38.彼の温もりは夢の中で
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私は真っ白い空間をふわふわ漂うように歩いていた。
どこかしら。
しばらく何もないその場所を歩いていれば、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。そして、子供のすするような泣き声が聞こえた。
泣いているわ、行かなきゃ。
泣き声を辿り私は進む。すると、当たり一面にカモミールの花畑が広がり、胸いっぱいにその匂いを嗅ぐ。
懐かしい匂いはこれだったのね。
あら、あれは……。
幼い頃の私だった。
膝を抱えて泣いている。あぁ、昔は何かあればカモミール畑に来て、1人泣いていたっけ。
幼い私に声をかけようと口を開く前に、横から誰かに遮られる。
「ジェシカ様。ここにいたのですか」
幼い頃のフロント子爵だ。優しい顔にさらさらなブランドの髪がとても綺麗だ。今見ても女の子みたい。
「リオン……ぐす、何でもないわ」
「何でもないわけないでしょう?泣いているのに……何があったのですか?」
「……全然、治癒魔法ができなくて。あなたにせっかく習ったのに。私はやっぱりぐずで役立たずよ」
「そんなことありません。十分頑張っていますよ」
「頑張るだけなら誰でも出来るわ。私はお兄様やティアみたいに何か才能があるわけでもないし……羨ましいの。私だけ、普通だわ」
「普通で何が悪いのですか。それに、才能がなくてもあなたにしかない魅力がたくさんあるのです」
「魅力?そんなものないわよ。顔だって普通、この地味な茶髪だってありふれているわ。せめて、この髪があなたのようなブランドであればまだ良かったのに」
「ジェシカ様。自分をそんなに卑下してはいけません。僕からすれば、あなたのそんな表情もその少し癖っ毛な髪もとても魅力的で……愛しいです」
「リオンったら、そんな恥ずかしいこと言わないでよ」
「ほら、笑った。そんな笑顔も僕は……とても素敵だと思う」
「またそんな事言って。上手いわね」
「本当ですよ、そうやって意外と単純でころっと機嫌が直るとこも魅力的です」
「もうっ、リオン、揶揄ってるわね!」
泣いていた私が、いつの間にかおかしそうに笑っていた。
「ほら、行きましょう。オーラント様もティアナ様もお待ちでしたよ」
「うん、ありがとう、リオン」
私は差し出された手を握り、2人歩き出す。
「帰ったらその髪結ばせてね。昨日、綺麗に編み込めたから今日も可愛く出来ると思うの」
「……またですか。まぁ、あなたの好きなようにして下さい」
「ふふっ、ありがとう」
2人の小さな後ろ姿が懐かしくて泣きそうになった。それに、どこかぽっかり穴が空いたようで、とても心細かったのだ。
とても大切な何かを失ったような……。
私もリオンに会いたい。
会って髪に触りたい、何も考えずに彼に抱きしめてほしい。
でも、なんだかそれは、してはいけないような気がして切なくなる。夢でもいいから、彼に触れられたらいいのに。そしたら、このわけもわからない損失感を忘れられる気がした。
私は何か大切なことを忘れている。
ふいに懐かしくて暖かな光に包まれるような感覚が全身を纏う。それは徐々に強くなって心地よい感覚に誘われていった。
ふわふわしていた足が地についていくようだった。
『ジェシカ様、大丈夫。私があなたを助けますから、だからいかないで』
頭の中に彼の声が響いている。
会いたい。
必死に彼を探して走った。真っ白な空間をひたすら進み、光に導かれるように走った。光の道を抜けたら、眩しさで咄嗟に目を閉じた。
細めながら目をこらせば、目の前には彼のグリーンの瞳。そして、唇には熱い感覚。
それを欲していたかのように、私は彼のそれに応える。彼のグリーンの瞳がより綺麗に光った気がした。
夢の中であれば、彼に触れてもいいでしょう?
私はその温もりを全身で感じる。
切ないほど幸せだった。何か欠けている、それを埋めるかのように私は彼を求めた。
全身で彼を感じその損失感を忘れるように彼を求めて、その温もりを胸に抱くように心地よい眠りに誘われていった。
早く夢から覚めて彼の温もりを感じたい。
けれど、覚めてしまえば、恐ろしく辛い状況が待っているような気がした。だから、もう少し、このまま夢の中だけでも、彼の温もりを感じていようかな。




