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55.その頃王宮では


 王宮の会議室。


 主要貴族達が集まる中、オーラントは非難の眼差しも好意的な眼差しも、どれもこれもどうでもよく、周りの目など気にする様子もなく座っていた。


 ラリネト公爵家、センスター侯爵家、リンド侯爵家当主は、日頃からオーラントが気に入らず、鋭い視線を送り威圧する。そして、ガーディン侯爵は3家ほど嫌悪感は見せていないが、良くは思っていないことは分かる。

 一方で、セントラル公爵当主はオーラントの物おじしないその性格を気に入っており、周りからのオーラントへの視線を興味深そうに眺めていた。獣を連想させる赤い目が楽しげに細められている。


 「なかなかやのう、お主。ここまで、はっきりと敵かどうか分かるとはやりおる」

 「褒めて下さってどうもありがとうございます」

 「なはは、皆の鋭い視線を浴びても尚、怯まないのは本当に感心するわい。若いのに大したもんだ」


 いや、だって皆んなから好かれるなんて無理だし、いちいちそんな事気にしていたら、すべき事も見えなくなる。

 曖昧な事は嫌いだ。嫌いなら嫌い、それでいいじゃないか。誰かに好かれるために、俺は生きているわけじゃない。俺のやりたいこと、すなわち信念のために生きてるんだ。


 「それで、今日は何で集められてんすか」

 「お主の妹の事であろう?」

 「何をまだ話す事があるってんだ」


 本当に、もう既に離婚が認められているのに、まだ何を話す必要があるんだ。

 殿下も諦めが悪い。あんなに酷い扱いをしていて、まだジェシカを取り戻そうなんて頭どうかしている。


 やっと自分で逃げたいって思って行動を起こしたんだ。あのジェシカが……。

 幼い頃から自分を抑え込み両親の言いなりになって王太子妃になった。承認欲求の塊だったあいつが、やっと大事なもんを見つけて自分を見つめて。エイドリアン殿下への執着を手放し、自由になろうとしたんだ。

 それが王太子妃として正しいとか間違っているとかは知らん。間違っていたとしても、俺は一兄貴としてジェシカの勇気に拍手を送りたい。あの泣き虫で弱虫の八方美人が変わろうとしている。それだけで俺は感動してんのに。


 外野はそうはいかないんだよな。

 何かと誰かを蹴落とすために、ここぞとばかりに問題を掘り起こしてくる。

 今回のジェシカの件も俺たちのカルティアン侯爵家の教育が不届きだったと、王太子妃が教会へ信仰を示すなんて言語道断だと……カルティアン侯爵家の降爵を指摘する奴らもいる。

 そして、リオンに関しては表向きは無実だと取り扱われてはいるが、王族の血筋という事で内密に暗殺命令も出ている事は把握済みだ。ただ、面倒くさい事にリオンを新しく立太子させようと密かに考えている奴がいるのも知っている……そう、ガーディン侯爵みたいにな。


 きっと、何もかも知っていて娘を使ってリオンを囲い込み、そのうち謀反を起こす計画でもあったのだろう。

 だから、俺たちカルティアン侯爵家、正確にはジェシカが気に入らないんだろうな。


 「それにしても王太子妃が逃げるように離婚するなんて、兄としてカルティアン侯爵もさぞ恥でしょう?」

 「離婚して教会への信仰者なら、もう侯爵家にいる事もできますまい?除籍するのでしょうね?」

 「それは、まだ分からんよ。何しろエイドリアン殿下はまだ離婚を認めてない」

 「認めるも認めないも、魔法裁判所で下されているんだ。離婚が成立するほどの、何をエイドリアン殿下はなさったのか。そこの方が気にはならんのかね?」


 セントラル公爵が面白そうに言う。


 「不敬だぞ、セントラル公爵」

 「不敬?事実だ」


 セントラル公爵の一声に皆、押し黙った。セントラル公爵の威圧感が凄い。さすが戦場をかけ抜いた獅子と言われるほどだ。顔の傷がよりそうさせている。


 「魔法裁判所での決定は覆せない。絶対なのだ。そして真実眼での裁きであるからには、離婚できるそれなりの理由があったのだよ。それなのに、ジェシカ元妃殿下を責めるのは違うのではないか?」

 「しかし、どんな理不尽でも状況でも受け入れ、王族として骨を埋める覚悟が必要だったのでは?」


 センスター侯爵が反論する。ひょろりとした細身の身体が前のめりになっている。


 「あぁ、それもそうだな。だが、それを決めるのは当人だ。我々じゃない、真実を知らないまま言うのは間違っている、そう言う事だ」

 「カルティアン侯爵は?どう考えている?」


 皆が一斉に俺を見る。おぉ、こわ。


 「妹が王太子妃を全う出来なかった事実は変わりません。ですが、それなりの覚悟を持って、今回、離婚を申請したのでしょうし、それが認められたのも事実ですから。私は、妹が貴族を辞めるにしても、肩身の狭い思いをしてここに居続けるにしても、どちらにせよ彼女の意思を尊重します」

 「君がそんな風だから、好き勝手するのだよ」

 「もう終わった事ですし。それより、今後の事を考えなければならないのでは?」


 面倒くさくなり、後釜のあの女の話題を投げた。


 ミーシャ・ウォルス。ウォルス領が未だに落ち着かない状況で、彼女を正妃とする事に難色を示す貴族も多く、そして、今度こそは我が家から、と正妃の座を狙う家族も少なくないって事だ。

 俺の言葉で、貴族達の中に緊張が走ったのが分かった。誰もかも権力を得たくて仕方がないからな。


 まぁ、殿下の子を身籠っているのは確かだし、怪しいが治癒魔法も使える事から、ひとまず正妃として扱うのか?

 ただ、ユナリアの事もだしアンナの件、ジェシカの流産の件、それら一連の事件にミーシャがどれかに関連している可能性が高いのだ。

 それが明らかにならないと、今後俺がどうすべきか、それを決める事はできない。


 ただ言える事は、俺は大切な家族と友人達を守るために戦うだけだと言う事。

 思惑が渦巻く中。俺は自分の信念だけは見失わないよう気を引き締めた。





 「カルティアン侯爵」


 やっと息苦しい部屋から抜けられたと思って早足に王宮を出ようとしていたのに。

 ガーディン侯爵に呼び止められて、俺は内心で舌打ちをした。


 「何か御用でしょうか?」

 「君は相変わらずだな。それでよく侯爵当主をやっているものだ」

 「側近が優秀なもので。後、意外にも俺も勉強以外なら優秀なもので」

 「生意気な性格も変わらずだな」

 

 俺は無視する。

 早く要件を言いな。こんな中身のない会話をしたくて呼び止めたんじゃない事は明らかだ。


 「それで、本件は何でしょうか?」

 

 俺の確信的な言い方にガーディン侯爵はずいっと近づくと声を低くして俺だけに聞こえるように言った。


 「リオン・フロント。君の親友だ」


 やっぱりな。


 「彼をいるべき場所へ戻す。その気はないか?」

 「私に謀反の協力をしろと?」

 「エイドリアン殿下より、彼の方が相応しい。そう思わないか?」

 「まぁ優秀すぎるのは理解できますね」


 ガーディン侯爵が真面目な顔で見つめてくる。


 「……彼はあのチュリアナ王妃の子孫だ。優秀で当然なのだ。彼こそ王に相応しい」

 「言葉に気をつけた方がいいですよ。私がうっかり口を滑らせるかもしれませんから」

 「それはない。誰かを蹴落とすほど君は政戦に興味もなければ権力も欲していないからな」

 「それを分かっているなら、私にそんな事提案するのは無意味だと理解しているはずでは?」

 「でも、状況は悪い。そうだろう?」


 確かに、リオンは命を狙われている。

 王位継承権があるなら、魔法裁判を利用した事で貴族籍を捨てたとしても、その命は永遠に狙われ続けるだろう。

 殺すか殺される(やるかやられる)か。

 

 「親友を助けたいとは思わないのか?」

 「……一つ。なぜ、ガーディン侯爵様はリオンにそこまでこだわるのですか?」


 敵か味方か。


 「我々の一族はチュリアナ王妃の側近であったのだ。すでに知っているのだろう?主を取り戻したいと思うのは当然ではないか」

 「そうでしょうね。では、もう一つ質問が」

 「なんだ?」

 「リオンを立てた暁には、その横に据えるのは?」

 「勿論、娘のテリアに決まっている。テリアもフロント子爵を気に入っているからな」


 まぁ、そうだよな。

 でも良かった。これで俺はどうすべきか分かる。


 「そうであるなら、私の答えは1つです。お断りします」

 「親友を助けたくはないのか?」

 「言ったでしょう?あいつは優秀だ、自分の事は自分で解決しますよ。それに、あいつの気持ちを無視するのは親友としてできませんからね」


 俺が他の令嬢との結婚を薦めたとなれば、それこそ俺が殺されそうだからな。


 俺はリオンにもジェシカにも、本当の意味で幸せになってほしいから。


 「お力になれず、申し訳ありません」


 怒りで顔を赤らめるガーディン侯爵に一礼をして俺は去る。不敬だと生意気だと思われてもいい。俺は俺だから。


 だがこの行動がガーディン侯爵の気に触り、強行手段に出るとは思ってなかったんだ。

 

 ごめんよ、親友。



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