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4.日々の癒し

ブクマ、評価して下さっている方、ありがとうございます。とっても嬉しいですし、励みになります^ ^



 

 あれから、私たちは多忙な日々を過ごしている。エイドリアン様は変わらず私に対して優しく、忙しいにも関わらず、ほとんど毎日顔を見せてくれた。

 そんな優しさが嬉しく、そして私の胸を痛めた。私に甘い口付けをするわけでもなく、甘い夜があるわけでもないことが、私をより不安に、より惨めにさせた。


 そんな事は知らず、エイドリアンは私を夢中にさせるのだ。

 さりげない気遣いも、落ち着いた優しい声も笑顔も、周りから慕われる彼を見て、全てが愛おしくて、彼に全身全霊、愛されたくて仕方なかった。


 「どうしたら、彼に愛されるのかしら」


 「今でも、とても愛されているのではないですか?」


 侍女のアンナが不思議そうに言った。

 

 「大切にされている事は分かるの。でも、彼が私に恋しているわけではない……いえ、贅沢な悩みね、ごめんなさい」


 「ジェシカ様……」


 そうだ、私達は政略結婚で待遇も悪くなく、大切にしてくれている。これ以上を求めるのは我儘だ。

 そんな私を見てアンナは言った。


 「それでも、好きな人に愛されたい、そう思うのは自然な事です。愛し合って子供が生まれて、年老いても手を繋いで……憧れますよね」


 うっとりと空を見上げるアンナはとても可愛い。


 「王太子殿下のルックスに優しさ、誰だって愛されたいと思いますよ」


 空想から戻ったアンナの目には、熱い決意が宿っていた。


 「ジェシカ様、大丈夫です。私の魔法で王太子殿下がコロコロ転がるほどの素敵なプレゼントを作りましょう」


 「コロコロ転がるとは、笑わせる気なの?」


 「違いますよっ!」


 ガッツポーズをしながら否定する彼女に私と筆頭侍女のアマンダは呆れながらも笑う。アンナのその明るい性格が、不安な気持ちを軽くしているのだ。


 アンナは学園時代に悪女とされたテリア様と一悶着あったあの下級貴族の子だ。

 あの時、テリア様がアンナのお兄様との縁談を進めたいからとアンナに詰めかけたらしい。しかし、それは当事者同士の問題だとアンナがはっきりと断った事が気に食わなかったのか、執拗にアンナを責め、最終的には家の存続を危惧させる発言をしていたのだ。


 その後、アンナはしばらく学園を休んでいたらしく見かけなかったが、私の王宮入りの際の侍女募集に現れて今に至るのだ。


 「あの時、ジェシカ様に救われたのです。高圧的な高位貴族も多い中、王太子殿下の婚約者でありながらもお優しいジェシカ様のために、私は生きると心に決めています」


 彼女は私より1つ年下だ。身体が弱く、学園で見かけない間、領地に戻っていたらしい。学園の卒業はどうするのか聞いたら、


 「結婚するつもりもないので、あそこにいる意味もないと思いまして。先日、卒業課程の試験をパスしてきました」


 これには、私も筆頭侍女のアマンダも驚いた。確かに、学園では魔法課程や騎士課程、文官課程などの専門分野を取らず、普通科の学生は、主に令嬢達であるが、婚約相手を探し人脈を広げるのが通う主な理由だ。

 そのため、早くに結婚する際など卒業課程の試験を受けられるのだが、その試験もあってないような物である。

 しかし、アンナは魔法科を専攻していたはず。専門科で卒業課程試験を受けてパスするのは、とても優秀だということなのだ。


 結婚するつもりがないのは気になるが、彼女のやる気と意気込みに感動し即採用したのだ。

 時が来ればアンナにも素敵な相手を探そうと心に決めて。



 彼女は物に魔法をかけて贈り物用の魔道具を作るのが得意だ。

 箱を開けば可愛らしく踊る人形と伝言が歌となって流れる物、ブーケの香りと共に伝言を楽しめる物など、アンナが思い描いた通りに贈り物を作ることが出来るのだ。

 普段より人を笑顔に幸せな気持ちにさせる明るい彼女こその魔法なのかもしれない。

  

 「アンナ、これは……?」


 「ジェシカ様、よくぞ聞いてくださいました。これは、離れて過ごす恋人家族と話せる物です」


 「このお花が……?」


 植木鉢に入った一輪のガーベラ。それが2つお茶や菓子が並べてある机に置いてあった。

 午後の気持ちの良いティータイム、天気が良いからと王太子妃宮ではなく、王宮庭園のテラスに来ていた。

 ちょっとした休憩や談話など王宮にいれば誰でも使えるこの場所は、とても人気のある休憩所だ。


 「自信作です。まず説明を……はじめに使用する時はこのお花にお水を与え何でもいいので話します。すると、魔法が作動して相手側のお花も同じように作動します。相手も同じようにお花にお水を与えれば、こちらにも反応が来る形になっています。ちなみに、昼間たっぷりとお日様に当たれば当たるほど、長く対話できます」


 「凄いわね……お花にお水や日光を与えて使えるという発想がまた可愛いわね」


 「ありがとうございます。でも、これだけではないのです」


 ふふふ、と楽しそうに笑ってからアンナはガーベラを1つ抱えると、「試してみましょう」とテラスから見えない垣根の裏へと歩いていった。


 私とアマンダは好奇心でガーベラを見る。しばらくして、ガーベラが光ると《ジェシカ様、聞こえますか?》と声が聞こえてきた。

 目を見開き驚くアマンダを横目に、わくわくした気持ちで側にあった水を与えて声をかけた。


 「聞こえるわ、アンナ。凄いわね!」


 《そうでしょう?それにですね……例えばですけど》


 ガーベラを見つめていると、アンナの声とともに花が動いた。


 《私、もうお腹がぺこぺこです》


 まるでアンナの表情が分かるかのように、ガーベラがへにゃりと動いた。


 「まぁ、可愛いわ!」


 《そうでしょう?こちらの花は、とても楽しそうに揺れてますよ》


 「本当に凄いわね!アンナ、あなたは天才だわ」


 《ありがとうございます!でもなんだか気まぐれなのか、動いたり動かなかったりするのです……恐らくお日様の浴び具合だったり、その人の感情表現が低かったりなのかなと思うのですけど……》


 ガーベラがうーん、とでも考えてそうな動きをする。可愛い、見ているだけで癒される。

 しばらく対話をしたが、少し興奮して喋ったのと日差しが暖かくぽかぽかしているからか、欠伸が出そうになった。


 「アンナ、ありがとう。戻ってきていいわ……なんだか気持ちよくて眠くなったわ」


 夜寝る前にエイドリアン様の声を聞いて、リラックス効果が期待できるかな、と想像していたら。


 急にガーベラが歌い出したのだ。それも、子守唄をなかなかの音程を外して。


 「えっ!?」


 《わっ!!》


 ドタドタとアンナが慌てて戻ってきた。その間も音痴な歌は続く。


 「申し訳ありません。歌う魔法は使ってなかったのですが……え、どうして、いつの間に」


 アンナが口に手を当てて考える。


 「それに、何という音階不細工な歌を歌うんだ……どこで聞いたのよ」


 「それはお前だ、アンナ」


 「っ!お兄様!」


 アンナがぶつぶつ呟く背後に、アンナと同じ茶髪の青年が現れた。


 「ジェシカ王太子妃殿下にご挨拶申し上げます。急にお声をおかけして申し訳ありません。なんでも、妹の魔道具がご迷惑をおかけした様子でしたので……」


 フロント子爵、アンナの兄だった。


 「気にしていないわ。顔を上げて下さい、フロント子爵」


 フロント子爵が顔を上げる。アンナと同じ茶髪は後ろで束ねられ、よく似た瞳はなんだか吸い込まれそうな不思議な瞳をしていた。

 とても優秀だと聞いており、それに加え端正な顔立ちが、彼を近寄りがたい雰囲気にさせているのだが、アンナによく似ているからか、なぜか親近感が沸いた。

 綺麗な顔立ちを見れば、テリア様が縁談を申し込む理由も分かる気がした。


 「お、お兄様、どうして……」


 「お前に伝言を伝えに来たのだが、すぐそこで、耳慣れた音を聞いたからな、急いで来たんだ」


 「はぁ?耳慣れた?まさか、あんな歌でもない歌をどこで聴くのよ」


 「いつも歌っているじゃないか、アンナが」


 ……。


 「自分では歌って気付いていないだろうけど、お前の歌だあれは」


 「な、なんてこと……」


 音痴だったの?と手にガーベラを持ってショックを受けているアンナ。勿論、ガーベラもしょげている。


 「あ、あの、えーと」


 「きっと、私の歌を聞いて覚えていたのでしょう。ジェシカ様の眠い、という感情に反応して歌い出したのだと思います」


 眠いから、子守唄を歌ってくれる。なんて健気なガーベラなんだろう。ただ、その歌は決して穏やかな旋律ではないが。

 

 「これは、失敗です……また出直します」


 「変なものを妃殿下に渡すんじゃない」


 そうフロント子爵に釘を刺されて、ますますガーベラ、いやアンナが項垂れた。


 必死にアンナをフォローし、なんとか彼女の気持ちを立て直し、ティータイムを続けることになったのだが。


 「フロント子爵もご苦労様です」


 そう彼に声をかけたら、なんだか先程より不機嫌な様子で頭を下げて帰っていった。


 「ジェシカ様、申し訳ありません。お兄様、私が不敬をしたと怒っているのです、いつもいつも迷惑をかけるなって小言がうるさくて」


 そうなのか……なんだか、とても冷たい目をしていて、挨拶の時の彼と違った様子で気になった。


 嫌われているのだろうか。あそこまで冷えた表情を向けられたこと少ない私は、戸惑いを隠すようにアンナへ大丈夫、と声をかけたのだった。


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