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51.アンナの娘

第二章始まります。

またお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願い致します。


 「アンナの……子供……こども?」


 私はふらふらと歩き出そうとして躓き、フロント子爵に座らされる。

 子供がいたの?そう言えば、やたら妊娠に関して詳しかったし、それを聞いた時何か言おうとしてたわね。


 「抱いても……?」


 フロント子爵に聞けば頷く。

 私は手を伸ばしてその小さな子をティアナから受け取った。愛くるしい緑色の目はフロント子爵の方に似ているが、その他の造形はアンナそのものだ。

 こて、と頭を傾けているこの小さな子を残してアンナは亡くなってしまった。私のせいで、この子から母親を奪ってしまった。


 「ごめん、ごめんね……あなたのママを守れなくて」


 私はぎゅっとその子を胸に抱く。小さくて柔らかくて温かい。アンナの子もすりすりと私の胸に顔を押し付けて嬉しそうにしている。

 まだまだ母親が必要な時期であろうに……。

 

 もう一度ぎゅっとしてから、顔を覗き込んだ。


 「ジェシカちゃま……やわりゃかい……」

 「もう名前を覚えてくれているの?賢いわね、ママ似なのね」

 「あい。アンナ、ジェシカちゃまに褒められて、うれちい、でちゅ」

 「そう……アンナ可愛いわね……え?あの、この子の名前もアンナなのかしら?」


 違和感に私はふと気付いて聞いた。

 それに、年齢にしては言葉が凄く発達しているような……何歳なのかしら。


 「それに、何歳?」


 私の問いかけに神妙な顔をしているティアナとお兄様。フロント子爵を見れば、呆れたようにため息をついて、私からその子を引き抜いた。


 「あっ、お兄ちゃま、ひどいっ」

 「いい加減にしろ、ほら、自分で言ったらどうだ」


 私は何が何だか分からず呆けていたら、その子は短い手を挙げてこう言ったのだ。


 「あいっ。わたちは、アンナ・フリョント、十七ちゃいでちゅ」


 それを聞いても尚、理解できなくて皆んなを見渡せば。フロント子爵がその子を抱えながら言った。


 「そうですよね、申し訳ありません。事情をご説明します」



 


 「要はこういうことかしら。アンナは死んだと思ったけど、目が覚めたら自分の子の中にいて、アンナの子のアナベラはその身体で眠っている状態。そして、アンナの身体も死んでいるように見えるが、魔力が僅かに残っていて死んでいない……?」

 「おおかた合っています」

 「そんな事って、ありえるの?」

 「あり得ているから、アンナがこの子の中にいるんだ」


 オーラントが腕を組みながら難しい顔をしている。


 「きっとリオンたちの血筋が関係しているんだろうけど」

 「私もこのような事は聞いたことがなくて」

 「あたちもでちゅ」

 「そ、それじゃあアンナは今どこでどのように……」

 「ひとまず落ち着いてから葬式をと考えていましたが、こんな状況なので別室で保存魔法で維持しています」

 「そうなの……」


 アンナの話によれば、アンナを死に追い込んだのはミーシャ様で、禁術の魔法で魔力と生命力を奪われた。そして、ユナリアは彼女の所業であって、私の流産も彼女の仕業である可能性が高いらしい。

 

 私はアンナを抱き寄せて彼女の柔らかな髪の毛に顔を埋める。


 「ジェシカちゃま?」

 「辛かったでしょう?苦しかったと思うわ。そんな思いをさせてしまって、ごめんなさい」

 

 アンナは目に涙を溜めて私の胸に顔を埋めた。


 「痛いし、くるちいし、何より……ベラとお兄ちゃまに会いたかった」

 「アンナ……」


 私は震える背中をぽんぽん叩く。フロント子爵が苦しそうな顔をしている。


 「アンナ、もうあなたに寂しい思いはさせないわ。だから安心してね」

 「あい……」


 身体は幼児だからか、うとうとし始めて寝入ったアンナ。寝顔も天使で癒される。ティアナにアンナを任せて別室に移動しに行った。


 「フロント子爵……アンナは、戻れるのでしょうか」

 「何とも言えないのです。助け出した時は既にアンナの身体は生命活動を終えてました。でも、魔力は生きていなければ宿りません。アンナの身体にはその魔力を感じる……不思議な現象なのです」

 「でも、チュリアナ王妃のお子様は死から再び生き返ったから……あなた達がいることになるのよね?」

 「恥ずかしながら、そこも詳しくは知らないのです」

 

 フロント子爵が考えるように続けた。


 「ただ、仮説はいくつかあります。1つは私達の身体が皆とは違って特殊な何かがある……魔力を作り出す器官が違うとかですね」

 「普通は心臓よね?それが別に?」

 「ええ。そうすれば、心臓が止まっていても魔力は作り出される。それでアンナは魔力を使って身体を維持しつつ回復させている可能性が1つです。2つ目は身体は死んでいるが、意識つまり魂が残っているため微量に魔力も残っている」

 「その場合は、もう生き返ることは不可能だと?」

 「……そうなりますね」

 

 沈黙が流れる。

 もしそうであった場合、どうやってアンナに伝えればいいのか。


 「この2つは私たちの特殊な魔法である生命力を付加吸収させる能力からきていると考えます。つまり、アンナが死ぬ直前に生きたいと強く思い魔法を発動させて、自分の生命力と魔力を同じ肉親であるアナベラに付加させた」

 「でもよ、その仮説だと魂も移れることになれば、ジェシカとお前の時はどうなる?」

 

 私はあの時の口付けと先程の出来事も思い出し、頬が熱くなった。フロント子爵は平然としているからちょっと悔しい。


 「俺達と違うことは、アンナ達が肉親だということだ。魔力は血液と強く結びついている。肉親では何か特別な方法があると考えたら、付加と同時に意識も引っ張られて今の現象が起こっている……」

 「肉親の場合は触れずとも可能だと?」

 「1つの仮説だ。それをどうやったのかさえ分かっていないのだから」

 

 難しい。チュリアナ王妃の記録があれば少しは分かったかもしれないけど。


 「あと3つ目の仮説だが、禁術の魔法の影響を受けてイレギュラーが生じた」

 「そう言ってしまえば全て片付くな」

 「あぁ、考えることが多すぎて投げたい思いだからな」


 フロント子爵が腕を組み疲れた顔で笑う。あまり寝てないんじゃないかしら。


 「いずれにしても、俺はアンナの一件を調べるために叔母の家に行ってみようと思う」

 「叔母さん?」

 「今はもう亡くなっていないが、屋敷はそのままあるのです。私達が幼少期よく滞在していた場所でして。魔法の研究室があって私はそこで魔法を学んでいました」

 「そこに何かありそうなのか?」

 「叔母さんの執務室だけは入ったことなかった。大人になってからだと言われて入らせてもらえなくて」


 駄々をこねる幼いフロント子爵が目に浮かぶ。


 「じゃあ、私も行くわ。もう何もないもの」

 「……ジェシカ様も?それは無理です、いけません」

 「なぜ?」

 「なぜって……そもそも外に出ることが危険だからです」

 「お前と一緒にいると危険だものな」

 「うるさい黙れ」

 「変身魔術使えばいいじゃないか」

 「ジェシカ様は壊滅的に魔法が下手くそだ」

 

 ひどい言い方にムッとする。


 「お前がまた魔力をジェシカに与えてやればいいじゃないか」

 「冗談言うな、それだけではできない」

 「理性もとんじまうからな」

 「……あれは至って応急処置で……まぁ、それは置いといて。そもそも、変身魔術は複雑で難しいんだ。アンナでさえ習得するのに半年は掛かった」

 「そんなに……」

 「仮に俺があなたに魔力を増幅させたとしても、それをジェシカ様自身が使いこなせなければできない」

 

 そうか。昔から魔法のセンスはなかったものね……あれ、でも。そういえば以前つけていたピアスは?


 「貴方が付けていたピアスは変装魔術とは違うの?アンナだって確かそうよね?」

 「あれは、そうですね。変装魔術の独自の術式をピアスに込めて身につけていた。常に自分の魔力が一定に流れるようにしていたのです」

 「じゃあ、それを私に作って?それを身につけていればいいじゃない」

 「……………本気で、言ってます?」

 「え、何が」

 「鈍い妹を持ってすまない」

 

 な、何々?私何か変なこと言ったのかな!?


 「ご自分の発言にはしっかりと責任を持って下さいね。明後日に行いましょう」

 

 あーあ、とお兄様が呟いている。


 フロント子爵の目が本気だ。何に本気なのか分からないけれど何かに本気なことは私でも分かった。


 




 

これからフロント子爵のターンが始まっていきます……それが早く書きたかった笑


お読み頂きありがとうございました!

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