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11.直感 2

徐々にシリアスぎみになっていきます……

それでも良い方、どうぞお付き合い下さいませ。


 ミーシャ・ウォルス。

 蕩けるようなハニーブランドの豊かな髪を持ち、幼さの残る紅色の頬と屈託な笑顔、鈴が鳴るような可愛らしい声色。


 彼女が、王太子殿下をはじめ、その他数名を窮地から救ったという話は瞬く間に城の中で広まった。城で広まれば、貴族の耳に入り社交界、そして、平民達の間にも広がり、気付けば、治癒魔法が使える聖女と言われ始めていた。


 「そうそう、俺も治療室で治癒魔法を使う彼女を見たぞ。こう手を握って淡い光とともに傷が治ったのを見た。あの優しい笑顔、それだけで、本当に癒されたぞ」


 「俺なんか日々の業務お疲れ様です、って言ってくれただけで疲れがぶっ飛んでいったぜ」


 そんな会話が日常に飛び交い、今や彼女は国民のスターだった。


 そして、貴重な治癒魔法が使えるということで、側妃として迎えられるらしい、そんな噂まで囁かれるようになっていた。

 なぜかというと、貴族達は彼女の存在を王が逃すまいと考えていたし、平民は聖女が王子を救った恋物語として盛り上がっていたからだ。

 

 「ジェシカ様……噂は噂ですからね」


 「アンナ、えぇ、大丈夫。分かっているわ。彼女が素晴らしい治癒魔法師だって、素敵な方だって……人気者の彼女の話をしたいのは当たり前だわ」


 それに、側妃に関しては、エイドリアン様も跡継ぎのために、いずれ側妃を迎える可能性もあるのだ。そこをいちいち気にしていたら、正妃など務まらない。


 そう、王妃教育で散々言われてきたのだから。


 「それにしても健気ですよね。エイドリアン殿下を助けただけでも凄い功績なのに、更に治療室で治癒魔法師として働いているなんて」


 「健気すぎてなんだかって、私は思いますけどね」


 「アンナ、そんな事言ってはいけないわ。純粋に人のために働いてくれているのよ」


 「ですが、ジェシカ様。あの日だって、ジェシカ様が色々采配しなければ、」


 「アンナ、もういいのよ」


 「むぅ」


 あの日、彼らを助けたのはミーシャ様と医師や転移魔法を使ったお兄様達なのであって、私ではない。

 突如現れた天使のような彼女が、話題となるのは仕方ないだろう。事実なのだから。


 それでも、心の奥底では、自分も尽力したのに、という嫉妬心があるのは否めない。

 そんな自分が嫌すぎて、疲れる。


 どうも以前にも増して、ネガティブになるのだ。


 「はぁぁ」


 無意識に深い溜息が出ていた。


 それだけではない。1番の悩みは、エイドリアン様だ。あれから、彼の態度がよそよそしくて気になる。変わらず優しいのだが、なんだか以前より心ここに在らず、なのだ。


 かと言えば、やたら私に気を遣っている気がしてならない。優しい事には変わりないのだが……。


 それに、あれから一度も夜を共にしていない。まだ帰ってから3週間ほどだから、彼の体調も考えれば当然かもしれないが、不安になる。


 結婚してから半年、少なくとも1週間開くことはなかったのに。若い男性なら、もっと頻回に通うっていう閨教育は間違いだったのかしら?


 「それも人によるでしょうね……」


 「何がです?」


 「何でもないわ」


 アンナとアマンダがあまりにも心配そうにこちらを見るから、無理やり笑顔を作って安心させる。最近はそんな日々だ。


 悶々と頭を悩ましていたその日から数日後の夜、エイドリアン様が訪ねてくるという知らせが入った。

 これには、アンナもアマンダも気合が入りすぎて、夜着が過激すぎなものになってしまうのを止めるのが大変だった。

 

 必死にマシなものを選んだが、それでも、いつもより気合が入りすぎて恥ずかしくなった。


 「アンナの魔道具なんかに頼らずともジェシカ様は十分勝負できるほどの魅力をお持ちですから、大丈夫です。自信をお持ちになって」


 「私の魔道具を頼らずともが凄く引っかかりますが、そうです、ジェシカ様は男性が夢中になるボディをお持ちなのですから」


 「あ、アンナ、恥ずかしいわ……」


 鏡越しの自分を見て赤面する。これは、やり過ぎだ。

 なぜだろう、胸元が露出しすぎてる訳でもないし、夜着の丈が短すぎでもないのに、なぜ、こんなに卑猥に見えるのだろう。

 きっと、胸元でさりげなく結ばれる紐がレース越しの胸を強調していて、そしてさらりとした布が身体の線を表すくらい軽い生地だからだ。


 いつもより緊張して、エイドリアン様を待つ。気持ちはそんな気分ではないのに、身体は期待してしまっている自分に羞恥心を覚えた。


 扉からエイドリアン様が現れた。


 「ジェシカ、待たせて……」


 エイドリアン様が私を見て目を見開き、すっと視線を外した。


 あぁ、失敗した。


 「全然待っていませんわ」


 自分の胸元を隠すように夜着を握りしめた。こんなあからさま過ぎる格好は、やはり破廉恥に見えるだろう……。恥ずかしくて俯きながら僅かにシーツを引き寄せた。

 

 無言でエイドリアン様が隣に腰掛ける。こんなに近くにいて嬉しいはずなのに、今は隣にいないでほしい。

 

 「あ、あの。エイドリアン様、だいぶ顔色が良くなっているようで、安心しました」


 恥ずかしくて、エイドリアン様が何か言い出さないうちに、言葉を発する自分。


 「その、お疲れではないですか?まだ万全ではないなら今日はゆっくり……」


 「ジェシカ」


 「は、い」


 エイドリアン様が私の肩を押して2人一緒にベッドへ傾れ込む。そのまま、エイドリアン様が私の首筋に顔を埋めた。

 ぞくぞくする感覚が首から全身に伝わる。


 なんだかいつもより、エイドリアン様の余裕がないように感じたのは気のせいだろうか。

 彼の広い背中に手を回しながら温もりを感じ、自分が求められている、その幸せを噛み締めた。

 




 これは、成功と思って良いのかしら。


 シーツで身体を隠しながらエイドリアン様の隣に横たわる。

 珍しくエイドリアン様は起きていて、それだけで嬉しくてシーツを口元まで引き上げ、緩む口元を隠した。


 すると、エイドリアン様が上半身だけ起き上がり、肘を後ろに着きながら私の方を見た。


 「ジェシカ。君にお願いがあるんだ」


 「はい、何でしょう?」


 幸せすぎて、ふわふわした頭で答えた。


 「今度の建国祭で、ミーシャをエスコートしてもいいだろうか?」


 「……はい?」


 「ごめん、突然だったね。その、今回の功績を讃えて父上がミーシャに褒美を与えたいと仰るんだ。それで、王都にまだ慣れていないってことで、顔馴染みの僕がエスコートした方がいいだろうと……」


 顔馴染みといっても、この前会ったばかりではないのか。


 「あの、ミーシャ様にはお父様やご家族、ご親戚の方は?」


 普通、妻や婚約者がいればパートナーとし、結婚婚約をしていなければ、家族、親戚、それでも相手がいなければ、友人や知り合い、或いは恋人に頼むのだ。


 「ミーシャのお父上は今でも荒れていくユナリアの対処に追われていて来ることができないらしい。王都には親戚もいないし、婚約者もいないんだ。王都のパーティには参加した事がないから、不安らしく少しでも不安がなくなれば、と」


 「……」


 私は?私は1人で入場しろと言うのか。


 私のそんな疑問を汲み取ったのか、彼は慌てて付け加えた。


 「勿論、ずっとではない。始めは君と一緒だ。ただ、彼女が入場する時は僕がフォローするのがいいと思ったんだ」


 一気に幸せな気分から急降下。


 「それは、その必ずしもエイドリアン様でなくてはならない理由がおありで?」


 「さっきも言った通り、慣れない王都に不安を感じているんだ。陛下からの褒美となると尚更ね……」


 「先日会ったばかりのエイドリアン様でも、お助けした騎士様や魔術師様でもいいのでは?」


 私の言葉にエイドリアン様が口を引き結ぶ。

 

 「彼女は、ミーシャは……僕の幼馴染でもあるんだ」


 なんとなく、なんとなくそんな気がしていた。もしかしたら、以前からの知り合いではないかと。


 あの2人の雰囲気。あれは初対面の対話ではなかった。それに、これは直感だが、もしかすると彼女がエイドリアン様が婚約前に親しくしていた噂の女性なのではないか。

 

 多分だが、エイドリアン様はミーシャ様を少なからず想っている。そうでなくとも、惹かれ始めている、そう感じる。


 ショックと悲しさと怒りでどんな表情をしているのか分からなかったが、目尻が熱くなるのを感じた。


 この人は、建国祭という国のお祝いに、妻より幼馴染を優先しようとし、その上、それを私を抱いた後に話したのだ。

 抱かれる前なら今よりも少ない悲しみで終われただろう。私に甘い夜を与えておいて、突き落とすなんて、彼は意外に飴より鞭がお得意なのだろうか。


 最初から私に話すつもりだったのか。それとも……私のこの格好を見て、欲の方が勝ったのか。

 そうなると、彼女に惹かれながらも、私には欲情できるのか。  


 私は、彼の性欲の捌け口なのだろうか。


 ショックから怒りがふつふつと湧き上がり、色んな憶測が湧いてくる。


 全ては私の憶測だけれど、彼の言動がそう物語っているような気がした。

 ミーシャ様に向けていたあの眼差しは、幼馴染に対するものではない。あんな風に私は彼から見つめられたことがないから分かる。


 彼を酷い奴だと詰りたかった、あの女より私を優先するなんてと泣き喚きたかった。もっと、私に夢中になってとすがりたかった。


 けれど、そんな事したら彼を困らせるし、女神のような優しい王太子妃とは程遠いものになる。


 嫌われたくない。


 「……はい、分かりました。ミーシャ様の側で助けてあげて下さい」


 「ありがとう、ジェシカ。君ならそう言ってくれると思っていたよ」


 エイドリアン様はいつものように笑うと、そのまま横になって「おやすみ」と言った。


 寝息が聞こえ始めた時、悲しさと虚しさから私は静かに涙を流した。


 ひとしきり泣いた後に襲ってきたのは、言いたいことも言えず()()()()()自分に対しての怒りと嫌悪だった。


 窮屈だ、そう感じながらいつしか私は眠りについていた。



 

 

お読みいただきありがとうございます。

連載は初めてなので、投稿が不定期になってしまいますが、なるべく期間が開かないよう2〜3日間隔で投稿できたらと考えています。

お付き合い頂いている方々、よろしくお願いします^ ^

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