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48.それぞれの


 エイドリアンside


 「まだ見つからないのか?」

 「は、はい。転移魔法を使えば結界に跳ね返されて、そのまま転移の間に飛ぶはずなんですが……」

 「ちっ」


 僕は苛々して書類を乱暴に置いた。

 あの憎いフロントらが転移魔法で脱走してから随分経つのに、消息不明のままだった。

 見つけ次第、ジェシカの前で処刑してやる。いや、処刑する前に、フロントの前でジェシカを痛めつけるのも悪くないかもしれない。

 未だにジェシカは抵抗してフロントを擁護している。それにこの前は離婚なんていう話を持ち出してきたが、論外だ。

 

 離婚などするするはずない。

 ジェシカが抵抗する限り、あそこで、一生僕のために生きればいい。

 また僕を求めるまで身体に教え込めばいい。人は苦痛と快楽によって精神が崩壊すれば嫌でも間違いが正しいとさえ思い込むはず。そうすれば、いつかは僕の思い通りだ。


 「エイドリアン殿下。国王陛下から緊急の呼び出しです」

 「父上が……?」


 僕は珍しい呼び出しに訝しながら父上の執務室へ向かった。来訪を伝えてドアを開ければ、怒りの形相の父上につい後ずさってしまった。


 「陛下、御用とは?」

 「なんて事をしてくれたんだ、お前はっ!!」

 

 机をバンっと叩き低い声で話す父上。これまで叱られる事も怒鳴られることもなければ、褒められた事もなかった。初めて見るそんな父親に反抗的な気持ちで返した。


 「何のことでしょうか」

 「これを見よ」


 僕は近づき書類を手に取る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

王宮各位様。


 ジェシカ・ルームス殿下より離婚申請があり、エイドリアン・ルームス殿下から受ける身体、精神、性的虐待があることが承認された。それは生命活動にも影響する極めて深刻な状況であり、緊急でジェシカ殿下の安全確保が必要だと判断された。

 よって、今日をもってその2人の婚姻関係はここに終了とすることを認める。


 尚、これは公的文書であり、これに反論した場合は多額の慰謝料を支払うこと、又は、記録映像、記録文書の流出もあり得る事を忘れなきよう。


              教会 魔法裁判部


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   

 「な、なんです、このふざけた文書は……」

 「教会裁判所からだ」

 「まさか、王族でありながらそれを利用したと?」

 「お前は何をした?こんなに大事になるほどの事をしたというのだな?」

 

 言葉に詰まる。確かに多少分からせようと無理やり暴行をした事は認める。けれど、それは僕たち夫婦の問題であって、他者が口を挟むべきではない。それも王族の僕たちのことで……。


 「私は王族です。これは侮辱ではありませんか?なぜ、他人私たちの関係を口出しされるのですか?なぜ、言いなりにならねばいけないのです?」

 「魔法審判を求めるほど、ジェシカが追い込まれていたと考えられないのか?自分の身分を捨ててまでな……これは決定事項なのだ。真実眼を持つソルダム首長により下されている。それを曲げる事はできない」


 馬鹿馬鹿しい。真実眼?そんなもの、王族の僕が否と言えば否だ。

 僕はその公的文書とやらを握りしめた。途端に胸が強く痛んで膝をつく。ふざけるな。


 「真実眼の影響を軽く見るな。破棄などすればその者に跳ね返るぞ」

 「……父上。離婚はしません。ジェシカと話をして取り下げさせます」

 「……出来るのか?」


 離婚などと言うスキャンダルはイメージが良くない。出来れば父上もそうしたいと考えているはず。


 「いやでもそうさせます」


 僕は書類を手に部屋を出た。

 こんな馬鹿げた事、ジェシカに取り下げさせ分からせてやる。



 



 フロントside


 転移魔法で跳ね返りを受けたが、俺たちは無事にフロント子爵邸に来ていた。とはいえ、ティアナと2人その跳ね返りで満身創痍で、邸宅に着いた途端、倒れるように寝入ってしまったのだ。


 あれは焦った。転移した途端、引っ張られるような感覚があって、ティアナの焦る声。一瞬、転移の間が見えたが、咄嗟に転移魔法を修正して王宮の林に落ちたのだ。

 すぐに、アルジェを呼び寄せ事なきを得た。


 体力を回復させるのに、だいぶ時間がかかった。

 あれから、数日も経っており俺は焦っていた。早く王宮に戻りジェシカ様を助けたい。

 あの狂った王太子殿下に何をされているか。だが、何も策なく乗り込むわけにもいかず、かと言って犯罪者とされている自分が堂々と行けるはずもなく……。


 悶々とした思いで、自室に寝かせたアンナを訪ねた。


 まだ死んでいるとは思いたくなかった。ひとまず保存魔法で身体の壊死はしていない。この忙しい中、アンナを供養するのは落ち着いてからが良いと思ったのだ。

 

 アナベラはどうするのかと、アンナに呟きながら腕に触れれば。

 不思議な事に、アンナの身体は冷たいが微かに魔力の流れを感じたのだ。


 脈もなく瞳孔も縮孔しており呼吸もない。明らかに死亡の所見があるのに、この微力な魔力は何なのか。

 不思議な現象に訝しがりながら、アンナの持っていた魔道具を手に取った。その魔石に光はない。ジェシカ様が持っていた物と同じ魔道具。きっと、これで何度も何度も連絡が入っていたのではないだろうか。

 それを想像し、やるせない思いになる。悔しかっただろう……。


 アンナの髪を撫でて部屋を出た。

 アンナのためにも、ジェシカ様を助けに行かねば。


 ジェシカ様……。


 ふとあの時の事が思い出された。


 別れ際に触れた彼女の指、そしてその指を自分の唇に持っていったあの行動。

 それを思い出して唇が熱くなる。あんな事されたら、自惚れでもないと勘違いしてしまいそうだった。

 

 自分の理性を保つのもなかなか限界に感じていたが、あの行動をされれば仕方ないと思う。

 次会った時、自分を抑えられずに彼女に口付けてしまうかもしれない。

 

 俺は頭を振った。

 アンナが亡くなったというのに、こんな事を考えてしまう俺は最低だ。


 「ほんとに、どうしようもない最低な変態野郎だな」


 そう呟けば。


 「何が変態なの?」


 その声に俺は振り向き驚愕した。

 そんな事、あり得ない……。


 口を開けたまま、まか不思議な状況に固まったのだった。




 オーラントside


 手のかかる親友から連絡があって、脱走したがジェシカを助けたいから手を貸せ、とお願いじゃなくて命令された。


 おいおい、なぜまた己の命を消そうとする敵陣に乗り込んで行くんだ。

 という言葉は飲み込む。

 それほど、お前にとってジェシカは特別なんだもんな。


 それに、既に俺たちカルティアン家は冤罪といえど犯罪者に手を貸した共犯者だ。

 ふざけるな、なんて言わない。親友のためなら命だって惜しくない。そうやって、リオンもジェシカのために命を捨てようとしたが、まぁ、それをされた側からしたら、迷惑な話だ。

 俺だって、ふざけるなと怒っているだろう。

 

 人間って自己満足の塊さ。


 という事で、今俺の前にはその可愛い親友が王宮に乗り込むために準備をしていた。

 王宮から脱出して、既に5日は経っていた。


 「俺が結界魔法を通過すれば、それが魔法部にバレるだろう?」

 「当然だ」

 「だから、2人で結界を通過して俺はジェシカ様を助けに行く。オーラント、お前は王宮で問題を起こしてあいつらの目を引いてくれ」

 「はぁ?俺は囮か?」

 「お前の妹を助けるためだ」

 「そんな言い方ずるいな。それに、無理やり結界を壊して通り抜けた挙句、脱出に手を貸した親友を囮にさせるのって、お前鬼畜だな」

 「出来ないのか?」

 「なわけないだろう。俺を誰だと思っている」

 「天下のオーラント様だ」

 「うむ」


 仕方ない、親友と妹のためにこの身捨ててやるか。


 「でもよ、助け出したところで、ジェシカを王宮から出す事はできないだろう?」

 「……」

 「まさか……誘拐するつもりか?」

 「既に犯罪者だ、どのみち犯罪者だ」

 「いやいや、2人抜け出せたとして逃亡して、結局捕まって殺されたらどうすんだ。ジェシカがそれを望まなかったら?」


 リオンは動きを止める。


 「……もっと冷静になれ」

 「すまない」


 その場に座り込み頭を抱えるリオン。


 「今にも、あいつにいいようにされるジェシカ様を考えると……気が狂いそうなんだ」

 「何があった」

 「……」

 「はぁ、方法はない事はない。が、お前自身の地位も金もプライドも捨てる覚悟があれば、だがな」

 「……なんだそれは」 

 「お前の記憶を魔法裁判部へ送り、無実を証明してもらえばいい」

 「記憶を……魔法裁判部に、か」


 リオンはしばらく考えていたが、首を振る。


 「いや無理だ」

 「お前なら記憶を取り出して送ることできるだろう?何たって天才だからな」

 「だが……」

 「助けたいんだろう?王太子殿下とのやりとりと、ジェシカを襲っていないことが分かるものを提出すればいい」

 「……それは側から見れば、手を出したようにも見えるかもしれない……」

 「お前、何をした」

 「……あれは至って俺は悪くない。ジェシカ様が煽るから……」

 「お前……まさか、本当に……」

 「あぁ、理性を止めれなかった」


 何やってんだこいつは。いくら何でも、好きだからと治療だからと言って王太子妃を()()なんて……。

 俺は驚愕と少しの好奇心で口に手を当てたまま固まっていれば。


 「でも、そうだな。自分の罪がなくなれば動きやすくなる。それに、ここまで来たら彼女と共にいたい……分かった。記憶を送る」

 「いや、ダメダメダメ。絶対ダメ、お兄ちゃんそれは許せないっ」

 「はぁ?今送れと言っていただろう?」

 「だって、それはもうプライバシーの侵害だ」

 「仕方ないじゃないか。治療だと認めてもらえれば可能性があるだろう?」

 「でも、◯◯◯行為はダメだ、その流出は許さない」

 「っは!?なんだって!?」

 「だから、◯◯◯したんだろ?ジェシカと?治療の一環だったとしても、それを送るのは……」

 「ばっ、馬鹿かっ!鬼畜か!俺はジェシカ様に口付けしかしていないっ!!」

 「あ?口付け?キスか?」

 「当たり前だろうっ!!」


 あぁ、なんだ。

 真っ赤になる親友に俺は内心、安心した。肩を叩くと、ふざけるなと払われたが、俺はこの親友が可愛すぎて可愛いすぎて仕方なかった。

 こんな状況で不謹慎だが、ちょっとは明るい話をしてもいいじゃないか。少しは笑えよ。


 「じゃあ、とりあえずその記憶を取り出してみるか」

 「もう黙れ、馬鹿」

 

 リオンは手際よく記憶を取り出して、小瓶に入れた。部屋に一旦戻り書類と記憶を保存した魔道具を、魔法で魔法裁判部へ送る。


 これで、後は待つのみだ。


 こいつが早く報われる日が来ればいいと、俺はそれだけだった。

 

 

 


 

          

リオンが送った記憶、ジェシカとのシーンは送ってませんよ!誰にも見せたくないですから笑

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