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24.あの時の


 私はフロント子爵のエメラルドグリーンの瞳を見つめる。


 そして、私はなぜか、小声で聞いた。


 「もしかして……あの時の訓練に来ていた?私とティアナがよく髪の毛で遊んでいた綺麗な子?」


 オーランドが横で、ぶふっと吹き出した。


 「……綺麗な、は分かりませんが、そうです、あの時の少年が私です」


 まさか。だってあの子はとても綺麗な金髪をしていたのに。


 「髪が……茶髪になったの?」


 尚、小声で聞いた。なんだか、申し訳なさが勝ってしまい、恐る恐る、そんな感じだった。


 「あれは目立つので。魔法でこの色にしています」


 フロント子爵がピアスに触れる。


 「なるほど……?でも……」


 私の記憶の中のフロント子爵を探す。あの時の美少年は、本当に笑顔が綺麗で失礼だが女の子のような顔をしていたのだ。


 眉間に皺を寄せ不機嫌なフロント子爵からは想像つかない様子に私は、まだ納得できずにいた。


 うーん、と頭を捻る。

 そんな私を見て、フロント子爵はより一層不機嫌さを出しながら、「本当に鈍い」と繰り返した。


 「だ、だって、髪色が全く違うもの。それに、あの頃のあなたは、今よりずっとやさ…」


 「今よりなんですか?」


 「いえ、何も」


 私の知る彼は、今みたいに眉間に皺を寄せ冷めた目つきをしていなかった。優しい目元に綺麗な顔で微笑む美少年だった。特にキラキラ光るプラチナブランドが綺麗でずっと見ていられた。

 お人形のように遊ばれるなんて、年頃の男の子は嫌だったろうに、文句も言わず付き合ってくれた優しい少年だった。

 

 笑が溢れる。


 「懐かしいわね。あなたの髪でよく遊んだわ」


 そんな私を見て、何を呑気な、とそんな表情で溜息をついた。


 「でも、それなら言ってくれれば良かったのに」


 「……」


 「ジェシカ、男心を分かってないね」


 「なぜ?」


 「そりゃあ、お前を」


 「オーラント!」


 「はいはい、本当に報われないね」


 オーラントが面倒くさそうに言った。

 知っていたなら教えてくれれば良かったのよ、2人してどうしてなのかしら。


 もう一度フロント子爵を見れば、ぱちっと目が合った。吸い込まれそうなほど、綺麗な緑の瞳だ。

 ふいっと顔を背けられる。不機嫌さは変わらずだ。


 手を伸ばし彼の頬に触れれば、ぴくっと眉が動き反応するフロント子爵。


 「……何でしょう」


 「昔はもっと笑ってたのに」


 「私にだって色々あるのです」


 「色々とは?」


 「……オーラント」


 「なんだ?」


 オーラントがにやにやしながら私達のやり取りを見ていた。


 「鈍すぎる」


 「俺も昔からそこは心配していた」


 鈍い鈍いって、確かに私は鈍感なところはあるけれど、だったら教えてくれればいいのに……男の人って。


 まぁ、確かに短期間だったとはいえ、一緒に過ごしていた幼馴染に気付かなかった私がひどいかもしれない。

 不機嫌になって当たり前かしら。


 「ごめんなさい。気付かなくて」


 「いや、そこじゃないぞ」


 「……仕方のないことです。それだけ目まぐるしい日々を送っていたのですから」


 フロント子爵がガゼボに入ってきて、私に座るように促した。


 「その足じゃ、靴を変えてもお辛いでしょう。治しますから」


 そう言って治癒魔法をかけてくれる。ズキズキしていた踵とつま先の痛みが引いていく。


 「ありがとう。フロント子爵」


 彼が下から見つめてくる。その瞳がひどく悲しそうで訳も分からず胸が痛くなった。


 「いえ、当然のことをしたまでです」


 彼は立ち上がり城の方を見た。


 「アマンダ殿はもう少しかかりそうですね」


 王太子妃宮へはだいぶ距離がある。急いでもあと10分はかかるだろう。


 「そういえば、アンナから何か便りがあったかしら?」


 何か話題を、と私は聞いた。


 「いいえ。下手に送れないのでしょう。そろそろ戻っていてもおかしくないのですが」


 ユナリアとミスイの件はアンナがフロント子爵にも共有済みだ。となればオーラントも然りである。


 もし、ユナリアの魔力をミーシャ様が利用していたとしたら、許すことができない案件だ。それによって自領の民の生活だけではなく、これまで薬として使用していた平民達までも困っているのだ。

 

 そうであれば、絶対、許すことなどできない。


 「そういえば、王宮医がフロント子爵を褒めていたわ。魔力の吸収は今のところ、フロント子爵しかできないって……そうなの?」


 「魔力は人それぞれの色があります。似たような性質を持っていることもありますが、人の性格が違うように魔力も同じです。それを吸収するのは、自分の魔力と反発し合ってしまうので、難しいと言われています」


 「なるほど……それをできるフロント子爵は本当に優秀なのね」


 「リオンは別格だからな」


 ふと気になっていたことを聞いてみた。


 「フロント子爵家は、文官としてずっと家臣でいるけれど、魔法にも優れている家系なの?」


 「どうしてですか?」


 ずっと気になっていた。チェリアナ王妃の平民で語られている話を聞いてからずっと。


 生命力を魔力で与えることのできたチェリアナ王妃が、その逆も可能であったという物語。

 ミスイの花の魔力を吸収できるフロント子爵。


 何か関係があるのではないかと、ずっと気になっていたのだ。


 「……チェリアナ王妃の平民で語られている話を知っているかしら?」


 「……ええ、知っています」


 もし、本当に第2王子が生きていたのなら、チェリアナ王妃の血を引く彼らの子孫は、同じような魔法を使えるのではないか。


 ミーシャ様やフロント子爵は、もしかして……

 

 「フロント子爵のご先祖は……」


 「私の先祖は歴とした、ルームス国貴族のフロント家ですよ」


 「そ、そうよね」


 「物語は物語です。200年近く前の話ですし、どこかで尾ひれがついたのでしょう。それに私の場合は()()を吸収しますが、物語では()()()となっています。人の生死までも扱う魔法は未だ存在しないです。神への冒涜ですから……どんなに優秀な治癒魔法師でも医者でも、死から目覚めさす方法は未だありません」


 「そうね、私が浅はかだったわ」


 それに、もし、フロント子爵がそんな魔法を使えると知れば、王族は黙っていないだろうし、国を揺るがす一大事になるだろう。


 「……アマンダ殿が戻られたようです」


 アマンダが駆けてくる。そんなに急がなくてもいいのに、相当な距離を走ったのではないだろうか。まぁ、彼女は鍛錬を積んだ侍女であるから、平気なのだろう。


 「ジェシカ様っ!アンナが戻りました」


 息も切らさず告げれば、私の前でかがみ込み靴を変える。

 

 「早く戻りましょう」


 私達は王太子妃宮への帰り道を急いだのだった。

 

 

ジェシカの護衛はいつもいます。ただ、距離を置いてなるべく気配を消しています。

アマンダは武家出身なので、護衛も兼ねた侍女です。



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