているの』
「そうだとしても、生きれて40歳くらい……いや、もっと早いか?父さんはそれくらいだったろう?」
『37歳だった。叔母様はアムルと会えずだったのでしょうね。29歳の若さだったと思う』
「そんな早くに死ぬと分かっていて、彼女を1人にすると分かっていて……」
『……うん』
そんな事できるか?それに、
「一度、たかが外れたらジェシカ様を抱き潰す自信しかない」
『それは……御愁傷様ね』
「嫌だと言っても絶対に逃してやれない。俺も、もしかしたら、あいつみたいにジェシカ様を傷つけるかもしれない」
『そんな事にはならないわ。私が保証する』
「ありがたいな、それは」
俺は資料を閉じて己の中にある、激しい情欲に舌打ちをした。本当に俺たち一族はどうかしている。
『ねぇ、お兄様。私そろそろ行くわ……お兄様を外でお待ちよ』
「……は?」
頭の中からアンナが消えて、俺はその言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。そして、弾けるように立ち上がって、扉を開けるとそこにはジェシカ様が立っていたんだ。
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