25.閑話(フロント子爵)
書きたかったゾーン。
アンナが帰城してから、夜も遅かったことから、アンナの休息を考えて、情報共有は明日に改めることになった。
帰ってきた瞬間に、死んだように眠っているアンナを起こそうなど、誰も思わなかった。
アンナが起きたら飲ますようポーションをアマンダ殿に預けて、俺たちは帰宅したのだった。
そして、今、オーラントと2人で子爵邸の私室で酒を交わしていた。
「よりによって、ミスイの花を調合して渡すなんて、へましたなぁ。お前らしくない」
「言われなくても分かっている」
そう、魔力を吸収するなんて、この国にそんな高度な魔法を使える者はいない。知っていて使わないように注意していたのに。
つわりで苦しむジェシカ様を見たら、居ても立っても居られなかった。
自分の母もアンナを身籠った時、同じように苦しんでおり、彼女が痩せていく様子を見たくなかった。
「本当にお前は。昔からジェシカのことになれば後先考えずなんだよな、優秀なんだかせっかちなんだか」
「うるさい」
「一途だよなぁ。王太子妃になってるんだし、諦めて好みの女性と結婚したらいいのに。それなりに経験はあるんだろ?」
「……」
「まさか、ないのか……?」
オーラントが両手で口を覆う。その女子のようなしぐさはやめろ。
「そんな、一途すぎる。お兄ちゃん泣けてきたぞ、妹をこんなに愛する奴が近くにいるなんて」
「気持ち悪いから黙っててくれ」
グラスを煽る。
そう、本当に自分でもどうしようもないくらい、ジェシカ様に惚れているのだ。
なのに、彼女は自分ではなく他の男を愛しているのだ。やるせない。
13歳の時、元々病弱なアンナのために、母と自分は田舎の叔母の家にお世話になっていた。自分は学園も始まる年だったから、王都に戻ってくることになったのだが、父は文官として忙しい人で家にほとんどいなかった。そのため、父同士で交流があったカルティアン侯爵家に世話になることになったのだ。
それまで、年頃の子供達とあまり遊ぶことなく、家に籠り魔法に没頭する毎日を送っていた自分は、初めて会った相手にも馴れ馴れしいオーラントや口生意気で自信満々なティアナを見て、来たことを後悔したくらいだった。
王都の奴らは自信過剰で良いイメージがなかった。そういう自分だって偏見持ちの鼻持ちならない奴だったのだが。
鬱陶しい。それが感想だった。
ところが、ジェシカ様は2人とはまるで違った。少し自信なさげで控えめな彼女。逞しい兄と元気な妹に挟まれて育ったからか、あまり我儘も言わず聞き分けの良い少女だった。
『こんにちは。あなたの髪の毛、とても綺麗ね。触っても良いかしら?』
意表を突かれて頷けば、さらりと髪に触れ言った。
『なんだか夜空に浮かぶ絹糸のカーテンみたいね。とっても素敵だわ』
満面の笑みで微笑むから、それ以降、駄目とは言えず、ティアナと2人の遊び相手になったのは、ほとんどジェシカ様のためだった。
裏のない素直な彼女。感情を隠すのが下手で、兄と妹と比べては落ち込んでは泣いて。あの頃から泣き虫だったのは今でも変わらない。
そんな庇護欲そそられる彼女に惹かれて好きになるのに時間はかからなかった。
いつもはどこか自信なさげで暗い彼女が、自分といる時は、満面の笑みで楽しそうにしている。愛おしい、幼いながらも守りたい、そう感じたのだ。
学園が始まるから会えなくなる。学園が始まりタイミングを見て婚約の申し込みを父へお願いすれば。
既に、王命が下った後だった。
絶望した。
王命であれば、あの手この手を使っても覆すことはできない。彼女が他の男と並ぶことを想像して胸が痛んだ。
『そもそも家の家格が違うだろう?相手は侯爵家だ。諦めなさい』
そんな事分かっていたが。自分の間の悪さと準備の悪さに腹が立った。
それからは、魔法と勉強に精を出した。そうしなければ、やるせない気持ちになったから。
学園を卒業して城で働き始めると、王妃教育で登城していた彼女を見かけた。
婚約者の王太子殿下の横で、頬を染めて笑う彼女。
見たくなかった。明らかに彼に恋していた。
胸が裂けたようだった。
あれから、数年経つのにまだ忘れられない自分に呆れた。
ジェシカ様は昔より美しく洗練された令嬢になっていた。だが、そんな彼女の微笑みを見て苛立ちを覚えた。
そこまでして、己を押さえてまで彼の隣にいたいのか。彼女らしさが全くなくなっていた。
もうこの気持ちは心の奥底にしまい、忘れよう。もう以前の彼女ではないのだから。
「なのに、王太子妃になってから関わることが増えて、忘れるなんてできるはずないんだ」
テーブルには空いた瓶が2つ。
「自分を押さえ込んだ彼女を見たら、あの時の笑顔でまた笑ってほしい、そう思うんだ……」
「もう飲み過ぎだぞ、リオン」
「お前に分かるもんか」
「分かるさ、分かるよ。ずっと隣で見てきたからな、お前が一途でジェシカを大切に思ってくれているって」
「このピアスをはずせば、ジェシカ様がまた俺に興味を示してくれるだろうか……」
「いや、重症だな。やめとけよ、それは絶対に」
「出生がバレたってかまうもんか。彼女に触れてもらえるなら、そんなもの……」
「変態だな、お兄ちゃんはそんなポエム聞きたくないぞ。だいぶ追い詰められているな。ほら、もう飲むな、没収だ」
手からグラスを取り上げられる。そのままソファに横になれば、睡魔が襲ってきた。
「全く手のかかる親友だ」
オーラントの呟きを最後に、俺は心地よい眠りについたのだった。
夢にまで出てくるジェシカ様。彼女へ自分の存在を教えた今、気持ちを隠せるかどうか自信はない。そう夢の中で思ったのだった。
彼の不機嫌さと冷たい表情は、ジェシカへの恋心を必死に隠していたのと、エイドリアンを殴りたい感情を必死に我慢していたのです。
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