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26.禁術の魔法


 「結論から言いますと、恐らく黒ですね」


 王太子妃宮の応接室に来ていた私達。だいぶ疲れていたのか起きてポーションを一気飲みして、湯浴みをさせ、朝食を取らせて、やっと頭が冴えてきたアンナが話し始めた。


 「というと……?」


 「これを見てください」


 私とアマンダはアンナが取り出した紙を覗き込んだ。


 「これは、ウォルス領のユナリア生息地を表しています。こことここはまだユナリアの栽培は可能でした」


 アンナが指差す場所は、ウォルス領の入り組んだ地形にあった。


 「そして、ユナリアが枯れている場所が、このウォルス伯爵邸付近の場所とそこから南下したこの場所です」


 示された場所は、だいぶ面積が大きい。


 「そして、お兄様が作った報告書には殿下達はこのウォルス伯爵邸付近のユナリアを視察している時に体調不良を訴え出しています。そのため、ここのユナリア農地を調べてきたのです」


 アンナは続けた。


 「農地を歩いてみて、魔法の痕跡が僅かにありました。だいぶ、ずさんな後始末でしたね。慣れない者がしたといっていいくらいでした。ただですね、この吸収の魔法は高度な魔法です。ミーシャ様がするにしろ、1人では不可能だと思います」


 確かに、フロント子爵も同じようなことを言っていた。


 「それじゃあ、複数人で?」


 「分かりません。ただ、一つ方法がないわけではないのです」


 「どうやって?」


 「それをお兄様に相談したかったのですが、まだ来てないなんて、珍しいんですけどね。それで、これは推測ですけど、禁術の魔法を使ったのではないかと」


 「禁術の……?」


 「はい、名前の通り禁止された魔法ですね」


 「何がどう違うの?」


 私もアマンダも魔法についてはほとんど無知だ。2人で頭を捻る。


 「通常、私達が使う魔法は生まれた時に備わっている己の魔力を使います。なので、個体差が出てきます……得意不得意といったようにですね。しかし、禁術の魔法は、魔力が少なくてもなくても魔法陣さえあればできるのです」


 「魔法陣に使う魔力はどうするの?魔石とかを使うのかしら」


 「ここで重要なのが、なぜ禁止された魔法かってことです。通常の魔法が自分の魔力、又は、魔石から使う反面、禁術の魔法では生物の生命力を使います……つまり、最悪、死へつながる魔法ということです」


 私達の魔力は、イコール生命力ではない。魔力を使いすぎて底をついたからと言って、直接死へ繋がる訳ではないのだ。

 詳しく言えば、魔力は心臓が作り出していると言っても良い。心臓が各臓器へ血液を送り出すのと同じように、魔力も生成され身体全身へ魔力が行き渡る。そのため、魔力を使いすぎると、頭痛や吐き気、めまい倦怠感など人それぞれの様々な症状として現れるのだ。

 ただ、もし魔力がなくなり次から次へと魔力を無理に生産しようと身体を酷使すれば、各臓器の機能不全に陥り死へ至ることもある。

 大抵、魔力の使いすぎで死亡するケースはこれだ。


 ちなみに、魔石は己の魔力を少しずつ貯めて石にした物であり、魔力に余裕がある者は作り保管している。

 そして、魔物は通常、魔力が高いため常に身体の中に魔石を作り出している。魔物を処分した時に出る魔石はそういうことだ。


 「えっと、つまりミーシャ様は……何かの生命力で禁術の魔法を使った?」


 「うーん、憶測ですが、ユナリアの特徴の滋養強壮が魔力であって、その魔力を吸収するためにユナリア自体の生命力を用いて禁術の魔法を使ったと考えれば、可能です」


 それを聞き安堵した。もし、それが人間や動物などであったと想像してゾッとした。


 「ただ、気になる点が……」


 その時、コンコン、と扉が開き、フロント子爵が渋い顔で入ってきた。

 

 「お兄様。遅かったですね、どうされたのですか?」


 「ジェシカ妃殿下、遅れてしまい申し訳ありません」


 「ううん、大丈夫よ。それより、顔色が悪いけど子爵こそ大丈夫かしら?」


 本当に顔が青白くげっそりしている。フロント子爵の珍しい様子が気になり顔を覗き込めば。彼がさっと私から離れようと仰け反った。


 「あ……嫌でしたね。ごめんなさい、馴れ馴れしくて」


 昨日、彼があの頃の少年だと知って親近感が湧き、これからは仲良くできそうだと調子に乗ってしまった。


 「い、いえ、違うのです。これは……」


 「あ、お兄様、いつもより香水強めね。さては、昨日お風呂に入ってないのね」


 アンナがフロント子爵に近づき、くんくんとした。確かに、いつもより彼の香水が強いような……。


 「なっ、そんなわけあるか!妃殿下、入浴はしていますし、不潔ではありませんから」


 「怪しいなぁ、じゃあ、女?」


 アンナが小指を立てる。


 「下品だそ!どこで覚えたんだ、全く……ちょっと二日酔いなだけです。申し訳ありません」


 アンナは知っていたのか特に何か突っ込むことなく席に戻る。私としては、フロント子爵が二日酔いまで飲むなんて意外過ぎて、そこを突っ込んでほしかったんだけど。


 「お酒……飲まれるんですね?強いんですか?」


 「いえ、強くはないですね」


 「「……」」


 「お兄様がお酒を煽る時は、大抵何かあった時ですよ。そして、お酒の匂いを気にしていつもより香水が強めなのです」


 さすが妹、よく見てる。


 「うるさい、余計なことは言うな」


 「何か悩みがあるのですか?」


 「それは……いえ、特には」


 何か含んだような言い方が気になるが、プライベートを突っ込むほど仲も良くはない、かもしれない。

 私としては、幼馴染と思ってもう少し親しくなれたらいいのだけれど。それは私の勝手な望みだから。


 「そうですか……」


 「お兄様、これ見てください。私じゃちょっと分からなくて」


 アンナがメモした紙を見せる。私達には記号やら文字やら何のことか分からない物だ。

 フロント子爵は紙を取り真剣な眼差しで見つめた。


 「これは、とても古い魔法だ……」


 尚もじっと見つめるフロント子爵。その顔を見て、本当になぜ気付かなかったのか不思議で仕方なかった。こう見れば、整った顔は変わらず男性にしては綺麗な顔をしているし、あの頃の面影もある。


 もしかしたら、エイドリアン様と婚約してから忙しいのもそうだけど、私がエイドリアン様しか眼中になくて周りが見えてなかったのかもしれない。


 「ジェシカ様?どうしたのですか?さっきから、ぼーっとお兄様を見てますが」


 「えっ、いや、その……アンナもフロント子爵も魔法について詳しくて凄いなって」


 「私は普通ですけど、お兄様は魔法大好きですからね。部屋は趣味の本だらけですよ」


 それはフロント子爵らしいから容易に想像できた。


 「アンナ、これはエイドリアン殿下達が下見した農地にあったんだよな?」


 「うん、歩いて回ったから間違いないわ」


 しばらく顎に手を当て思考するフロント子爵。


 「これを見ると、所々魔法の痕跡から魔法陣が浮かび上がってくる」


 フロント子爵が紙に円や記号を付け足しながら説明し始めた。


 「使われている文字や記号が古くて一部分からないが……アンナ、これは復元の魔法でしたのか?間違いないか?」


 「間違いないわ」


 「この魔法陣を簡単に説明すれば、恐らく、魔法陣が描かれている中の土地から、ユナリアの魔力を吸収するという物です。そして、こんなに大きな魔法陣を作動させるために、古代魔法が使われている」


 「それって、さっきアンナが言っていた……」


 「ユナリア自体の生命力、だな。つまり、禁術の魔法か……」


 フロント子爵は資料を何枚か見ながら黙り込んだ。


 「もしかすると……」


 フロント子爵が一枚の紙を指差す。


 「これを見て下さい。エイドリアン殿下に付き添った魔術師の発言です。農地に入ると違和感を感じて徐々に体調が悪くなった……」


 「まさか」


 「そのまさかだ。エイドリアン殿下達は魔法陣が作動している農地に入ったことで、生命力を微量ずつ取られていき、体調を崩したと考えてもいい」


 人の生命力を奪う。

 まさか本当にそんな事が起きたかもしれないなんて、想像したくなかった。




 

 


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