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3.私を見て


 ウェディングドレス姿の私を見て、エイドリアンは「とても似合っている、綺麗だ」と微笑んで流していた横髪に触れた。それだけで胸が高鳴りエイドリアンを直視できなかった。その時は不安なんてこれっぽっちも感じられなかった。


 夢見心地の中、式は滞りなく進んだ。

 皆、「美しいわね」、「きっと穏やかな仲の良い夫婦になるでしょうね」と私たちを見て言った。

 

 好意的な周囲の雰囲気に安堵する。


 指輪の交換をして誓いのキス。初めてする口付けに胸の鼓動が速くなると同時に期待で膨らむ。

 目を閉じると肩にエイドリアンの手を感じると共に、唇に柔らかな感触。唇に神経が集中しており、そこから指先、足先までふわりとした感覚が伝わった。

 もっと、したい。でも、今は式の最中、これからいつでも、何度でもできる。


 そう己を制して、綻ぶ口元を引き締めエイドリアンを見上げると。

 彼は目を伏せて何を考える表情をしていた。その長い睫毛に隠れている瞳は何を語っているのか……。


 私を見てほしい。


 一気に不安が押し寄せて、咄嗟にエイドリアンの名を読んだ。

 ハッとした表情で私を見ると、すぐさま輝く笑顔で私の肩を抱き、招待客へ向き手を振った。


 それからは、ふわふわとした頭で、ひたすら観衆に笑顔を振りまき手を振った。式後の宴会でも自分が何をしたか覚えていない。ただ、エイドリアンに自分を見てほしい、それだけしか頭になかった。


 そして、疲労を残さないようにと早めに会場を後にした。ここからは、結婚した2人の時間。

 身支度をして緊張と胸のつっかかりを抱きながらベッドに腰掛けエイドリアンを待つ。しばらくすると軽装をしたエイドリアンが、疲れた表情とともに現れた。

 

 待たせた?

 僕?疲れてないよ、君は?

 無事終わって良かったね


 そんな、当たり障りのない会話をして、2人ベッドに腰掛け、しばらく壁を見つめていた。

 そして、エイドリアンが私の手を取って、「怖かったら言って。今から君を抱くけど、いい?」と真っ直ぐな目で聞いてきた。


 「怖いなんて事、全くないです。私は、あなたに全てを捧げる準備はできております」


 そう言うと、エイドリアンは頷き私をそっとベッドに横たえた。

 初めての経験、初めての感覚。頭はふわふわするけど、身体はその都度強張った。エイドリアンが優しく丁寧に触れてほぐして、やっと一つになれた時は、鋭い痛みなんか忘れて幸せな感情が押し寄せた。

 ゆっくり事が進むなか、私は感極まり彼の背中に手を回して言った。


 「エイドリアン様、私、幸せです。愛しております」


 エイドリアンが息を詰めたのが分かった。でも、すぐに優しい、でもどこか魅惑的な笑顔になって、私の額に口付けて言った。


 「ありがとう。ジェシカ、僕も……君を、大切にすると誓うよ」



 窓の隙間から暖かな光が差し込み出すのを見ながら、私は寝ている彼を背に静かに涙を流した。


 私が欲しい言葉は、今日1日聞く事はなかった。


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