63.閑話(リオンの悩み)
「よぉ、ほら、頼みの品を持ってきたぞ」
そう言いながら、俺の部屋へ入ってくるオーラント。久しぶりに見た親友は変わらずの様子で安心する。
「感謝する」
「一応さ、何かあった時のために色々組み込んで描いている。まぁ、確実にリーグ領の丘の屋敷まで飛べるから安心してくれ」
「それに関しては疑ってない」
オーラントから紙を受け取り転移魔法を見る。
万が一、この前のように結界が張られていたり、待ち伏せされていたりする事も考えて、オーラント独自に描いた魔法陣。記号と文字が入り乱れており、これに関しては俺でも解読できない。
「丘の屋敷の中に移動できるようにしてある。丘の屋敷も結界があるんだろ?それらを緩衝するようにしているから無事中に着くはずだ。だが、お前の魔力はごっそり取られるがな」
「それに関しても問題ない」
「あぁ、微々たるものだろうよ」
オーラントは椅子に座って自ら持参した酒瓶を開けた。
「……飲みすぎるなよ」
「あ?お前じゃないからな、酒の飲み方を知らない奴が潰れるんだ」
「なんか皮肉だな」
「皮肉じゃない、事実だ」
そう言ってオーラントはグラスに注ぎ、ゆっくりと口につける。
「ほら、お前も飲めよ」
空いたグラスに酒を注いで俺に座るように促す。
ガラスの中の酒を揺らしながらオーラントは聞いてきた。
「それで?どうなったんだって?」
「……何が」
「ジェシカだよ。聞くところによれば、暇さえあればいちゃいちゃしているんだって?」
「ティアナだな。それは語弊がある……そんな暇でもないし、なんならここ2日は会ってもない」
「別にいいじゃないか。やっと想いが通じたんだ。羽目を外すぐらい、なぁ?」
揶揄うのではなく、大真面目に言ってくるから俺もなんだかそれに同調するかのように酒を飲んだ。
本当にそうだ。何年想って身を焦がす思いをしてきたか。それが、今は触れられる場所で彼女を感じられて幸せなはずなのに。
「焦がれすぎてきたからか……」
「うん?」
「いや、何でもない」
「なんだよ、話せよ」
素面で話せるか。
だからと言って、また酔いすぎて赤裸々に語るのは避けたい。酔って記憶が飛べばいいものの、うっすらと残ってしまうから、中途半端な酔いの後には後悔だけ残るんだ。
「というか、なんで変身魔術は中止になったんだ?やっぱり間に合わなかったか?」
「それもあるな」
「も、とは」
「……」
魔力の付加によるジェシカ様への影響。
「なぁ、ちょっと魔力を流してみていいか?」
「え、俺に?」
「あぁ」
訝しがりながらも俺に手を差し出すオーラント。俺はオーラントの手を握り魔力を流した。
「ぅ、おぉぉ、これは……」
「……どうだ?」
ちょっと緊張しながら聞く。
「……いや、なんか不快でしかない」
それを聞き盛大に安堵の溜息を吐いた。
「な、なんなんだよ……凄まじく違和感、というか不快感というか、ぞわぞわ〜ってな感じだぞ。ジェシカはこれ耐えてたのか?」
「いや、まぁ……」
「……なんだ?」
ますます眉間に皺を寄せながら、先程の不快感を逃すように腕をさするオーラント。
「俺がこれまで魔力を流したのはお前とジェシカ様だけだ。そして、ジェシカ様は不快感は感じなかったらしい……」
「むしろ、快感をってか?」
オーラントが冗談混じりに言う。だが、俺の深刻な顔を見て、「まさか……」と口を開いた。
「それで変身魔術は中止した。変身魔術の訓練どころか俺の訓練になっていたようなものだった」
見上げる瞳は甘く潤んで、口元が僅かに開き頬が紅潮する彼女を見て何度、自制心を働かせたか。
「それはご愁傷様だな」
「本当にだ」
「てか、お前もし俺が魔力で誘惑されていたら、どうするつもりだったんだ」
「抜けるまで縛り上げるつもりだった」
「やだ、そんな趣味ない」
「魔力がだ、阿保」
「でも、俺は男だ。男と女で違ったりするんじゃないか?」
「それもあり得るな」
「お前良かったなぁ、今までその特殊能力を使わなくて」
「まだ断定してないから何とも言えないがな」
これに関しても叔母の家で調べる必要がありそうだ。もしかしたら俺たち一族の血筋と魔力が関係していて、アンナのヒントにもなるかもしれない。
俺は残った酒に口を付けながら昔の事を思い出していた。
父はよく言っていた。
『いいか、リオン。魔力を流すのは遊び半分で絶対にするな。なんでかって?まぁ、理由は色々あるが、王家の血筋がバレていいものはないだろう?それに、いつかお前が大人になる前に話すから」
アンナが妊娠した時に言っていた。
『お兄様。これに関しては本能がそう言っていたの。頭でどうこうできるものじゃなかったし。この人しかいない、この人の子供を産みたいって……そう思ったのよ』
俺はある1つの仮説に辿り着く。
いや、まさかな……頭を振るとオーラントが俺からグラスを取った。
「なんか頭を悩ますのがあるみたいだな」
「考える事がありすぎて、沸きそうだよ」
オーラントが俺の肩を軽く叩いて挨拶して帰っていく。
片思いでも両思いでも、変わらず俺の頭を悩ます彼女。幸せなはずなのにため息が出る俺は、ちょっと色ボケすぎているかな。
これから危険を伴う日々になる。
気を引き締めるために、久々に剣を持って頭を冷やしに行ったのだった。
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