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13.違和感と治癒魔法


 「胡散臭いってどういう……」


 アマンダを除く3人の顔が真剣でさすがに警戒する。


 「うーん、これに関しては俺のは直感だ。だから何とも言えないんだ。ただ……」


 そう言ってフロント子爵を見るオーラント。


 「私も根拠はないのです。ですが、ミーシャ様の治癒魔法を拝見していた時に、違和感を感じたのです」


 「違和感?」


 「ええ、確かに回復をされていたので()()なのだと思うのですが……」


 「何が違うのかしら……?」


 「本来、治癒魔法っていうのは、人の身体の異常を治す魔法、ですよね?」


 「ええ、そうなるわ」


 「ですが、ミーシャ様の治癒魔法は治癒する過程がないように感じたのです」


 「……過程?」


 その分野においては、特に魔法は苦手なのだ。治癒魔法に関しては、10歳の頃に我が家に見習い訓練に来ていた男の子が使っていて、羨ましくて練習したが、からっきし駄目だった。

 あの頃は、何か一つでも兄や妹とは違う特技を見出したくて必死だった。けれど、出来なくて落ち込んではその子に慰められた懐かしい記憶だ。短い期間だったけど、金髪のさらさらした髪で女の子のような綺麗な顔をしていたな。


 「私が説明します、ジェシカ様」


 それまで黙っていたアンナが口を開いた。


 「治癒魔法はまず、医学的な知識がなければ使いこなせませんよね?ただ治そうと手を当て魔力を放てば治るというものではないです」


 確かに、その当時必死に傷を治そうと魔力を込めても何も起こらなかった。その男の子が傷の癒える過程を理解しないといけないと言っていたっけ。


 「そういえば……そんな事だったかもしれないわ」


 フロント子爵が目を細める。そんな事も知らないなんて呆れている、そんな表情だ。


 「ごめんなさい、魔法に関しては苦手で」


 「治癒魔法に関しては難しいので普通ですよ。それに、医学的知識をつけても治癒魔法においては、何というかセンスみたいな感じで得意不得意が顕著に現れます。知識を元に脳内で治癒する過程を思い浮かべながら、それに合った魔力を流さなければ、治癒魔法は成立しません」


 「それが、難しいのよね……」


 「はい。なので、治癒魔法師が少ないのです。というか、現に今は王宮所属1名と治療室に2名……治療室勤務は私と同じようなレベルの魔法師です。王宮勤務の方も全ての傷病を治せるかと言われればそうではないのです」


 王宮専属の治癒魔法師は1人だけで、王族の健康管理は王宮医師と2人で担っている。医師は薬や外科内科的処置を中心にアプローチするので、治癒魔法専門ではない。

 なぜ、医師と治癒魔法師を分けているかというと、やはり便利な魔法に頼りすぎるのは、危険だという考えからきている。治癒魔法師が少ない今、魔法以外の知識や技術が衰退していくのを防ぐために、医師はそれ以外の知識と技術を極め発展させ、後世に繋いでいく役割も担っているのだ。

 

 稀に医師が治癒魔法師を兼任している事もあるが、ほとんどいない。やはり、魔法や医学の得意不得意というものがあるのだろう。


 「それで、ミーシャ様の魔法ですが、病状を把握しそれに応じた治癒魔法ではなかったのではと感じるのです。彼女の発言を覚えていますか?」


 私はあの日の会話を記憶に辿る。


 「ミーシャ様は、ただ祈っていただけ、そう言ったのです。それで助けられるなら魔法が使える皆んなが祈りで治癒させるはずです」


 「それを……無意識にできる才能があったとか?」


 「そうですね、そういう可能性もあるかと思います。ですが、私も……その、気になって少し見にいったのですが……」


 「治療室に?」


 「そうです。そんなに注目されるなら、どんなものか見てやろうと思いまして」


 意地悪な顔で舌を出すアンナ。


 「そしたら、なんだか私とは違う魔法の波動を感じまして。それに彼女、診察や診断もなく治癒魔法を行使して、受けられた人たちは回復しているのです」


 「あの、アンナは治癒魔法が使えるの?」


 「あれ、言ってませんでしたっけ?はい、そうです。でも、私のは自己流ですし、擦り傷や疲労、頭痛など日常的にある症状だけですよ。やっぱり医学的知識を身につけるのは難しいし大変なので。お兄様も同じような感じです、ね?」


 アンナがフロント子爵を見る。軽く頷くだけでその他に何も反応がないが、この兄妹は凡人には出来ないことを当たり前のように話している。

 優秀さが違うな、と羨ましくなった。


 「それじゃあ、専門的な知識も持たず祈るように魔法を使うだけで回復させることができるミーシャ様の魔法は、とても画期的ということなのかしら」


 「はい、王宮専属の治癒魔法師にとっては目から鱗で、彼女の魔法を研究したいと言うほどなのです」


 「それで治療室で働いているね」


 「そのようです。なので、きっと違和感という点はさほど気になっていない模様です」


 彼女のように治癒魔法が使えるようになれば、治癒魔法師が増え、多くの人が治療を受けれる機会が増えるだろう。

 そうなれば、医師の知識や技術は衰退していくのだろうか。医師と治癒魔法師、どちらも上手く作用して医療文化が発展するのが理想ではあるが……。


 「以上の事から、ほとんど私達の勘ですがミーシャ様に違和感を感じているのです」


 「なるほど……それでお兄様も気をつけろと仰っているのですね?」


 「まぁ、俺的にはユナリアも引っかかるが、全部ただの勘だからな。なんとなくな、言っとこうと思っただけだ……その、そっちの方も、な?」


 「……?」


 オーラントの曖昧な言い方に首を傾げる。


 「いや、妹の恋愛事情に首を突っ込むのも気が引けるって言うか……」


 「っ!べ、別にエイドリアン様とは普通ですから」


 顔が熱くなる。兄に自分の恋愛感情を心配されるなんて恥ずかしすぎる。

 頬に手を当てながらオーラントから顔を背ければ、フロント子爵と目が合った。


 相変わらず無表情、いや仏頂面の方が合っているのかもしれない。そのまま恥ずかしい思いを引きずり視線をそらす。


 「エイドリアン殿下も他の女性とは線を引くべきですよね……誤解を与えかねませんから。その点で言えば少し、軽率といいましょうか」


 驚いた。フロント子爵が発言する。この件に関してはあまり関心がなさそうなのに。

 

 「その、エイドリアン様はお優しいので。誰に対しても親切で紳士的なのです」


 そこがまた惚れてしまう所なのだ。あんな整った顔で優しくされると誰だって好きになってしまうと思う。


 「紳士ですか……私からみれば少し女性との距離が近いようにも見受けられます」


 フロント子爵の目が意地悪く細められたように見えた。エイドリアン様を良く思っていない事が何となく分かった。

 「あぁ、俺から見てもちょい、人たらしだな」とオーラントがぼそっと呟く。


 「誰に対しても分け隔てなく関われる方なのです」


 昨夜の事であれだけ傷付いたのに、必死にエイドリアン様をかばう自分がおかしい。でも、日頃から無愛想な彼に言われるのは納得できなかった。


 それに、その表情。きっとフロント子爵も私に対して苛ついている。なぜだか分からないが……でも彼はきっと、私の事が嫌いなんだと思う。

 

 「ウォルス伯爵令嬢との距離も、妃殿下から忠告した方がよろしいかと。周りはそれで良くも悪くも噂しますから」


 良くも悪くも。それを1番気にしているのは私である。側妃なんて噂されて、1番傷付いているのは私であって、事実を言われてムッとすると同時に、エイドリアン様の最近の行動を思い出し、再び悲しくなった。


 「それは……私とエイドリアン様の問題ですから」


 そう突っぱねれば、フロント子爵も今度は表情を隠そうとせずに、あからさまに苛ついた顔をした。


 「妃殿下は、」


 「はーい、そこまで。お兄様、ジェシカ様はお疲れです。部屋に戻って休んでもらいます」


 アンナが間に入ってくれて、ほっとした。フロント子爵の指摘に心が耐えられそうになかった。

 どうして、こんなにも弱いのだろう。最近はより、感情面が不安定に感じた。


 アンナに促され席を立つ。ちらりと視線を向ければ、また無表情な顔のフロント子爵。その瞳が明らかに苛ついているのが分かり、視線を逸らした。


 どうして、そんなに冷たい態度を取れるのだろうか。アンナには申し訳ないが、私は彼が苦手だ。

 誰に対しても淡々と無表情で、彼こそ、もう少しエイドリアン様を見習えばいいのに。


 そう考えながら私は疲れた頭から、一旦、あらゆる思考を止めたのだった。

 


 

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